▲「フィーリズム」はドライバーの脈波から眠気の傾向を検知し、ドライバーや運行管理者に対し安全運転を支援するウェアラブルセンサー ▲「フィーリズム」はドライバーの脈波から眠気の傾向を検知し、ドライバーや運行管理者に対し安全運転を支援するウェアラブルセンサー

日本人は睡眠時間が短い!? 居眠り運転をしない方法とは?

日本人の睡眠時間は世界一短い!? 睡眠時間を計れるウェアラブル端末「UP」を製造するジョウボーン社が、同端末のユーザーを調査したところ、日本(東京)の平均睡眠時間は5時間46分で、世界の都市で最も短かったのだとか。確かに「昨日も3時間だよ~」という方は、周りにも結構多いかも。そんな状態で運転をして、ガムをかんだり、大声で歌ったり、足をつねったりして、眠気と闘った人も多いのではないだろうか。

そんな中、居眠り運転が撲滅できるかもしれない最新技術を発見した。富士通が発表した「FEELythm(フィーリズム)」は、眠気を感知してドライバーを助けるウェアラブル端末。驚くべきは、「居眠り運転を事前に感知できる」というところ。いったいどんな仕組みなのか。開発担当者を訪ねた。

▲お話しを伺った、富士通 ユビキタスプロダクトビジネスグループ エンベデッドシステム事業部の楠山倫生氏 ▲お話しを伺った、富士通 ユビキタスプロダクトビジネスグループ エンベデッドシステム事業部の楠山倫生氏

居眠り運転を事前に感知できるウェアラブル端末とは

「フィーリズムは、運転者の安全運転を支援するウェアラブルセンサー。当初は事業用自動車向けに販売します」と教えてくれたのは、担当者の1人であるエンベデッドシステム事業部の楠山倫生氏。具体的には、耳たぶに装着したセンサーから脈波などの生体データを取得。そのデータを専用の無線装置に転送して眠気を解析する。眠気があると判断されたら、装着したセンサーを振動させてドライバーに通知すると同時に、運行管理者にも通知を行うといった仕組みなのだとか。

しかし「居眠り運転を事前に感知できる」とは、どういった仕組みなのだろう。エンベデッドシステム事業部でシニアマネージャーを務める山添雅秀氏はこう語る。

「眠気には、自律神経が大きく関わっています。覚醒しているときは交感神経が、眠気を感じたりリラックスしたりしているときは副交感神経が優位に立っているのですが、副交感神経が優位になるときには、活発だった脈波、いわゆる、脈と脈との間隔がだんだんと一定になっていきます。フィーリズムでは、この体のメカニズムを利用して、耳たぶから取得した脈波を独自のアルゴリズムで解析し、眠気レベルを検知しているんです」

▲こちらが富士通 エンベデッドシステム事業部 ソフトウェア開発センターの山添雅秀シニアマネージャー ▲こちらが富士通 エンベデッドシステム事業部 ソフトウェア開発センターの山添雅秀シニアマネージャー

なるほど。脈波から副交感神経の働きを察知するから、自分でも把握できていないこれからの眠気を察知して「居眠り運転を事前に感知できる」というわけか。

さらにフィーリズムが秀逸なのは、使えば使うほど賢くなるというところだ。脈波は個人によってばらつきがあるのだが、数分間の使用で個人の基準値を作成して記憶。その基準値をもとに脈波のゆらぎを修正するので、正しく眠気を判断することができるのだ。また、学習機能を備えており、1~2週間継続して使用することで、時間帯別の脈波の特徴なども把握してより眠気を検知する精度が上がっていくのだという。

フィーリズムは覚醒ではなく、休憩を促すもの

実際に装着させてもらったが、見た目からは想像できないほど軽量だった。運輸業のプロドライバーが装着することを想定しているので、長い時間でも違和感なく、確実に着けていられることを目指したという。一見大きく見えるのは、長時間使用を可能にするための電池によるものとのこと。振動部は鎖骨にあたるように設計されており、少し厚めの洋服でもダイレクトに震えを感じることができた。

▲約90gの本体を首にかけ、イヤクリップセンサーを耳に装着して、脈波や自律神経状況などのバイタルデータを取得する。長距離運行での活用を想定し、5日間の連続使用が可能 ▲約90gの本体を首にかけ、イヤクリップセンサーを耳に装着して、脈波や自律神経状況などのバイタルデータを取得する。長距離運行での活用を想定し、5日間の連続使用が可能

「これならば、効率的に目覚めさせることができそうだ」といった感想を述べると、「フィーリズムが重要視しているのは、目を覚まさせるというよりも、休憩を促すという部分です」と楠山氏から指摘があった。確かに、睡眠不足による眠気の解消には休憩が最も効果がある。

ここまで読んで「眠気を感知して休憩を促すだけの機械?」と感じた人もいるかもしれない。確かに、個人差がある脈波を感知して、眠気を分析するアルゴリズムは凄い。しかし、大仰な、と感じる心境も理解できる。そこで、あえてフィーリズムが目指すところを尋ねてみた。

脈拍のビッグデータで交通リスクが顕在化するかも

「富士通の得意分野にビッグデータの分析があります。もちろん車に関する情報もたくさん持っていますが、車を運転するときの脈波に関する情報は持っていなかった。もし、このデータを活用できれば、様々なことに生かせます」と楠山氏。

例えば、多くのドライバーの心拍数が上がる地点があれば、何かしらの危険や緊張を強いる何かがあるのかもしれない。そのような場所を集めたハザードマップを作成し、ルートから外すこともできる。多くの人が眠気を感じる道も同じだ。また、ドライバーが眠気を感じる時間帯を分析すれば、より運行に効率の良い勤務形態を組むことができるかもしれない。

楠山氏は「将来的には、自動運転の補助になることも見据えています」と付け加えた。「例えば、自動運転の技術が進んだとき、自動運転から人間の運転に切り替えるときにある問題が発生します。それは、その人間に意識があるかどうか。もし居眠りをしていたり、意識を失っていたりしたら、自動運転が解除された途端に事故になってしまいます。しかし、脈波で状態を把握しておけば、覚醒状態のときのみ、運転の切り替えを行うことも可能です」

今後は、専用機器以外にもスマートフォンを利用した眠気情報の通知も検討しているという。当分は事業用自動車のみの販売とのことだが、自分でも気づかない眠気を教えてくれるスマホアプリがあれば、個人でも使ってみたい。今後の展開に期待したいところだ。

text&photo/コージー林田