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車が水没した際の対処。浸水・冠水の目安や車両保険の適用も説明

車が水没した際の対処。浸水・冠水の目安や車両保険の適用も説明
洪水や高潮など大規模な水害が多発している昨今、車が水没してしまう事例も数多く報告されています。では、水没すると車はどのようになるのか? 引き起こされるトラブルや、その対処について解説します。

水没によって引き起こさせる車のトラブル

冠水した道路を走る車


車はある程度までの水深であれば水に浸かっても問題ありませんが、水害など極端な状況下は想定されていません。水深が限界を超えると「車内のカーペットにカビが生える」「異臭がする」など快適性が損なわれ、走行不能に陥ります。仮に走行可能でも深刻なトラブルにつながります。

例えば、エアインテーク(空気の吸入口)やマフラーから水を吸い込んだ場合、エンジンが停止。最悪、シリンダー内に水が浸入してピストンやコンロッドなどが破損する「ウォーターハンマー現象」を引き起こし、エンジンが使えなくなります。駆動系の部品に水や土砂が入りこんでトラブルを起こしたり、錆びて部品の寿命を早めたりすることも。

他にも、「漏電し、電装品が使えなくなる」「漏電した部分から発火し、車両火災に至る」などのトラブルが発生します。車両火災は水没に引き起こされるトラブルの中で最も深刻。2018年に発生した台風21号では高潮によって23件の車両火災が引き起こされ、計232台もの車が炎上しました。

水没によるショートで車両火災が発生する

浸水の限界水位は車の種類や、走行中であれば速度によって異なります。一般的にはドアの下端=フロアの高さを水が越えてしまったら走行不可。エンジン停止に陥る可能性があり、故障しやすくなります。フロアより上部には配線が電子回路、エアインテークなど水に弱い部品が集中しているからです。

そのため、フロア以上の高さにまで浸水した車は「水没車」と定義されます。車を売却するときには、たとえ機能的に問題なかったとしても水没車はマイナス査定の対象となります。一方で、浸水の深さがフロアより下、かつ不具合が発生していない場合にはマイナス査定の対象になりません。

自動車売買においては、水没車でなく「冠水車」という表現が使われますが、意味は同じ。「浸水車」や「水害車」と呼ばれることもあります。

車が浸水してしまった場合の対処

エンジンルームのチェック


走行中に冠水した道路へ侵入してしまった場合は、すぐにエンジンを切りましょう。無理して走行するとエンジンが水を吸い込み、被害が大きくなります。停車中や駐車中に洪水や高潮の被害に遭ってしまったときも同様で、エンジンをかけてはいけません。

水位が下がって安全な状況になったら、浸水した高さやエンジンルーム内への浸水の有無を確認します。走行時は目視で水位が低いと感じても、意外に高い所まで水が到達している可能性があります。冠水した道路を走行したら、必ずチェックしましょう。

【CASE1】水位が低くて車内やエンジンまで浸水しなかった

浸水したのがタイヤやサスペンションなどフロアよりも低い位置までで、車内やエンジンルームにも水が浸入していなかった場合、多くはエンジンをかけて自走できます。しかし、ブレーキが水に濡れて利きにくくなっていたり、タイヤがパンクしていたり、灯火類にトラブルも発生していたりするケースもあり得ます。

さらに、駆動系やオイルパンなどに水が浸入している恐れがあります。そのまま走行を続けると駆動系やエンジンが油膜切れを起こし、焼き付いてしまうことも。これらの箇所への浸水は目視で確認できないので、きちんと整備工場などで点検してもらいましょう。

浸水がフロアよりも低い位置だった場合は、点検整備の費用は車種や被害の程度によって異なります。しかし、完全に水没してしまった場合に比べて安く済むケースが多いでしょう。軽度のダメージなら数万円程度の出費で済むかもしれません。修理が済めば、以前と同じように乗り続けることができます。

浸水した車でどうしても自走しなければならない場合は各部を入念にチェック。日常点検の要領で異常がないか確認してから走り出しましょう。日常点検の仕方についてはJAFの「日常点検15項目」を確認ください。

【CASE2】水位が高くて車内やエンジンまで浸水した

フロアよりも高い位置まで浸水した場合や、エンジンルーム内に水が浸入していた場合には走行不可。危険なので絶対にエンジンをかけてはいけません。JAFや自動車保険のロードサービスに連絡し、レッカー車を手配。同時に整備工場にも連絡し、すぐに入庫して点検整備してもらいましょう。

レッカー代は整備工場までの距離によりますが、近隣の場合は1万5000~2万円が相場。JAF会員や加入している自動車保険に付帯されているロードサービスを利用すれば、無料で済むこともあります。

レッカー車の到着を待つ間、可能ならバッテリーのマイナス側ターミナル(配線とバッテリーの接続部)を端子から外しておきます。電流がショートして、そこから発火するのを防ぐためです。ただし、工具を持っていない人や整備になれていない人は、自分で対応しないこと。無理をすると非常に危険です。

バッテリーの端子を確認


端子を外す手順1
まずは感電防止のため、バッテリーの端子をチェック。バッテリー上面にプラスとマイナスのマークが表示され、多くの場合はバッテリーのプラス端子にカバーが付いています。

バッテリーのマイナス端子を引き抜く


端子を外す手順2
ターミナルのボルトを緩め、マイナス端子を引き抜きます。間違っても、絶対にプラス側のターミナルは外さないように! プラス側のターミナルを外すとショートしたり感電したりするリスクがあります。

ターミナルをバッテリー本体に固定


端子を外す手順3
バッテリー端子とターミナルが接触するのを防ぎます。ガムテープなどの絶縁物質で金属部を巻き、ターミナルをバッテリー本体に固定します。

水没してしまった車の処理

車をレッカー


フロア上まで浸水してしまったら、つまり水没車となったら乗り続けるか廃車にするか判断する必要があります。修復不能で廃車するしかないケースもありますが、整備工場で修理できる場合、まずは見積書を出してもらいましょう。

金額や内容を見て修理するか廃車するか検討するのですが、基本的には廃車か売却をして買い替えた方が合理的となります。修理費用は高額になることが多いからです。車内の内装材貼り替え、車内内部の洗浄なども含めると、修理費用が数百万円に及ぶ可能性も。

さらに、一度水没した車は正規ディーラーなどでの整備を拒否されることがあり、乗り続けるには相当な覚悟が必要です。車に相当な思い入れがある場合を除いて、水没車は手放してしまった方が無難です。

中古車の買取店や専門業者に売却する

水没車を手放すなら売却がオススメです。水没車でも買い手が見つかれば当然、売却することができます。水没車を整備工場などから自宅に戻したら、車の買取店に査定を依頼しましょう。

ただし、水没車は査定額が大幅なマイナスとなる可能性があります。日本自動車査定協会では水没した深さに応じて「減点率」を設定。例えば、「フロアまで」の場合で30%以内、「ダッシュパネル上部まで」の場合で50%以内となっています。修理や、部品の交換などが必要な場合は、その費用も査定額から差し引かれます。

状態によっては価値がほとんどつかないことも。通常の中古車販売店や買取店では水没車の査定そのものを拒否されることもあります。しかし、現在は使用不可能車専門の買取業者も存在します。インターネットで「水没車」「買取」などと検索すれば見つけることができるでしょう。

他にも、個人売買という手段もありますが、いずれの場合も売却額は数万円ほどであることがほとんど。それでも、修理費用や廃車費用を支払うよりは経済的となります。

売却する相手が誰であっても、水没車であることを相手に隠して売却してはいけません。民法上の「契約不適合責任」に該当します。売却先に売買契約の取り消しを求められたり、高額な損害賠償を請求されたりすることがあります。

売却ができなかった場合は廃車にする

もし車の買い手が見つからなければ、廃車にするしかありません。廃車には永久抹消登録と一時抹消登録の2種類があります。水没車の場合はその後、使用することはないため、基本的には永久抹消登録します。

入庫した整備工場に廃車を依頼するか、解体業者を別途手配して解体と永久抹消登録の手続きをしてもらいます。廃車を依頼する際は、車検証や印鑑登録証明書(軽自動車は不要)、実印(軽自動車は認印可)、委任状などの書類が必要です。

廃車にかかる費用は一般的に解体費用が1万~3万円程度、手続き代行費用と法定費用が1万~2万円程度、合わせて2万~5万円程度です。さらに自走不可能なら陸送代1万5000~2万円が必要になります。

車が水没した場合の車両保険の適用

水没していっている車両


台風や大雨による水没などは車両保険が適用されます。しかし、津波による水没では適用されません。水害が原因で車両火災が発生した場合も同様で、台風や大雨には適用されますが、津波は適用されません。

交通事故などで川や海に車が落ちた場合も車両保険が適用されます。ただ、誤操作など人為的ミスによる水没は一般型の車両保険であれば適用内で、エコノミー型は適用外となります。

つまり、水没の原因によって適用の可否が決まるのです。さらに、被災状況や加入会社のプランなどによって金額や適用の可否が異なります。水没したら、まず保険会社に確認してみてください。

水没の原因 一般型 エコノミー型
台風・大雨など
津波 × ×
交通事故
人為的ミス ×

大規模な災害の場合、住宅が被災すると「被災者生活再建支援制度」などの支援制度が適用されることもあります。被災したなら、各地自治体など窓口に問い合わせてみると良いでしょう。

購入した車が水没車かもしれないときの対応

車の点検整備


中古車の販売店では入念な点検整備が行なわれていますが、まれに水没車を取り扱ってしまうケースがあります。前オーナーが水没車であると知らせなかった、あるいは前オーナー自身も浸水していたことを知らなかった場合、販売店であっても見抜けないことがあり得ます。

もちろん、個人間での売買でも水没車を購入してしまう可能性があります。車を浸水させた覚えがないのに、以下のような症状が見られたら整備工場で詳細に点検してもらいましょう。

  • エンジンが突然止まることがある
  • 車内から泥またはカビのような異臭がする
  • エンジンルームに水をかぶった痕跡がある
  • フロアやステアリングポストなど通常では発生しない箇所にサビや腐食がある
  • 通常の使用では付着しない粉末状の汚れやシミ、水位跡がある

水没車だと知らずに購入したら契約をキャンセルできる

水没車であることを知らず(表示・説明されず)に購入した場合、中古車の売主に売買契約を取り消すことができます。その場合、買主(自分)が水没車であることを知った1年以内に、売主に「契約不適合」であることを通知する必要があります。なお、売主の悪意または重過失が認められる場合、期間の制限はありません。

中古車の売主に連絡するのはもちろん、気になる点があるなら自動車公正取引協議会の「消費者相談室」などに相談してみるのも良いでしょう。