▲パシャッと気軽に撮っただけなのに、なんとも絵になる1枚。日常生活ではあり得ない、海岸×車というロケーションの力のおかげだ ▲パシャッと気軽に撮っただけなのに、なんとも絵になる1枚。日常生活ではあり得ない、海岸×車というロケーションの力のおかげだ

日本で唯一、渚を走れる道路がスゴいぞ

今年3月、鳥取砂丘に車で侵入して走り回ったという事案がニュースになった。侵入者は「砂の上を走ってみたかった」と供述しているとのことだが、砂丘中心部は国の天然記念物で車の乗り入れは禁止されている。「知らなかった」とはいえ、おいそれと許される行為ではない。

▲鳥取砂丘の広さは南北2.4km,、東西16km。山陰海岸国立公園の特別保護地区に指定されている ▲鳥取砂丘の広さは南北2.4km,、東西16km。山陰海岸国立公園の特別保護地区に指定されている

しかし、車好きとしていろんな道を走ってみたいという気持ちはわかる。砂の上、確かに興味があるだろう。だったら、合法的に砂の上を走れる場所を教えようではないか。

ということで、やってきたのは石川県。北陸新幹線の開通で賑わう金沢市には目もくれず、市内から車で30分程度走った場所にある「千里浜(ちりはま)なぎさドライブウェイ」だ。

▲海岸近くまで行くと道路標示を発見。海水浴場の看板と並んでるけど、本当に走れるのか? ▲海岸近くまで行くと道路標示を発見。海水浴場の看板と並んでるけど、本当に走れるのか?

千里浜なぎさドライブウェイは、能登半島西部・石川県羽咋市から宝達志水町にかけて延びる約8kmの観光道路。波打ち際を走行できるのは日本で唯一、そして世界でも珍しい。

ちなみに、海岸の利用者が増える海水浴シーズンは、一時的に道路交通法が適用され、交通標識の設置やパトカーによる巡回も行われるという。なるほど、途中にあった海水浴場の看板は間違いじゃなかったのね。

▲早速、砂浜へ侵入。スタックしないかちょっと心配 ▲早速、砂浜へ侵入。スタックしないかちょっと心配

走行するのに料金は必要ないし、24時間いつでもOK。取材時はまだ海水浴シーズンではなかったので、道路標識なども設置されていなかった(だからといって無謀な運転はダメ。マナーを守って走行しよう)。

ただし、風が強く波が高い日は危険なので道路は閉鎖される。この日は運良く入れたが、冬場の日本海は荒れることも多い。走行可能かどうかは、羽咋市のホームページにあるリンク先で確認できるので、事前にチェックしておきたい。

▲悪天候時や波が高いときは、入り口が閉じられてしまう ▲悪天候時や波が高いときは、入り口が閉じられてしまう

どうして砂浜なのにタイヤが沈まないの?

砂上で沈み込んでしまうような感じは思ったより、というか全然なかった。見てみると、タイヤがまったく沈み込んでないのだ。いったい、なぜ? 

その秘密は、普通の砂浜の砂よりもきめ細かい砂にあるという。千里浜の砂は角張った形で大きさも揃っており、そこに海水が混じることで固く引き締まり、タイヤが沈み込まないのだとか。

▲言葉にするより見てもらった方が早い。これが、全く沈み込んでいないタイヤだ ▲言葉にするより見てもらった方が早い。これが、全く沈み込んでいないタイヤだ

これだけ固いので、四駆でなくても走行可能。というか、バイクや自転車だって走れる。実際、ライダーにとっては絶好のツーリングスポットになっている。

▲この日も他県ナンバーのバイクが目立った ▲この日も他県ナンバーのバイクが目立った

驚いたのは、普通車やバイクだけでなく、観光バスまで走っていること。あんな重い車も沈み込まないんだ……。

▲大型バスになると10トンクラスの車重も珍しくない。それでも沈まない砂浜。恐るべし ▲大型バスになると10トンクラスの車重も珍しくない。それでも沈まない砂浜。恐るべし

なんて思っていると、実はこの道、「三十数年前、一人の観光バスの運転手が、広々とした波打ち際を思いっきり走れたらと、空バスを試走させたのがデビューにつながった」のが始まりとのこと。名もなき1人の英雄に拍手。でも、チャレンジングすぎるよ。

▲先ほどの説明は、こちらの碑文から引用させていただきました ▲先ほどの説明は、こちらの碑文から引用させていただきました

そして今では、自動車のみならずバイク、そして馬まで……。えっ、馬がいる! こんな風景、ドラマ『暴れん坊将軍』のオープニング以来だよ。と思っていたら、案の定、あのオープニングもここで撮影されたのだとか。

▲金沢市にある乗馬クラブ「ヴィテン乗馬クラブ・クレイン金沢」では、浜辺で乗馬できるコースもあるそう ▲金沢市にある乗馬クラブ「ヴィテン乗馬クラブ・クレイン金沢」では、浜辺で乗馬できるコースもあるそう
▲ここまでは、馬運車で輸送している様子。もちろん、その馬運車も砂浜の中に入ってきている ▲ここまでは、馬運車で輸送している様子。もちろん、その馬運車も砂浜の中に入ってきている

波打ち際を車で疾走。うーん、初体験

さて、他人様の話ばかりしている場合ではない。自分たちだって、波打ち際を疾走してみたい。BGMはスピッツの『渚』で行こう。桑田佳祐の『波乗りジョニー』でもいいな。“オトナの事情”で歌詞は掲載できないので、みなさん自分で調べてちょうだい。それでは、レッツゴー。

最初はおそるおそるアクセルを踏んでみる。ん、下手な凸凹道路よりも滑らかに走れるかも。

▲轍もできずにスムーズに走行 ▲轍もできずにスムーズに走行
▲波打ち際から離れると砂にしっかりと水分が含まれないので、バイクなどはスタックする可能性も。注意 ▲波打ち際から離れると砂にしっかりと水分が含まれないので、バイクなどはスタックする可能性も。注意
▲途中には焼き貝を食べさせてくれる小屋も ▲途中には焼き貝を食べさせてくれる小屋も

午前中で車が少ないこともあり、途中、波の音しか聞こえない瞬間がある。窓を開けると時期的にまだ湿度を帯びていない爽やかな海風が入り込んで気持ちが良い。波打ち際の散歩では珍しくないことだが、車内でこの感触を味わうのは初体験だ。

▲他の車に合わせて速度を上げてみる。こんな速度で波打ち際を走ること自体、なんとも不思議な感じだ ▲他の車に合わせて速度を上げてみる。こんな速度で波打ち際を走ること自体、なんとも不思議な感じだ

約8kmの道なので、10分程度で走破。往復しても20分だ。楽しいのでもう1回。

▲ゴールには終点の看板があった ▲ゴールには終点の看板があった

そんなこんなで走っていると、昼が近づくにつれて、レンタカーなどが増加。ちょっと混雑してきた。海を独り占めしたいなら、早朝をオススメしたい。でも、夕方に来て、夕日をバックに走るのも捨てがたいな~。

楽しむ前も、楽しんだ後も、砂に対するケアは忘れずに

初めての体験に満足して車から降りると、マットが砂だらけに……。あー、乗るときに靴を叩いて砂を落とすのを忘れてた~。みなさんはお気をつけください。

▲濡れた砂なので意外に落としにくい ▲濡れた砂なので意外に落としにくい

さらに地元のお父さんから「砂は海水を含んでるから、ボディの下まわりをしっかりと洗車しておいた方がいいよ」とのアドバイスを頂いた。確かに、そのままだと錆びちゃうな。こちらも、ご注意あれ。

日常ではなかなかできないドライブ体験。今盛り上がっている観光スポット、金沢にお出かけの際には、足を伸ばしてみてはいかがだろうか。

▲ちなみに、羽咋市はUFOの街としても有名。「千里浜レストハウス」のレストランには「UFOチャーハン」なるメニューも。夜の千里浜に出かけると、未知との遭遇しちゃうかも ▲ちなみに、羽咋市はUFOの街としても有名。「千里浜レストハウス」のレストランには「UFOチャーハン」なるメニューも。夜の千里浜に出かけると、未知との遭遇しちゃうかも
text/コージー林田