▲2006年6月から2009年4月までという短命に終わったダイハツ ソニカ。スペース効率よりも「走り」を追求した、近年まれに見るコンセプトの軽自動車だった ▲2006年6月から2009年4月までという短命に終わったダイハツ ソニカ。スペース効率よりも「走り」を追求した、近年まれに見るコンセプトの軽自動車だった

高距離遠征でもほとんど疲れない「軽自動車界のアルピナ」

釣りやその他アウトドア活動のための道具グルマは、基本的にはそこそこのサイズがあった方が絶対に便利ではある。しかし駐車場の寸法や維持費等々の観点から「ウチは軽自動車じゃないとダメなんだよね」という人も少なくはないだろう。かく言う筆者も、今使っている初代ルノー カングーから何らかの軽自動車に買い替え、生活と生活費のスリム化を図りたいとおぼろげに考えている。

しかし、その際に問題となるのが「運転自体を楽しめる軽自動車は少ない」ということだ。

いやもちろん、車は、特に道具グルマは「手段」でしかないため、運転の楽しさウンヌンはどうでもいいという人も多かろう。しかし筆者の場合は「でも行き帰りの運転自体も楽しめるに越したことはないよね」と考えるタチであるため、どうしてもドライビングプレジャーみたいなものも重要視してしまうのだ。

「ていうか最新世代の軽トールワゴンでいいじゃん。あれ、すっごくよく走るよ」という声があることも承知しているし、実際、最近の軽トールワゴンの走りにはドギモを抜かれることも多い。だがやはり、「運転自体が楽しい」という感覚とはちょっと違うのだ。かといってダイハツ コペンやホンダ S660で釣りに行くわけにもいかず(というか行けず)、「走って楽しい軽の道具グルマ選び」というのはわたしの中で常に頓挫し続ける。

だが、そんな頓挫中のある日唐突に思い出したのが、ダイハツが2006年にリリースした軽自動車の超名作「ソニカ」の存在だ。

▲爽快な走りでロングツーリングも楽しめるという、それまでありそうでなかったコンセプトの軽自動車、ダイハツ ソニカ。7速アクティブシフトも備える(当時)世界最軽量&最小の自社製CVTを採用している ▲爽快な走りでロングツーリングも楽しめるという、それまでありそうでなかったコンセプトの軽自動車、ダイハツ ソニカ。7速アクティブシフトも備える(当時)世界最軽量&最小の自社製CVTを採用している

ご承じのとおりソニカは、軽自動車の世界がひたすらのスペース効率競争に陥り始めたさなか、あえてロングホイールベース+低重心な「ロングツーリングも楽しめる快速軽自動車」として登場した意欲作だ。聞くところによればダイハツもこの車に関してはかなり気合を入れて開発したそうで、実際、とてつもなく素晴らしい走りを披露する軽自動車に仕上がっていた。

ソニカが登場した頃、筆者はアルピナ B3Sというドイツ製の高性能サルーンを所有していたのだが、高速道路におけるソニカは「これはもうほとんどアルピナだ!」と筆者に感じさせた。いや誇張でもフカシでも作りでもなんでもなく、本当にそう感じたんですよ!

▲高速道路をハイスピードで巡航していると、冗談抜きでアルピナか何かを運転してるような気分に? ▲高速道路をハイスピードで巡航していると、冗談抜きでアルピナか何かを運転してるような気分に?

しかしそんな筆者の驚きを知ってか知らずか、ソニカはあんまり売れなかった。「時代はやっぱりスペース効率!」ということだったのだろう。残念ではあるが致し方ない。だがソニカの実力や伝説というのは広く知られるところではあるので、今なおその中古車は一部で人気を集め、良質な個体は結構なプライスで広く売買されている。

それを釣り車として使ってみてはどうだろうか? と思ったのだ。

「うむ、我ながらいいアイデアだ!」と独りごちた筆者だが、同時に「ところでタックル(釣り道具)は載るだろうか?」という疑問も頭をもたげた。当然である。同じダイハツの軽自動車でもムーヴならさておき、ソニカは屋根の低いロングツアラーだ。手荷物以外の荷物を載せる空間など特に用意されていない可能性もある。そして2006年当時は釣りもアウトドアもまったく興味がなかったため、ソニカの荷室形状とスペースがどんなものだったかまるで記憶にない……。

記憶にないものは調べるしかないということで、とある販売店の協力を得て筆者のロッド(釣り竿)一式をソニカの後部に積んでみた。

▲ちなみにこちらは実験後に見つけた昔の画像。最近のトールワゴンと比べて室内のスペースは(感覚的に)半分ぐらいという感じでしょうか…… ▲ちなみにこちらは実験後に見つけた昔の画像。最近のトールワゴンと比べて室内のスペースは(感覚的に)半分ぐらいという感じでしょうか……
▲とはいえ後部座席を倒せばそれなりの荷物を積載することもできなくはありません ▲とはいえ後部座席を倒せばそれなりの荷物を積載することもできなくはありません

で、実験結果は以下のとおりだった。

●8.6ftの2ピースロッド:2ピースにバラした状態で、後部座席の片側を倒したうえで斜めに配せば、床面にフツーに置くことができる。割と楽勝。
●7.3ftの2ピースロッド:2ピースにバラした状態であれば楽勝。
●10.6ftの2ピースロッド:2ピースにバラした状態で後部座席の片側を倒し、ロッドを斜めに配し、そして助手席ヘッドレスト上部の空間まで使えば、なんとかなるはなる。

そしてこの結果から、以下の結論が導き出された。

■釣りに行くのはほぼ常に1人か、たまに2人かという感じで、
■長いロッドや1ピースロッドは使わない人で、
■ロッド以外にさほど大量のタックルは持ち歩かないタイプの人で、
■できれば軽自動車が良くて、それでいてビシッと走れる車がいいと思っている人が、
■50万~99万円ぐらいの手頃な予算で探したいと思っているならば、
■ソニカは最高の釣り車になり得る。

……自分で書いておきながらアレだが、異常に狭いストライクゾーンのような条件設定である。しかし、もしも上記条件にピタリとハマる釣り人がいたとしたら、ダイハツ ソニカはホームラン必至の絶好球であり、ごっつぁんゴール間違いなしの足元ピタリなパスだ。ちなみに釣り人としての筆者は、実は上記条件のほとんどに当てはまっている。

▲ちなみにこちらは2007年8月からの後期型。前後バンパー下部がそれまでの黒からボディ同色に変更された ▲ちなみにこちらは2007年8月からの後期型。前後バンパー下部がそれまでの黒からボディ同色に変更された
text/伊達軍曹