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竜巻や雹など引き起こす「積乱雲」を見分け、気象災害から身を守る

竜巻や雹など引き起こす「積乱雲」を見分け、気象災害から身を守る
竜巻や雹、雷など危険な悪天候には「積乱雲」が大きく関係しています。そこで、専門家である防衛大学校の小林文明教授に、積乱雲について教わりました。リスクが高い積乱雲の見分け方や、気象災害から身を守る方法も聞いたので、ぜひ参考にしてください。

知っておきたい竜巻の予備知識

雨が降りそうな曇天


積乱雲とは「低い高度で発生した雲(積雲)が垂直に発達して、上空の対流圏界面(成層圏との境界)付近にまで達した雲」のこと。夏に見かける、モクモクとした大きな白い入道雲も積乱雲のひとつです。

積乱雲の形は搭状やドーム状、カリフラワー状など多種多様。時間変化も著しいのが特徴で、夏の積乱雲、冬の積乱雲など、構造によっても様相は大きく異なります。

すべての積乱雲が危険なわけではありませんが、発達した積乱雲や巨大化した「スーパーセル」などには注意が必要です。

【積乱雲が起こす危険な災害1】竜巻などの突風

発達した積乱雲は、しばしば竜巻やダウンバーストといった突風をもたらします。中でも竜巻は危険。被害域は幅数十~数百m程度と局所的ですが、移動することで長さ数km~数十kmの範囲に拡大します。

【積乱雲が起こす危険な災害2】雹

積乱雲は、氷の塊である雹を降らせます。日本では発生する地域に偏りはありますが、直径5~10cmの降雹も珍しくなく、非常に危険です。

【積乱雲が起こす危険な災害3】落雷

積乱雲の中では空気中に含まれる氷粒や雲粒が摩擦し合って大量の静電気が発生し、雷放電が生じます。雷雲中で中和しきれなくなると、地面との間で放電が開始されます。これが落雷です。車の中は基本的に安全ですが、雷雲に近づくことは避けましょう。

【積乱雲が起こす危険な災害4】大雨

大雨も積乱雲が原因。特に、近年たびたび発生している集中豪雨被害では「線状降水帯」が観測されています。

これは、複数の積乱雲が一列に連なって長さ数百km、幅数十kmに及んだもの。積乱雲の発生と消滅が同じ場所で繰り返され、数時間から1日以上停滞します。その結果、局地的で甚大な水害が引き起こされる可能性があります。

雲の形を覚えて積乱雲を見分ける

積乱雲


積乱雲が起こす気象災害から身を守るには、事前に積乱雲を察知することが重要。そのためには積乱雲の形を覚えておくことが必須です。

積乱雲は数cmから数mの小さな対流(バブル)が集合してひとつの塊を形成するため、カリフラワーのような形になります。発達した積乱雲になると、強い上昇流や下降流に伴って特殊な雲がつくられます。

特に覚えておきたい特殊な雲は下記の4種類。これらの雲を見つけたら安全な場所に逃げ、身を守りましょう。

かなとこ雲
 

【覚えたい積乱雲の形1】かなとこ雲:発達した積乱雲のサイン

かなとこ雲は、対流圏界面に達した雲頂部が平らに広がったもの。名前の由来となった刀鍛冶が使う鉄床『かなとこ』のように見えます。

つまり、非常に発達した最盛期の積乱雲のサインであり、豪雨・降雹、突風、落雷をもたらす恐れがあります。数十km離れた位置から確認できます。

乳房雲
 

【覚えたい積乱雲の形2】乳房雲:大雨のサイン

乳房雲は半球状に垂れ下がった形であり、かなとこ雲の真下など積乱雲に伴うことが多い特殊な雲です。降水が始まると空一面が灰色に変わるので、昔から大雨の前兆として恐れられていました。

雲の底に丸く滑らかな突出部がいくつも形成される異様な形状で、気づきやすくなっています。一方で、寿命が短いのも特徴です。

アーククラウド
 

【覚えたい積乱雲の形3】アーククラウド:ガスフロントのサイン

アーククラウドは、積乱雲からの強い下降気流(ダウンバースト)が地上を発散する前面(ガストフロント)上に形成されるアーチ状に広がる雲。まさに突風のサインです。

棚雲や、ロール雲と呼ばれることも。冷たい下降気流と周囲の暖かい空気がぶつかる「ガスフロント」の通過を教えてくれる危険な雲です。

漏斗雲
 

【覚えたい積乱雲の形4】漏斗雲:竜巻のサイン

漏斗雲は、今まさに竜巻が発生している証拠。雲の底から地上に向かって長く伸びる漏斗(ろうと)のような形で、目撃すれば誰もが危険と判断できるでしょう。この雲を見かけたら、頑丈な建物の中などに逃げてください。

積乱雲による気象災害を避ける

積乱雲下での運転


危険な積乱雲を見分けることができたら、リスクを軽減する対策が取れます。ドライブ前や出かけ先では、次の4つを心掛けると良いでしょう。

なお、積乱雲はひとつあたりの寿命は長くても1~2時間程度と短命ですが、連続して新しい積乱雲が発生する場合もあります。

【対策1】ハザードマップを活用する

自治体が作成したハザードマップでは、洪水や土砂災害などの危険度が記されています。自宅周辺やよく走る道路周辺は、あらかじめハザードマップを確認しておくこと。積乱雲を見つけたときには、危険な場所に近寄らないように。

「竜巻発生確度ナウキャスト」の画面

(引用元:気象庁「竜巻発生確度ナウキャスト(ブラウザ版)」)

【対策2】気象情報をチェックする

最近ではスマホアプリでも、精度の高い気象情報を入手可能。例えば、現在あるいは10分先の天気を予測するWEBサービス・アプリ「ナウキャスト」は、突発的な大雨に有効です。現在地や予定したルート上で大雨や落雷などをもたらす積乱雲が発生しているときは、無理せず安全な場所に退避しましょう。

【対策3】具体的なアクションを想定しておく

大雨や落雷など気象災害に遭遇したらどのように行動するか、普段から具体的なアクションを想定しておきましょう。河川の近く、土石流の危険がある急傾斜地など、その場のシチュエーションに応じた行動を決めておくこと。当然、避難できる場所も事前に確認しておいてください。

【対策4】海抜などの地理的条件を意識する

東日本大震災以降、日本では津波対策として様々な場所で海抜高度が表示されるようになりました。運転する際は道路脇の情報を確認し、危険な箇所を認識しておくことが大切です。

例えば、50mm/h以上の雨、気象用語でいう「激しい雨」や「猛烈な雨」が降ると下水で処理しきれず、道路が冠水する恐れがあります。アンダーパスや地下を走るトンネルなどで水がたまると水深を目視できず、そのまま侵入すると水没する危険性があります。積乱雲を見つけたら現在いる地形に注意する必要があります。

教えてくれた人
小林文明

小林文明(こばやし ふみあき)。防衛大学校の地球海洋学科教授。日本風工学会理事。積乱雲および積乱雲に伴う雨や風、雷を研究している。著書には「竜巻~メカニズム・被害・身の守り方~」(成山堂書店)などがある。

 
CREDIT
写真: 小林文明、Adobe Stock
文: 田端邦彦(ACT3)