▲「最初のうちは小さくて安い国産車の方が……」とアドバイスする大人は多い。その意見に一理あることも確かだが、必ずしも従う必要はない。例えばコレ、プジョー106をいきなり買ったって別にいいのだ! ▲「最初のうちは小さくて安い国産車の方が……」とアドバイスする大人は多い。その意見に一理あることも確かだが、必ずしも従う必要はない。例えばコレ、プジョー106をいきなり買ったって別にいいのだ!

輸入車を買おうとしたものの、周囲から猛反対された青年

見たところ22歳ぐらいの青年が、中古車販売店の前で全身を激しく震わせていた。その尋常ではない様子が心配になったわたくしは、思わず声をかけた。「貴君、大丈夫か? 救急車を呼ぶか?」と。

彼は答えた。「体調は悪くありません。今朝はごはんを3杯食べました。でも……なぜか震えるのです」

ヒアリングによれば、事態は以下のとおりだった。

彼は22歳の新社会人で、社会人としての給料を元手に何らかの中古車を買うつもりでいたそうだ。

だが実際に販売店を訪ねる前の段階で、周囲から猛反対を受けた。なぜならば、「最初の車は輸入車にしようと思っている」と口走ってしまったからだ。

「どうせ最初はぶつけるんだから、安くて小さな国産の中古車にしときなさい」

「輸入車の、それも中古車なんて、すぐに壊れて大変な目にあうよ? それでもいいの?」

などと周囲のおっさんから散々言われた結果、彼も「そういうものかもしれないな」と納得した。そして安手の国産コンパクトを買うと翻意し、今日ここへやって来た。

だが身体が震えてしまい、目の前にある国産系中古車販売店にどうしても足を踏み入れることができないのだという。

「この震えは、どうすれば収まるのでしょうか?」

▲「そこまで言うなら最初の車は国産コンパクトで」と、いちおう納得した彼ではあった。だが心の奥底にある何かがそれに「No!」と言っていたのか、身体が悲鳴をあげていた▲「そこまで言うなら最初の車は国産コンパクトで」と、いちおう納得した彼ではあった。だが心の奥底にある何かがそれに「No!」と言っていたのか、身体が悲鳴をあげていた

そう尋ねる彼に、わたくしは年長者として、そして中古車評論家として答えた。

「今すぐそこの公園に行き、スマホでカーセンサーnetを見たまえ。そして、貴君が本当に欲しいと思っていた何らかのチューコのガイシャを買いに行きたまえ。それで、万事が解決するだろう」

「しかし人生初の車が中古の輸入車というのはかなりマズいと、周囲の皆さんが……」

そう言う彼に、わたくしは断言した。

「周囲の皆さんなど放っておけ。そもそも人生初の車が輸入車で何が悪いのだ? 悪いことなど、ひとつもない」

以下は、この後わたくしが彼に詳述した内容のダイジェスト版である。
 

確かにメンテ代は国産車より高い。だが「激高」なわけでもない

「彼」が最初に買おうと考えていた車はプジョー 106というフランス車だったらしい。1995年から2003年まで販売されたハッチバックで、なかなか素晴らしい車である。

本国には様々な仕様が存在したが、日本に導入されたのは初期型が1.6LのSOHCエンジンを積むXSiというグレードで、1996年以降は1.6LのDOHCを積むS16というグレードに変更された(※最後期はS16リミテッド)。トランスミッションはいずれも5MTのみという設定だ。

2019年4月上旬現在の中古車相場は総額約35万~約190万円とかなり上下に幅広いが、ボリュームゾーンは総額50万~100万円といったところ。彼が当初狙っていたのも、おそらくはこのあたりの価格帯だろう。

で、もしも彼がそんなニュアンスのプジョー 106を「人生初の車」として買った場合に、どのような「悪いこと」が起こるのか? ここで考えてみよう。

まず「メンテナンス代」はそれなりにかかる。

▲1995年から2003年にかけて正規輸入されたプジョー 106。写真は1999年モデル▲1995年から2003年にかけて正規輸入されたプジョー 106。写真は1999年モデル

似たような総額の国産コガタ中古車を買えば、「周囲の皆さん」が言うとおり大した整備代はかからないはず。もちろんケース・バイ・ケースだが、年に一度のエンジンオイル交換費用(5000円ぐらい)だけで済むケースもあるだろう。

しかしプジョー 106の場合は、年式的にやや古いということもあって、もう少しかかってしまう可能性は非常に高い。これまたケース・バイ・ケースなので定量的なことは何も言えないのだが、まあ仮に「5万円ぐらい」だとしておこう。

……5万円である(※仮の数字ですが)。

これが50万円とか500万円ならば、さすがにわたくしも「やめといた方が……」と言う。だが、繰り返しになるが「たったの5万円(仮)」なのだ。

屁のような金額ではないか。

もちろんプジョー 106という車に何の興味もない人にとって、5万円は決して屁ではなく大金というか、「癪にさわる出費」だろう。

しかしプジョー106を「愛と情熱と趣味の対象」とする者にとっては、そしてこづかいのマネジメントをちゃんとできる自信がある者にとっては、あくまでも「屁のような金額」でしかないのだ。
 

「なるべくシンプルな車を選ぶ」のが勝利への道

「とはいえ、どこか重要な機械部分がいきなり壊れてしまい、5万円じゃぜんぜん済まないケースもあるのではないでしょうか?」

彼はそう問う。もちろんそういった「悪いこと」が起こる可能性は、同額の国産コガタ中古車と比べれば高いだろう。

だが事前に取れる対策はある。

対策その1は「そもそも機械としての作りがシンプルな輸入車を選ぶ」ということだ。

かなりの部分が電子的に制御されている車は、肝心の電子部分がイカれると莫大な修理代(部品交換代)がかかる。しかもそれは予兆なしに突然、謎の逝き方をすることもあるので若干始末が悪い。

だが電子制御ではなく「機械式の制御」が大半を占める車の場合は、その部品交換費用は(電子制御のそれと比べれば)大したことはない。しかも、ある程度ではあるが、要交換となるタイミングをあらかじめ「読む」こともできる。

「そういう意味では、僕が買おうと思っていたプジョー 106は構造がシンプルなので……」

うむ。図らずも貴君は最高の選択をしていたことになる。

まぁガイシャなので、そういった機械式系の部品代とかも国産コガタシャと比べれば高いという欠点はあるのだけれど、大したことはない。愛と情熱と、そして「月給」があれば、なんとかなることはまず間違いないのだ。

▲車は機械部品の集合体であるため、どんな車種でも使っていればそのうち故障はする。だがプジョー 106のようにオーソドックスな作りの車であれば、その修理費用はベラボーに高くつくわけでもない(※写真は英国仕様)▲車は機械部品の集合体であるため、どんな車種でも使っていればそのうち故障はする。だがプジョー 106のようにオーソドックスな作りの車であれば、その修理費用はベラボーに高くつくわけでもない(※写真は英国仕様)

なるべく良質な個体に、万全の納車整備を施せ

そして対策その2は「最初の段階でケチらない」ということ。つまり「ある程度以上のプライスの物件を選び、それを納車前にバッチリ整備する」ということである。

「高い中古車=いい中古車」とシンプルには断言できないのが、この業界の難しいところではある。だが少なくとも「激安な中古車」には、必ず何らかの「激安である理由」がある。

で、そういった激安物件を買うと「結局はその後、平均的な価格の物件を買ったのと同じぐらいか、下手すりゃそれ以上のお金がかかっちゃいました……」となるケースは多い。激安物件をあえて選ぶのは、かなり上級者向けの高等テクなのだ。

そしてそのような「非激安物件」を信頼に足る販売店にて契約し、さらには納車前整備で、替えるべき消耗部品をケチらずビシッと交換する。そうすれば自動車というのは洋の東西を問わず、そう簡単に壊れるものではない。

「壊れませんか?」

や、壊れないっつーと語弊があるし、車は何だって「必ず壊れる」とも言えるんだけどさ、「周囲の皆さん」がイメージしてるようなひどいことにはならない――ってことですよ。

▲ちなみにプジョー 106は若い世代の愛好家も多い車ゆえ、SNSなどを通じてメンテ情報などはかなり共有されている。そういった情報を活用すれば、106の維持はよりイージーになるはず。って、ダジャレじゃないですよ▲ちなみにプジョー 106は若い世代の愛好家も多い車ゆえ、SNSなどを通じてメンテ情報などはかなり共有されている。そういった情報を活用すれば、106の維持はよりイージーになるはず。って、ダジャレじゃないですよ

「でもまあ結局、お金はある程度かかりますね」

うむ、そのとおりである。この世の中にフリーランチ(ただ飯)はない。何をするにしても、それ相応の金銭または身体を張った努力は必ず必要となる。

真の問題は、貴君がそういったコストに見合うだけの興味と情熱を、プジョー 106という輸入車に対して抱いているか否か、である。

「わかりました。ありがとうございます。では公園のベンチに行き、今後どうすべきかを考えてみます」

そう言って彼は立ち去った。

その後、彼が中古のプジョー 106を買ったかどうかは知らない。

だが少なくとも公園へと向かう彼の身体は、もう震えてはいなかった。

文/伊達軍曹、写真/プジョー・シトロエン、photo AC

▼検索条件

プジョー 106(初代)×総額50万以上100万円以下×修復歴なし×全国
伊達軍曹(だてぐんそう)

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。