▲全長4mに満たないコンパクトなボディにクラシカルなスタイル。さらには手軽に屋根の開閉ができる2シーターオープン ▲全長4mに満たないコンパクトなボディにクラシカルなスタイル。さらには手軽に屋根の開閉ができる2シーターオープン

時を経て魅力に気づくことができた車

私は、当時からオリジナルのロータス エランなど、クラシックカーが好きだった。初代ロードスターが「MX-5 Miata(ミアータ)」の名でアメリカでアナウンスされたのは、バブルが弾けそうで弾けない1989年だった。

写真を初めて見たときには、その姿から“ホンモノ”のライトウェイトスポーツカーだということを感じとることができなかった。だが、キャビンより前の部分が長くリア車軸の少し前にシートを置くスタイルは、ライトウェイトスポーツカーのMGBやトライアンフ TR-2、そしてロータス エランにも似ているなとは思っていた。

1990年。日本でも「ユーノス ロードスター」として発売された。搭載されるエンジンは1.6Lの直4DOHC。デビュー当初は1グレードでミッションも5MTのみだったが、1990年3月には待望の4ATを追加。さらに同年7月にはグリーンのボディカラーにタン色の内装を組み合わせ、本革シートなどを装備した「Vスペシャル」が追加された。

半年もたたないうちにソリッドブルーやレッドのロードスターが、軽快に街中を走り回っていた姿を見るものの、ホンモノじゃないからなぁ……なんてヘソを曲げていた。

その翌年に初めて新車の初代ロードスターをドライブした。ATであったことには少しがっかりしたし、正直好きな車ではなかったが、どういうわけか笑顔になったのを覚えている。

風を適度に巻き込み60km/h以下の速度で走るには気持ち良いなと思った。たとえATであろうと軽快で楽しいハンドリングだ。どことなくノスタルジックな印象を受けながらも、まだ若かった私は「ふーん」という感じで、それ以上この車に興味を持つことはなかった。

その後、初代ロードスターに乗ったのは13年後の2003年であった。1991年にM2というマツダ資本の会社が作り出した、M2-1001というスペシャルバージョンであったとはいえ、これをドライブしたときにはビックリした。10年以上経過していた個体だったにも関わらず、小型でキビキビ、操縦性抜群でサスペンションも素晴らしかった。ベースとなるロードスターが良いから、これだけの車に仕上げられるのだろうとそのときに感じていた。

自動車メーカーが保管している中古車に乗る

▲1.6Vスペシャルの内装はタン色の本革シートや、ナルディ製のウッドステアリングが使われており、クラシカルで上品な印象を受ける ▲1.6Vスペシャルの内装はタン色の本革シートや、ナルディ製のウッドステアリングが使われており、クラシカルで上品な印象を受ける
▲今ではほとんど見なくなった懐かしの“カセットデッキ”。今回は使用しなかったが、カセットテープの少しノイズが入った音とともに、ノスタルジックな気持ちに浸りドライブしたい ▲今ではほとんど見なくなった懐かしの“カセットデッキ”。今回は使用しなかったが、カセットテープの少しノイズが入った音とともに、ノスタルジックな気持ちに浸りドライブしたい


そして今回試乗したのは、マツダが保管している1990年式の「ロードスター 1.6Vスペシャル」というモデルだ。新車を次々と生み出していく立場の自動車メーカーが、20年以上も昔の車を保管しているということから、いかにマツダにとってロードスターが大切な車であるか、おわかりいただけるだろう。

サスペンションのブッシュ類はすべて交換しており、ボディはブリティッシュレーシンググリーンに塗装されたモデルだ。

1.6Vスペシャルには、ナルディのステアリングホイールが標準装備であった。ナルディのステアリングホイールといえば、我々のような車好きの世代にとっては憧れのパーツのひとつである。それが標準装備で付いており、しかもシフトノブもナルディ製だ。タンの色の内装は上品だ。ヘッドレストにあるスピーカーの無数の穴からは、バックミュージックとともに素敵に走ってほしいとする開発陣の配慮が感じられる。

走行距離は9.4万kmであるから、さすがにエンジンのピークは過ぎているのではと予想していた。試乗当日は晴天であったので幌を下ろしてロードスターの真骨頂を思う存分に味わおうと思った。また、担当の編集者を隣に乗せて思う存分MTの操作を楽しもうとも思っていた。MT車の醍醐味はシフトとクラッチワーク、そしてステアリングを操り、マルチタスクの自分を魅せる部分にもあると考えている。

9.4万kmも走っているとは思えない最高のコンディション

▲風を感じながらドライブできるのがオープンカーの魅力。ライトウェイトスポーツカーの醍醐味を余すことなく味わうことができ、つい熱くなってしまった ▲風を感じながらドライブできるのがオープンカーの魅力。ライトウェイトスポーツカーの醍醐味を余すことなく味わうことができ、つい熱くなってしまった
▲あまりにも好調なエンジンであったため、何度も「何もしていないの!?」と問い続けてしまった。しっかりとメンテナンスを行えば、四半世紀以上たった今でも良好なコンディションを保つことができるのだ ▲あまりにも好調なエンジンであったため、何度も「何もしていないの!?」と問い続けてしまった。しっかりとメンテナンスを行えば、四半世紀以上たった今でも良好なコンディションを保つことができるのだ


シートの位置を合わせエンジンをスタートする。クラッチもちゃんとメンテナンスしてあるようだ。ステアリングの操舵感も左右にぶれることなくシンメトリなフィールだ。エンジンの異音やガサつきはなく、精密にオーバーホールしたエンジンのごとくスムーズで回転がリニアだ。「本当にこれ何もしてないの?」と、何度も問いたくなるほどスムーズで乗りやすい。

キャビンへ入り込む風の流れも頭だけに当たり、流れを意図的に作った感じはあるが、オープンカーはこの髪が乱れる感じが絵になるのかもしれない。26年前に初めて運転した記憶がよみがえる。

高速もとても楽しい。ブレーキペダルとアクセルの位置が最高だ。自在なヒール&トーでスローインファーストアウトを模範的に実践することができる。この、ひらひら感がたまらない。ブレーキを踏み、車を前傾姿勢にして、フロントに荷重を置いて向きを変えるという基本操作の大切さが本当によくわかる車だ。

「これがライトウェイトスポーツカーなんだよ!」と助手席の担当編集者に向かって、感情のまま大きな声で話しかけたりする。

「サスペンション以外は何も手を加えていない」とマツダの担当者は言っていたが、逆を言えば消耗品をしっかりと交換して大切に乗り続ければ、車本来のパフォーマンスをまだまだ発揮できるということが良く理解できる。

ひとつだけ苦言を言わせてもらうと、マツダが行なった塗装である。新車時の薄いシャープな塗装ではなくなっており、どうも厚ぼったい。ストレートで軽いロードスターのオリジナルの雰囲気からすると重たいイメージになってしまっている。今後マツダは初代ロードスターのレストアサービスを行うという。塗装の完成度もより高くすることで、マツダのこだわりをさらに感じられるようになるのではないだろうか。

今回試乗した車はボディがしっかりしていた。シャシーとボディが一体となっているモノコックボディは、メインフレームが命である。ドアの立て付けも素晴らしく良かった。オープンボディはドアの立て付けで大まかな程度を把握することができる。

いまだに人気が衰えない初代ロードスターだが、購入を検討しているのなら、なるべく程度が良さそうな個体を探し、消耗品をしっかりと交換することをオススメする。

【試乗車情報】
車名:マツダ ロードスター(初代)
グレード:1.6Vスペシャル
年式:1990年
エンジン:1.6L 直列4気筒 DOHC
駆動方式:FR
ミッション:5MT
修復歴:無
走行距離:9.4万km

text/松本英雄
photo/篠原晃一