所有するという“化学反応”【渡邉千真:第十回】
2010/03/26
「大切に乗っていきたい」と語るその言葉通り、ドライビングシート回りには複数の神社のお守りが
渡邉千真の「車」にまつわる最初の記憶は幼稚園の頃だったという。
「実家が農業を営んでいて、軽トラに乗せてもらって畑に行ったり、その荷台で遊んだりしていた記憶はありますね」
渡邉家ではその軽トラックの他にも、日常の買い物やレジャーに出かけるための足としてワンボックスも所有していたという。いずれもアイポイントの高いタイプの車ばかりである。
「もちろん安全性を考えて大きな車を選んだという面もありますが、小さな頃から乗り慣れているからかやっぱりアイポイントの高い大きな車には惹かれますね。一度、この車で伊豆の方に旅行に出かけたことがあるんです。高い位置から見る、海岸沿いや緑の森といった光景はすごく気持ちよかったですね」
またラゲージの広さも選んだ理由のひとつだという。
「食材の買い出しもだいたい1週間分まとめ買いだし、洋服を買いに行くともちろん荷物がかさばるじゃないですか」
快適に過ごせるということ。便利に使えるということ。日常で役に立つということ。非日常で新しい光景に巡り合わせてくれるということ……。渡邉千真にとって、日産・ムラーノは、自分のライフスタイルに合うというだけの存在ではない。自らの可能性を広げてくれる存在でもある。乗り手と車の間に起きるであろう“化学反応”は、プロ集団における一流のアスリート同士の間で起きるものと似ているのかもしれない。
写真・佐々木朋広 Photos/SASAKI Tomohiro
さらなる自由をつかみ取るために【渡邉千真:第九回】
2010/03/24
本人のファッションも含め、落ち着いたトーンで統一された車内。質感の高い革のシートなども本人がセレクト
プロ2年目となる今年、渡邉千真は寮を出た。
「それまでは、数少ない一人になれる空間のひとつが車内でした。とりわけ寮とマリノスタウンとの往復の時間はイメージトレーニングや反省点の洗い出しのための貴重な時間でした。1年目というのは、練習場であるマリノスタウンと生活の場である寮、そして日産スタジアムをはじめとした試合会場……。どこに行っても同僚の選手やスタッフがいて、1人になれる時間はあまりなかった。やっぱり四六時中周囲に人がいるって、それだけで疲れてしまうこともあるんです。一人暮らしで自分のためだけに時間が使えるのはうれしいですね。たまに寂しく感じることもなくはないですけど(笑)」
また一人暮らしをスタートするとともに、車の用途も少し変わったという。
「以前はマリノスタウンから離れたところに寮があったから、練習には必ず車で向かっていたんですが、いまは近くなったので車で来るとは限りません。自転車で来ることもありますよ。あとは自炊をするようになったので、週に1~2回まとめて買い出しに行くようになりました。外食もするんですが、自分で作った方がカロリーや栄養のバランスをコントロールしやすいですから」
部屋は広くなり、食事や移動手段など、自分で決定できる範囲は増えてきた。自由を獲得するということは、すなわち責任が発生するということでもある。逆説的に言えばプロは責任を果たすほどに自由を獲得することができる。もちろんフォワードにおける“責任”とは、得点に他ならない。今後、どれほどの“自由”を渡邉千真が獲得できるかは、どれだけの“責任”を積み重ねられるかにかかっている。
写真・佐々木朋広 Photos/SASAKI Tomohiro
車は切り替えの装置でもあるんです【渡邉千真:第八回】
2010/03/19
取材が行われたのは練習場のある、横浜・みなとみらい地区の「マリノスタウン」。クラブハウスにもトリコロールが配色されている
渡邉千真と同じように、同僚の選手でもムラーノをセレクトする選手は少なくない。
「でも他の選手やスタッフの車を見ていると、僕のムラーノは少し違うんですよ。冬にスノボをするような人はルーフレールを付けていたりしますけど、僕は特にウィンタースポーツをするわけでもないですし……。でもこだわりがなかったわけでもないんです」
スタジアムでは青、赤、白というチームカラーのトリコロールのユニフォームと、黄色のスパイクに身を包んでいるが、日常の渡邉千真は「モノトーンのような落ち着いた色使いのものが好き」なのだという。この日も、デニム+モノトーンのアウターという落ち着きとカジュアルさを持ち合わせたコーディネイトで現れた。ムラーノのボディカラーもスーパーブラックをセレクトしている。
「あと気に入っているのが内装のウッドパネルとレザーシート。ウッドやレザーという質感がモノトーンと組み合わせられるって高級感があっていいじゃないですか」
試合のフィールドにおけるトリコロール。そして日常に身にまとうモノトーン。オンとオフを切り替えることの大切さを若かろうとも“プロ”は知っている。そして渡邉千真の愛車・ムラーノはそのための装置でもある。
写真・佐々木朋広 Photos/SASAKI Tomohiro
照れくさい今季、初ゴール【渡邉千真:第七回】
2010/03/17
中村俊輔選手の加入、チーム初勝利、そして自身初ゴール――。横浜F・マリノスで「9番」を背負う渡邉千真の2010年シーズンは3月13日に幕を開けたと言えるのかもしれない
3月13日(土)、横浜F・マリノスは今シーズンのホーム開幕戦となる第2節を日産スタジアムで闘った。対戦相手は今シーズンJ2から昇格してきた湘南ベルマーレ。F・マリノスにとっては勝たなければならない相手だが、ともに神奈川を本拠とする“ダービー”である以上、相手にも意地はある。
しかしこの試合は横浜F・マリノスにとって絶対に負けられない――。それどころか、いい形で勝つことが絶対条件となる闘いだった。まず、今季の開幕戦のFC東京戦でアウェーながらも引き分け目前のロスタイムに失点し、黒星スタートに。開幕連敗は何としても避けなければならない。さらにはこの第2節は図らずも欧州リーグから帰還した中村俊輔選手の復帰戦となった。日本を代表する選手の復帰戦、しかもホームゲームで万が一敗れるようなことがあれば、選手、チーム、サポーターにどれほどの動揺が走るか想像もつかない。
ゲームは序盤からF・マリノスが支配する。試合が動いたのは前半22分。この日、チームに復帰した中村俊輔選手のコーナーキックをディフェンダーの栗原勇蔵がヘディングで合わせて、先制点を奪取。前半を1-0で折り返した。
負けられないのは、チームだけではなかった。「今季は20ゴールを狙う」と言い切った渡邉千真は、0-1で敗れた開幕戦では不発に終わっていた。この第2戦はゴールを絶対に挙げたい試合だったのだ。
後半16分、左サイドをF・マリノスのミッドフィルダー、山瀬功治選手がドリブルで突破し、左足でシュート。いったんは弾かれたこぼれ球に渡邉千真が詰め、今季初ゴールを挙げた。ゴール内の選手からかき出されそうにも見えた分、気恥ずかしそうにもしていたがゴールはゴール。試合はその後も危なげなく進み、後半ロスタイムには中村俊輔選手に代わって出場した狩野健太選手がミドルシュートを相手ゴールネットに突き刺した。
結果、チームは3-0という見事な勝利を収め、渡邉千真も20ゴールという「今季の目標」へ向けてのひとつめのゴールを挙げた。こうして得点を積み重ねることが、自身の目標へ、そしてチームの優勝へとつながっていく。
写真・佐々木朋広 Photos/SASAKI Tomohiro
モニターに隠された“いたずら”【渡邉千真:第六回】
2010/03/15
高校/大学での1年先輩にあたる兵藤慎剛選手など、入団初年度から若手との交流は深い。が、それがこんな事態を引き起こしてしまうとは……
「一人になれる貴重な空間」だという愛車のムラーノは、時にチームメイトを乗せての移動車にもなる。
「練習やホームでの試合の後には、車内が広いからか、みんながこの車に乗り込んできて『メシ食いに行こうぜ』なんて流れになることもあります。広いことに加えて、後席用のモニターもあるから、居心地がいいみたいですね」
そこで後席のモニターをオープンして頂いたところ、ご本人も驚愕の事実が発覚した。
「え-っ!? 何これ。こんなの知らないですよ!」
何とモニター上には、ユニフォームをかたどったステッカーがべったりと貼りつけられていたのだ。
「どこかにメシでも食いに行ったとき、僕の目を盗んで貼りつけたんでしょう。たぶんこういうことをするのは……、まぁ、はがせるからいいか」
車内でチームメイトと過ごす、つかの間のリラックスした時間――。そうして鋭気を養い、次なる闘いに備えるのがプロのアスリートでもある。次節、3月20日(土)にはまたも神奈川ダービーが行われる。相手はこの数年で上位の常連となった川崎フロンターレ。この難敵を再びホーム、日産スタジアムで迎え撃つことになる。
写真・佐々木朋広 Photos/SASAKI Tomohiro
iPod×ムラーノ=一人の時間【渡邉千真:第五回】
2010/03/12
日常的に持ち歩くiPodを車内ではオーディオポッドに。まさに「かくあるべし」というような正しい使い方である
横浜F・マリノスにとってのホーム開幕戦は、13日(土)に行われる湘南ベルマーレ戦となる。そしてこの試合は、日本中が待ち焦がれた中村俊輔選手のお披露目となる可能性が高い。
アウェイとはいえ開幕戦を落としたチームにとって、ホームの開幕戦は確実に勝ちたいところ。しかも相手は今年、J2から昇格したばかりの湘南ベルマーレ。取りこぼしは許されない。
「個人的には、なるべく早い時期に1点取りたいですね。そうすれば、リラックスして試合に臨めるようになりますから」
そしてムラーノという愛車はリラックスするためのツールにもなるという。
「車内って、一人きりになれますよね。集中したり、ボーッとしたり、リラックスしたり……。そういう時間が確保できるのは大きいんです」
そうした時間に欠かせないのが、iPodに詰め込んだ音楽たち。
「あまり音楽性への細かいこだわりはなくて、何でも聴きますけど、ジャンルとしてはJ-POPが多い気がします。いまiPodに入っているのは、JAY'ED(ジェイド)に安室(奈美恵)ちゃん、それとGReeeeNあたりですね」
ホーム開幕戦は、13日(土)14時。もちろん会場は、2002年ワールドカップ決勝の舞台にもなった日産スタジアムである。
写真・佐々木朋広 Photos/SASAKI Tomohiro
勝利へ向けて【渡邉千真:第四回】
2010/03/10
プロのアスリートにとって、移動手段として「4輪」は欠かせない。バスでの移動は試合前の肉体・メンタルの負担を軽減し、チームとしての一体感を高めていく
3月6日、2010年のJリーグが開幕した。横浜F・マリノスの開幕戦は、FC東京を相手にアウェイとなる味の素スタジアムで行われた。背番号9を背負って2年目のシーズンとなる渡邉千真は先発の11人に名を連ね、ピッチに立った。前半35分にはポストプレーからこの試合最大のチャンスを生み出した。
だが結果は0-1での敗北……。国見高校時代の1学年先輩でもあるFC東京の平山相太は代表FWの座を争う相手でもある。その平山相太は決勝ゴールを決め、渡邉千真は決められなかった。
「代表のことはさておき、まずは激しくなっているチーム内でのFW争いを勝ち抜くことが先決です。今季はリーグ戦で20点は取りたい」
2009年のシーズンではリーグ戦34試合に出場し、13得点を重ねた。新人FWの2桁ゴールは1994年の城彰二以来15年ぶり。いや33試合で12得点の城彰二を上回る好成績を挙げたのだ。このゴールの量産ぶりに、渡邉千真は2009年の新人選手としては、他のどのチームの新人選手よりも早くプロA契約――主力選手としての契約を結んだ。シーズン終了後には、現在日本代表でのレギュラーFW、清水エスパルスの岡崎慎司選手を押さえて新人王を受賞した。
「やはり新人王という個人タイトルを頂いたので、それにふさわしい成績を取りたいですね。あと個人タイトルもさることながら、やはりチームとしてのタイトルが欲しい。横浜F・マリノスと言えば、“強豪”。でもこの数年中位から抜け出せず、自分が加入した昨季も10位ですから、チーム成績を少しでも上げるのが目標です」
まだ第1節が終わったばかり。まだ何も終わってもいない。いや、もしかすると始まってさえいないのかもしれない。
写真・佐々木朋広 Photos/SASAKI Tomohiro
夢見たあの選手がやってきた【渡邉千真:第三回】
2010/03/08
加入報道のさなかでも、淡々とシュート練習を行う渡邉千真選手。定評あるシュートの精度の高さが、今季はより活かされるに違いない
2010年のJリーグ開幕直前の2月、各チームとも既にシーズンを戦う戦力が出そろった頃、渡邉千真の耳にビッグニュースが飛び込んできた。チームOBであり、イタリア・セリエAやスペインのリーガ・エスパニョーラなどで活躍した日本代表の中村俊輔選手が復帰するというニュースだ。
「時期が時期だから少し驚きましたけど、FWの僕としてはそりゃあうれしいですよ。昔から中継などで見ていましたから、既にイメージは持っています。中盤で(中村俊輔選手が)ボールを持ったら、動き出せばボールは出てくるはず。すごく楽しみですね」
ルーキーイヤーの昨シーズンに引き続き、渡邉千真が背負う背番号は「9」。“新加入”する中村俊輔選手の背番号は97年のルーキーイヤーに背負った「25」。2月28日に行われた入団会見の翌日、スポーツ紙には「千真をW杯に連れて行く! 俊輔が横浜育成宣言」という見出しが躍った。
「もちろん代表のことも頭にありますが、まずはチームで結果を出すことが先決。そのための環境はさらに整ったと言えると思います」
入団会見での中村俊輔は「黒子に徹して若い選手のいいところを引き出したい」「10点以上取る選手がもう一人くらいいないと上位に行けない」と語った。昨シーズン、ルーキーにして13ゴールを決めた若手の存在は、既に背番号「25」の頭脳にインプットされている。
写真・佐々木朋広 Photos/SASAKI Tomohiro
免許を取ったのは入団直前でした【渡邉千真:第二回】
2010/03/05
マリノスタウンの選手・スタッフ用の駐車場にはずらりと日産車が。壮観である
卒業を間際に控え、渡邉千真はプロになるための準備に追われていた。そして愛車を購入する前に、やらなければならないことがあった。そのひとつが「免許」である。
「実は僕、卒業間際まで免許を持っていなかったんですよ。入団するといつ免許を取りに行けるかわからないから、12月にあわてて免許を取ったんです。いま思えば、もっと早く取っておけばよかったとは思うんですが、学生時代にはそこまで考えが及びませんでした(笑)」
早稲田大学在学中は車を必要としない寮暮らしだった。しかしプロになれば、横浜F・マリノスの新人が入る寮から練習場のあるマリノスタウンまでは車で通勤することになる。
「実際、納車されるまでは、人の車に乗せてもらったりしていたんです。後輩――というか、年下の“先輩”の車に乗せてもらったりしていたから、肩身が狭くて。もともとはそんなに車に興味があった方ではないんですが、早く自分の車が欲しくなりましたね」
もともとの興味はともかく、通勤に必要となると話は変わる。
「速そうな車も魅力的だったんですが、やっぱり4駆の大きな車が気持ちよさそうで、ムラーノを選びました。チームがチームですから、そりゃあ日産車を選びますよ(笑)」
そして所属する横浜F・マリノスには、2010年シーズン開幕直前、ビッグニュースが飛び込んできた。
写真・佐々木朋広 Photos/SASAKI Tomohiro
“プロ”の自覚【渡邉千真:第一回】
2010/03/03
1年間のプロ生活でサイン姿もすっかり板についた。といっても、横を通り過ぎる同僚選手からは冷やかされることも少なくない
昨年、2009年1月に行われた、Jリーグ、横浜F・マリノスの新チーム発足会見で、いきなり背番号「9番」を背負うことになった新人はこう言った。
「たくさんのゴールを取れるようにしたい。期待とプレッシャーを感じていますが、いいモチベーションに変えてがんばりたい。今シーズンは2ケタ得点を目指します」
毎年、Jリーグ開幕時に新人として大きな話題を呼ぶのは、その年の高校サッカー選手権で活躍した高卒ルーキーということが多い。実際、2009年の開幕前も新人選手として、もっともメディアをにぎわせたのは鹿島アントラーズの大迫勇也だった。当時F・マリノスを率いていた木村浩吉監督に「ポジションを空けて待っている」とまで言わせ、9番というレギュラーFWの背番号――つまりポジションが与えられたも同然という“大物ルーキー”にも関わらず、渡邉千真のメディアへの露出は、開幕前には決して多くはなかった。
渡邉千真という選手は、初対面の相手に対してどちらかというと饒舌なタイプではない。もちろん気心の知れたチームメイトや関係者には軽口を叩くこともあるが、基本的には訥々と話すタイプだ。そんな選手が口にした「二桁得点」。それは達成できるという自信と、達成するという意気込みの表れだった。
「ちょうどその頃です。ムラーノに決めたのは」
まだプロC契約――年俸480万円以下、出場時間450分以内という文字通り「駆け出し」の頃、渡邉千真は自らに枷をはめたのだ。
写真・佐々木朋広 Photos/SASAKI Tomohiro









