【連載クルマ“女子”き(くるまずき)】自動車に移動手段以上の価値を見出し、時間もお金も費やする、いわゆる「車好き」はほとんどが男性である。ゆえに大変貴重な「女性の車好き」、しかも男性顔負け(?)の偏愛ぶりを見せる女性を取材する企画。カーセンサーは車好き女子を、応援しています!

【連載:クルマ“女子”き(くるまずき)】
自動車に移動手段以上の価値を見いだし、時間もお金も費やする、いわゆる「車好き」はほとんどが男性である。ゆえに大変貴重な「女性の車好き」、しかも男性顔負け(?)の偏愛ぶりを見せる女性を取材する企画。カーセンサーは車好き女子を、応援しています!

超絶お嬢様と思いきや、超絶クルマ女子き

とある自動車イベントの会場でお見かけした神奈川県在住の小川優希子さんが乗っていたのは、1971年式のバンデンプラ プリンセスMK-II。俗に「ベビーロールス(小さなロールスロイス)」とも呼ばれた元祖・小さな高級車だ。

バンデンプラ プリンセスMK-II ▲神奈川県在住の小川優希子さんと愛車のバンデンプラ プリンセスMK-II

そして小川さんのどことなくお嬢様風なビジュアルを見るにつけ、「この人は田園調布あたりにお住まいの超絶お嬢様で、あのバンデンプラ プリンセスもお祖父様から譲り受けたにモノに違いない」と勝手に思っていたのだが、聞いてみると「自分で買った」とのこと。

さらにはコレの他にR50型ミニ(初代BMW製ミニ)も持っていて、そちらはなんとCVTだったものを自分の意思で6MTに換装した個体だという。

「ただ者じゃない……」と戦慄を覚えた筆者は、さらなる詳細を根掘り葉掘り聞いてみることにした。

ミニ ミニ ▲実は、カーセンサー編集部員がミニ1台持ちのタイミングで取材をしていた。写真がR50型ミニ
伊達軍曹
伊達軍曹

お若い女性が71年式のバンデンプラ プリンセスを自分で買って普通に乗ってるというのもちょっとした事件ですが、それよりまずはミニですよ! CVTだったのを6MTに載せ替えたんですって?

小川さん
小川さん

はい。20歳のときにAT限定の運転免許を取って、22歳のときに最初の車として先々代ミニ(R50)のクーパーを買ったんです。CVTのやつを。でも……。

伊達軍曹
伊達軍曹

でも?

小川さん
小川さん

やっぱりMT車に乗りたくなっちゃって、横浜市内の専門店さんに頼んでトランスミッションだけ載せ替えてもらったんです。

伊達軍曹
伊達軍曹

……いろいろつっこみたい箇所が多いお話ですが、まずは免許についてお聞きましょう。そもそもAT限定免許じゃなかったんですか?

小川さん
小川さん

あ、それはとっとと限定解除したんです。最初は父のランクル80とかを借りて乗っていたんですが、運転すればするほど「車って楽しいなあ、運転って楽しいなあ。できればオートマじゃなくてMTで乗りたいなあ」なんて思うようになりまして。

なので、ミニを買う前にすでに限定解除はしていたんです。でも「まあ運転そのものに慣れるまではAT車の方がいいかな?」と思って、CVTのクーパーを買った次第です。

ミニ ミニ R50型
伊達軍曹
伊達軍曹

なるほど。ではつっこみどころその2ですが、トランスミッションを載せ替えるというウルトラめんどくさいことをするより、普通に「MTのミニに買い替える」方が500倍ぐらい楽だと思うんですが?

小川さん
小川さん

そうなんですけど……そのミニは私にとって初めての車でしたし、思い出が詰まってますし、そして希少色「ベルベットレッド」である点もすっごく気に入ってて。

なんというか「もはや我が子同然」みたいな感じですので(笑)、とてもじゃないけど買い替える気にはなれないんです。

伊達軍曹
伊達軍曹

ううむ、そうでしたか。まあそれだけ愛されればR50型ミニ クーパー君も本望ってやつでしょう。機械に意識があるのかどうか知りませんが。それはさておき、ミニのCVTをMTに換装するのって簡単にできるものなんですか?

小川さん
小川さん

ぜんぜん! 専門店さんに相談したら、最初は断られました。「コンピューターとかもいろいろ違うし、前例がないからどうなるか保証できないし。とにかく非常に難しいからあきらめてください」と。

伊達軍曹
伊達軍曹

ですよね。でもあきらめなかったんですか?

小川さん
小川さん

ぜんぜん(笑)。お願いし続けているうちにお店さんも「あんたには負けたよ!」みたいな感じになって、やっていただけました。

クーパー用5MTの一部機構とクーパーS用の6MTを組み合わせて、CVTだった私のクーパーが、世にも珍しい「6MTのクーパー」に生まれ変わったんです!

ミニ ミニ R50型
伊達軍曹
伊達軍曹

お店さんが心配していた「その後」は大丈夫だったんですか?

小川さん
小川さん

ぜんぜん大丈夫です。今から2年ぐらい前に換装作業が完了したんですが、その後トランスミッションの不具合は1回も起きてないですよ。さすが専門店さん! と思いましたね。

夢が叶ったし、MTのミニは運転が本当に楽しいしで、サイコーの気分でした。

Photo:稲葉真
伊達軍曹
伊達軍曹

その「サイコーの気分」なまま、車趣味の追求はいったん打ち止めにしておくという選択肢もあったと思うのですが、なぜ「1971年式のバンデンプラ プリンセスを増車」というレベルまで突き進むことになったんでしょう?

小川さん
小川さん

えーとそれはですね、大学時代の友人を通じて「ゆーるピアンミーティング(※)」の運営をやっている人たちと仲良くなったのが発端でしょうか。

※10~20代の若者が中心となって開催している人気の自動車イベント

伊達軍曹
伊達軍曹

どういうことですか?

小川さん
小川さん

あの人たちと付き合うようになってから、本当にいろいろなジャンルの車を見たり乗ったりするようになったんです。そうするうちに芽生えてしまったんですね、「コンピューター制御がなかった時代の車も運転したい!」という気持ちが。

伊達軍曹
伊達軍曹

そ、そうですか……。

小川さん
小川さん

そうです。で、そんなある日にパラパラと車雑誌を眺めていたら、そこにたまたまバンデンプラ プリンセスの写真が載ってたんです。

プリンセスのことはまったく知らなかったのですが、ひとめぼれで恋に落ちまして(笑)。今から1年半ぐらい前、2017年12月頃の話です。

伊達軍曹
伊達軍曹

なるほど。でもバンデンプラ プリンセスって今やかなり希少じゃないですか? よく見つかりましたね。

小川さん
小川さん

横浜市内のデイムラー ダブルシックス専門店さんの店頭にたまたまあったんですよ。

その日は事情があってゆーるピアン運営のH君の車の助手席に乗ってたんですが、走行中に左眼の周辺視野がバンデンプラ プリンセスをとらえまして。で、H君に「止めて!」と叫んで車を降りました。

夜だったのでお店は閉まっていて、シャッター越しにしか確認できなかったのですが、間違いなくバンデンプラ プリンセス、しかもとても状態のいいものでした。

バンデンプラ プリンセス
伊達軍曹
伊達軍曹

ものすごい行動力というか胆力ですね。

小川さん
小川さん

……や、というのも実は私、1年ぐらい前にも バンデンプラ プリンセスがそのお店にあったことを知ってるんです。

伊達軍曹
伊達軍曹

???

小川さん
小川さん

そのときも「いいなあ、素敵だなあ、買おうかなあ」なんて思ってたんですが、思ってるうちに、あっという間になくなっちゃったんです。

伊達軍曹
伊達軍曹

売れちゃったんですね。人気の希少車ですから、コンディションの良い個体はそんな感じなんでしょうね。

小川さん
小川さん

そうなんですよ。で、調べたらその翌日もお店は定休日だったので、最速の2日後、朝イチに問い合わせました。

そこで分かったのですが、店頭にあったバンプラは1年前に私が見たのと同じ個体で、諸事情あって1日か2日前にそのお店に戻ってきたものだったんです。そして、なじみのお客さん数人に「いいのが入りましたよ」と電話でご連絡したところなので、おそらく明日か明後日には2~3人の方が見にいらっしゃるでしょう、という話も伺いました。

バンデンプラ プリンセスMK-II
バンデンプラ プリンセスMK-II
伊達軍曹
伊達軍曹

で、小川さんはどうしたんですか?

小川さん
小川さん

……1年前の強烈な後悔はもう二度と味わいたくないと思いました。なので、そのままコンビニに走りました。

伊達軍曹
伊達軍曹

コンビニへ?

小川さん
小川さん

はい。コンビニのATMでとりあえず10万円おろしました。

そしてお店に行って「これ、手付金です!」という感じでバシッとお渡ししたんです。いわゆる即決ですね。まあその販売店さんがいいモノしか扱わないということは、前から知ってましたから。

バンデンプラ プリンセスMK-II

そんなこんなで現在は70年代のバンデンプラ プリンセスと「6MTに換装したR50型ミニ」の2台を所有している小川優希子さん。実家にお住まいだが、ご自分の車ついては自分で月極駐車場を借りている。

しかもバンデンプラ プリンセスの方は、販売店との約束に基づいて「屋根付き駐車場」を借りた。

最初は小川さんのことを「田園調布の超絶お嬢様か?」と思った筆者だったが、お聞きしたところごく普通の会社員さんであり、2台分の駐車場賃料を払うのは「決してラクではない」とのこと。

「でも自動車以外に特に趣味はありませんし(笑)、無機質な機械が、自分の意思と操作によってダイレクトに動く様を見たり感じたりするのが、このうえなく楽しいんです。なので、この2台を手放すつもりはさらさらないんですよね」と言う小川さん。

……「人を見かけで判断しちゃいけません」と教えてくれた小学生時代の恩師・F先生の言葉を40年ぶりに思い出した、この日の不肖筆者であった。
 

文/伊達軍曹、写真/稲葉真
伊達軍曹(だてぐんそう)

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。