▲ドイツのニュルブルクリンクなどで徹底的に鍛え上げられた走行性能と、強力なダウンフォースを生むエアロパーツをまとう、歴代のシビックTYPE-R史上最速のモデルだ。また先代は限定台数販売だったが、新型はカタログのエントリーモデルとなった ▲ドイツのニュルブルクリンクなどで徹底的に鍛え上げられた走行性能と、強力なダウンフォースを生むエアロパーツをまとう、歴代のシビックTYPE-R史上最速のモデルだ。また先代は限定台数販売だったが、新型はカタログのエントリーモデルとなった

期待を裏切らないのがホンダのTYPE-Rだ

“TYPE-R”の冠が付いたホンダ車に、今まで期待を裏切られたことは一度もない。

どの時代のTYPE-Rもすべて素晴らしかった。TYPE-Rは常にその時代にあった走り、性能、楽しさを教えてくれる。

歴代のTYPE-Rの中でも、最新の『シビック TYPE-R』は、未知の領域のパフォーマンスを秘めていることを、たった数キロの一般道走行で十分理解させてくれた。

見た目のスタイリングには賛否両論あるようだ。

しかし、頑丈な骨格と、空気をよどみなく流しボディを下に押し付ける力を発揮させるよろいのようなフォルムがホンダ シビック TYPE Rのデザインなのだ。

逆に確実に性能を追ったからこそ出来上がったデザインとも言える。

エンジン始動の瞬間からマシンの潜在能力の高さを感じる

▲2Lという排気量だが、可変バルブタイミング機構を持つVTECエンジンにターボを組み合わせたことで320psものパワーを絞り出すTYPE-R専用のエンジン ▲2Lという排気量だが、可変バルブタイミング機構を持つVTECエンジンにターボを組み合わせたことで320psものパワーを絞り出すTYPE-R専用のエンジン

スタータースイッチを押すと320psを発揮する2LのVTECターボユニットが目を覚ます。

冷えた状態でのエンジン音は野太いエグゾーストノートで、すぐにチューニングされているエンジンだとわかる。

▲専用シートの着座位置は低く頭上の圧迫感はない。一度座ってしまえば非常に運転しやすいポジションだと感じるだろう。各種スイッチ類も操作しやすいところに配置されている。ハッチバックタイプなので、実は日常での使いやすさも備えている ▲専用シートの着座位置は低く頭上の圧迫感はない。一度座ってしまえば非常に運転しやすいポジションだと感じるだろう。各種スイッチ類も操作しやすいところに配置されている。ハッチバックタイプなので、実は日常での使いやすさも備えている

専用のスポーツシートのホールド性は抜群で座り心地も上々だ。

チタン製のシフトノブに手を置いて1速へ入れる瞬間のシフトリンクの剛性の高さから、この車が本物のスポーツカーだということを感じる。

クラッチ操作はMTのハイパフォーマンスモデル特有の張りがあってクラッチの切れがすこぶる良い。

シャープだが優しいシフトフィールは日本的で、直接的な輸入スポーツカーとは違うフィーリングだ。

ステアリングホイールに触れた感じは他のホンダ車では味わったことのない、しっとりとしていて手に吸い付くようなフィーリング。

▲大口径のブレンボ製ブレーキの制動性能は強力。サーキットなどでの激しいブレーキングにも耐えられる設計だ。日常使いでも急減速および止まれるという安心感には心強いアイテムだ ▲大口径のブレンボ製ブレーキの制動性能は強力。サーキットなどでの激しいブレーキングにも耐えられる設計だ。日常使いでも急減速および止まれるという安心感には心強いアイテムだ

シビック TYPE-Rは“COMFORT” “SPORT” “+R”の3つの走行モードを選択することができる。

この走行モードだが、エンジンをオンにした瞬間から常にSPORTに設定されることからも、シビック TYPE-Rが特別なスポーツハッチバックということが理解できる。

走り出しは実にスムーズで、ハイパフォーマンスカーにありがちな神経質さはない。

専用のブレンボ製大口径ブレーキは、耐フェード性を考慮したディスクパッドが採用されており、ローターが冷えている状態では“キ~”という甲高いメタル音が発生する。

この音も走りに振ったチューニングカーならではの性能と感じられる要素だろう。

3つの走行モードでキャラクターが変化

▲扱いやすい球形のチタン製シフトノブを装着する6MT。操作感も本気のスポーツカーだと思える剛性を感じられるフィーリングだ。すぐ横にはブレーキホールドスイッチ、走行モード切替えスイッチなどが配置される。TYPE-Rにはシリアルナンバーのプレートが付く(写真は世に流通することのない広報車のため00000となっている) ▲扱いやすい球形のチタン製シフトノブを装着する6MT。操作感も本気のスポーツカーだと思える剛性を感じられるフィーリングだ。すぐ横にはブレーキホールドスイッチ、走行モード切替えスイッチなどが配置される。TYPE-Rにはシリアルナンバーのプレートが付く(写真は世に流通することのない広報車のため00000となっている)

まずはデフォルトのSPORTモードで走ってみる。

高速道路のジャンクション入口のコーナー手前から一気に加速をしてみる。

ターボエンジンとはまったく思えないようなリニアなトルク特性と、スムーズで軽快なエンジンの吹け上がり方は、メーカーの量産チューニングカーとして、国産車では追従を許さない性能だろう。

コーナーのR角からすると、ややオーバースピード気味だったが、挙動をまったく崩さない。ステアリング操作に対して思ったとおりのラインを描いて駆け抜けてしまった。

デフォルトのSPORTモードでもう十分すぎるほど速く走れる。

試乗した有料道路は数種類のアスファルトが使われており、様々なロードノイズを楽しめる道だ。

シビック TYPE-Rは20インチの245/30というサイズのコンチネンタル製ハイパフォーマンスタイヤを履いているが、驚くほどロードノイズは少ない。

ノイズによるドライバーの疲労を軽減するその静粛性能は、ベースのシビック以上に気を使っていると感じる。

荒れた路面のコーナーでも四輪のロードホールディングが良いのは、ボディ剛性と相まったサスペンションの設定が秀逸だから。

アライメントの変化を最小限に抑えているので挙動を乱すことがなく、ドライバーはステアリング操作に集中できるのだ。

コンフォートはクルージングに最適、+Rはかなりシビア

SPORTモードからCOMFORTモードに切り替えてみる。

ショックアブソーバーの減衰力が変化し、下からの突き上げが減り、しなやかさが増す。

合わせてステアリングフィールも変化するが物足りなさを感じる。

感覚的には地に足が着いていたのが急に軽くなったような感じだ。

同乗者がいて、ゆっくりとクルージングするには良いのかもしれない。

が、やはりTYPE-Rの本性はスポーツカーなのだと感じさせられる。

3つ目のモードである+Rモードに切り替えてみる。

本来はサーキットのタイムアタックで使用するモードだ。

減衰力もかなり硬めになり、路面の凹凸による突き上げ感が一気に高まる。

まさにカリカリのサーキット仕様となり、公道では逆に繊細なステアリング操作を要するかなりシビアなフィーリングに化ける。

クルージングとワインディングが繰り返えされる公道ではSPORTツモードが楽しく疲れない最適な選択だろう。

サーキットでの速さもさることながら、シビックTYPE-Rは2WDのスポーツカーとしては日本車最強のパフォーマンスカーであることに間違いはない。

ディテールはまだまだな部分もあるが、メーカー独自のセッティングでここまでの車を作ってしまうホンダには、ユーザーとして「うれしい」の一言に尽きる、そんな1台である。

【SPECIFICATIONS】
■グレード:TYPE-R ■乗車定員:4名
■エンジン種類:直列4気筒DOHCターボ ■総排気量:1995cc
■最高出力:235(320)/6500 [kW(PS)/rpm]
■最大トルク:400(40.8)/2500-4500 [N・m(kgf・m)/rpm]
■駆動方式:FF ■トランスミッション:6MT
■全長×全幅×全高:4560×1875×1435(mm) ■ホイールベース:2700mm
■ガソリン種類/容量:無鉛プレミアム/46(L)
■JC08モード燃費:12.8(㎞/L)
■車両価格:450.036万円(税込)

text/松本英雄
photo/尾形和美、篠原晃一