▲仕事用の作業場も含めて、インナーガレージであることと、外観をアメリカンにしたいという事以外は基本的に建築家にお任せしたとのこと。ただ、カラーリングのテーマは決まっていて、新婚旅行でアリゾナからカリフォルニアにかけてルート66を走ったとき、そのスタート地点にあったダイナーがイメージだったそう▲仕事用の作業場も含めて、インナーガレージであることと、外観をアメリカンにしたいという事以外は基本的に建築家にお任せしたとのこと。ただ、カラーリングのテーマは決まっていて、新婚旅行でアリゾナからカリフォルニアにかけてルート66を走ったとき、そのスタート地点にあったダイナーがイメージだったそう

新婚旅行のイメージを具現化したスウィートガレージ

湘南の街道沿いに建つS邸は、ひときわ目立つ白いサイディングが施されたアメリカンハウス。ひと目見てワクワクするような外観。道行く人がふと足を止め、果たしてこの中にはどんな車が収められているのだろう……と想像してしまう。

ガレージハウスには大切な要素だ。今回訪れたS邸は、赤さびにまみれたVWタイプIIのボンネットが何気なく立て掛けてあったり、エントランスのアウトデッキやその上のテラスにあしらわれたプレートを見れば、この家の主が熱烈なVWフリークであることがわかる。

場所は神奈川県高座郡寒川町。パワースポットとしても有名な寒川神社にほど近い街道沿いだ。神社の参道に近く、周囲は古くからの住宅も多い。そんな中にある、白い壁に鮮やかなブルーの玄関ドアが組み合わされた爽やかな外観はイヤでも目に付く。壁面に描かれたロゴは、施主であるSさんが経営する車の磨き、コーティングショップのもので、玄関を中心に右側がプライベート空間、ロゴのある左側が店舗となっている。

さっそく向かって右側のシャッターを開けてもらうと、現れたのは予想どおりの空冷VW2台。タイプIは奥様、タイプIIはご主人の愛車とのこと。どちらも結婚前からそれぞれの愛車で、お二人が出会ったきっかけがVWのオーナーズイベントだったというから、VWとの絆が深いのも頷ける。

ガレージ内の壁面はペパーミントグリーン、天井は淡いピンクで塗られ、まるで絵本から飛び出してきたキャンディショップのような趣。タイプI、タイプIIどちらのルーフにもキャリアが装着され、そこには年季の入ったラジオフライヤー・ワゴンが積まれている。そんな様子から、2台のVWが単なる車ではなく、インテリアを彩る特別な存在であることが窺える。ふと見ると、アメリカンダイナーを撮影したスナップ写真が額に入れられ、ペパーミントグリーンの柱にかけられていた。これはS夫妻が新婚旅行でルート66を走っているときに見かけた印象深い風景で、ガレージだけではなく家全体のカラーリングイメージとなっている。

そんな見るだけで楽しくなるようなガレージは、S邸のいろいろな場所から覗けるような工夫が施されている。アメリカンハウスを象徴するようなアウトデッキには、ちょうど人の身長ぐらいの窓が設けられ、オモチャ箱をひっくり返したようなガレージの様子が窺える。また、2階に上がる階段の壁面はガレージの天井と同じ淡いピンクで塗られている。そこに真円の窓がくり抜かれ、そこからもガレージ内を俯瞰で覗けるようになっている。窓から見える景色というよりも、レトロなポスターのようにも感じられる。

左官と塗装は、すべてS夫妻が4ヵ月かかりきりで

「塗装と左官はすべてS夫妻が自分たちで作業したんですよ」と教えてくれたのは、設計を担当した玉造清之さん。玉造さんが手掛けたガレージハウスは、これまでにも小誌で紹介したことがあるが、どれも施主自身が家造りに参加していることが特徴といえる。できるだけコストを抑えることが大きな目的なのだが、それよりも自邸に対する思い入れや愛着は、自らが手掛けるからこそ強くなるのだろう。事実、今回のS邸においても、壁面の塗装や左官作業を振り返るS夫妻はとても楽しそうだった。

「もともと本業が細かい仕事なので、とてもクオリティが高いです。まる4ヵ月、仕事をしないで家造りをされていました。でもその様子は、遊んでるようにしか見えませんでしたけどね(笑)」と、玉造さん。

「じつはこのグリーンは特別に作ってもらった色なんですが、どうしてもイメージと合わなかったので、現場で自分たちで調色したんです」そう語るSさん夫妻。

「仕様を選ぶ打ち合わせの際、奥様は金額を見ないで選んでしまうものだから建築費用がどんどんかさんでしまい、結局ご主人が施主施工(DIY)をする範囲が増えてしまったんですけどね……」。そんなエピソードも、今では楽しい思い出となっているようだ。

前述のように玄関を入って左へ行くと、Sさんの本業である磨き、コーティングの仕事場に通じる。小型車なら楽に2台は入る広さをもち、VWが入るプライベート用のガレージとはまったく印象の異なるダークトーンで統一されたクールな空間だ。車の出入り口は格子状のガラス扉となっているから、そこから注ぐ自然光も独特の雰囲気を生み出すことに一役買っている。

空冷VWは、ほとんど自身ではメンテナンスをしないというSさん。仕事とのギャップが気になるところだが……? 「自分の車に手間を掛け始めると、きりがないんです。だったら、お客様の車に対して徹底的に時間を掛けたほうがいいと思うんですよね」

どうやらS邸は、明確にキャラクターの異なる2つの空間をバランスさせることで、プライベートと仕事を巧みに両立させているようだ。それは設計時から玉造さんが狙っていたS邸のコンセプトであるに違いない。

▲よろい張りのサイディングが施された白い壁面と鮮やかなブルーの玄関ドアにより、アメリカンテイスト溢れる外観に。玄関脇の窓からは、明るく楽しいガレージの様子を窺うことができる▲よろい張りのサイディングが施された白い壁面と鮮やかなブルーの玄関ドアにより、アメリカンテイスト溢れる外観に。玄関脇の窓からは、明るく楽しいガレージの様子を窺うことができる
▲建物の白い壁面とガレージ内のカラフルな壁面のバランスがいかにも楽しそうで、このガレージに収まるべき車は、空冷VW以外にはありえないと思えるほど▲建物の白い壁面とガレージ内のカラフルな壁面のバランスがいかにも楽しそうで、このガレージに収まるべき車は、空冷VW以外にはありえないと思えるほど
▲2階へ至る階段の壁面に設けられた丸窓。日常の動線でガレージ内の愛車の気配を感じられる、貴重なアイテムだ。邸内壁面の左官作業と塗装はガレージ同様、S夫婦の手による▲2階へ至る階段の壁面に設けられた丸窓。日常の動線でガレージ内の愛車の気配を感じられる、貴重なアイテムだ。邸内壁面の左官作業と塗装はガレージ同様、S夫婦の手による
▲ガレージへの動線は、正面のシャッターと1階廊下に通じるドア、さらにこの写真のように裏庭からもアクセスが可能。裏庭にはスペアタイヤなどを保管▲ガレージへの動線は、正面のシャッターと1階廊下に通じるドア、さらにこの写真のように裏庭からもアクセスが可能。裏庭にはスペアタイヤなどを保管
▲無垢の木にこだわる天井は、玉造作品の特徴。2階リビング&ダイニングルームは、建物の外観に相応しくカジュアルで落ち着きがある▲無垢の木にこだわる天井は、玉造作品の特徴。2階リビング&ダイニングルームは、建物の外観に相応しくカジュアルで落ち着きがある
▲磨き、コーティングを本業とするSさん。その仕事場は玉造さんもこだわってデザインをした。他のスペースとは明確に印象が異なる▲磨き、コーティングを本業とするSさん。その仕事場は玉造さんもこだわってデザインをした。他のスペースとは明確に印象が異なる
▲ガレージ後方にはVWグッズが入るショーケースや、タイプIIのシートを流用したソファを設置。じつに居心地がよさそうな空間だ▲ガレージ後方にはVWグッズが入るショーケースや、タイプIIのシートを流用したソファを設置。じつに居心地がよさそうな空間だ
▲アメリカンハウスらしい趣の、玄関前のアウトデッキ。「階段を上りたかったので、無理やり設置してもらいました(笑)」とS夫人▲アメリカンハウスらしい趣の、玄関前のアウトデッキ。「階段を上りたかったので、無理やり設置してもらいました(笑)」とS夫人

【湘南のスウィートガレージ】
■今回のこだわり:全体的に細部までこだわり抜いて設計した。とくにガレージは、仕事用とプライベート用とでイメージが異なるので、この2つのガレージを違和感のないように統一感をもたせることにこだわった。苦労した点は、仕事用のガレージの光の当たり方や水はけなど。設計するにあたり細部にわたる打ち合わせを行い、ハイクオリティな仕事がストレスなくできるように注力した。
■主要用途:店舗併用住宅
■構造:木造軸組在来工法
■敷地面積:164.07平米
■建築面積:94.4平米
■延床面積:146.56平米
■設計・監理:株式会社solasio
■TEL:0466-35-7770

text/菊谷聡 photo/木村博道


※カーセンサーEDGE 2016年3月号(2016年1月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています