FCR▲世界でも希な形式といえる、ホテル(富士スピードウェイホテル)と一体になった富士モータースポーツミュージアム。建物の1階と2階をミュージアムが占め、そこに40台以上の車両が展示される。入館料は18歳以上1800円(休祝日2000円)、中高生は900円(1000円)、小学生700円(800円)。オンライン予約の場合は18歳以上が200円引き、中高生・小学生が100円引き

国内と海外の自動車メーカーが連携した常設展示に注目

「現在、トヨタ自動車は静岡県において同時にふたつ、大きなプロジェクトを手掛けている。一つは東富士工場跡地に建設中の実験都市「ウーブン・シティ」。もう一つが富士スピードウェイを中心とした「富士モータースポーツフォレスト」だ。

前者は自動運転などを実現する未来都市であり、後者は大人の遊び場・社交場として、モータースポーツ文化を楽しめる複合施設を目指して誕生した。

2022年10月7日、その富士モータースポーツフォレストの一環として作られた「富士スピードウェイホテル」と「富士モータースポーツミュージアム」がオープンした。

ホテルは、日本初上陸のブランド「アンバウンド コレクション by Hyatt」として開業。ここでは、そのホテルと一体になった「富士モータースポーツミュージアム」に注目してみたい。

同館は“モータースポーツが車を鍛え、進化させた熱い歴史をたどる”を設立趣旨に掲げている。モータースポーツミュージアムとしては世界初の試みとなる、国内メーカーはもとより、フォード、メルセデス・ベンツ、ポルシェといった海外の自動車メーカーを含めた10社の連携による常設展示を行っているのが特徴の一つ。

モータースポーツが量産車の進化に与えた影響をテーマとし、約130年におよぶモータースポーツの歴史や世界の主なレースなどを体系的に紹介。監修はトヨタ博物館によるものだ。

メインエントランスを入ると、いきなり真横にディスプレイされた「TOYOTA7」が目に飛びこんでくる。これは1960年代に日本グランプリの参戦に向けて開発された、トヨタ初の本格レーシングカーだ。

この他、施設内には本邦初公開となる1922年のストラスブール・グランプリ参加車両「サンビーム グランプリ」など、歴史に名を残すモータースポーツ車両の約40台が一堂に会している。
 

FCR▲手前が本邦初公開となった1922年のストラスブール グランプリに参戦した英国車のサンビーム グランプリ。奥は1920年代に活躍し、ブガッティの傑作レーシングカーと呼ばれるタイプ35
FCR▲1910年代に誕生したアメリカンスポーツカーのパイオニアであるスタッツ ベアキャット。展示車両は1911年のインディアナポリスのレースにエントリーした車両だ。この他にモータースポーツ黎明期に活躍した、シルバーアローと呼ばれたメルセデス・ベンツ W25のレプリカや、1964年のタルガ・フローリオ クラス優勝車両であるポルシェ 904-8も展示されている
FCR▲写真はトヨタ 2000GT スピードトライアル仕様車。さらに第1回日本グランプリ(CⅢクラス)で優勝した日野 コンテッサのレプリカモデル、1962年の日本グランプリで10位入賞を果たしたニッサン R382など、輝かしい実績をもつ日本車も展示されている

3階には富士スピードウェイを一望できるカフェも併設

ミュージアム3階には、ショップ&カフェ「Fan Terrace」を併設。全長50mにも及ぶテラスは、富士スピードウェイの最終コーナーが見渡せる絶好のビューポイントとなっている。ショップでは希少な書籍やオリジナル雑貨が購入できるというが、運営がTSUTAYAを手掛けるカルチュア・コンビニエンス・クラブと聞けば合点もいく。
 

FCR▲3階には富士スピードウェイの壮大なパノラマが堪能できるカフェの「Fan Terrace」を併設。希少な書籍やオリジナル雑貨も購入できる

そもそも自動車は、馬車に代わる新しい移動手段として誕生したもの。その動力源としてふさわしいのは、蒸気か、電気か、内燃機関なのか。それを決める競争の中から自動車レースが誕生したといわれている。モータースポーツは「動力の転換」という大きな変革期に始まったのだ。

そして今、自動車産業は1886年に世界初のガソリン車「ベンツ・パテント・モトールヴァーゲン」が誕生して以来の大変革期を迎えている。モータースポーツの世界でも水素エンジンやe-fuelなど、カーボンニュートラルに向けた動きが加速している。

自動車メーカーは威信をかけてレースに挑む。その熾烈な競争があったからこそ技術は進歩してきた。それはこれからも変わらないはずだ。過去から未来へと連綿と続くモータースポーツの歴史を俯瞰できる素晴らしいミュージアムが日本国内にオープンしたことは、自動車ファンにとって何よりの朗報だ。レースがない日でもぜひ足を運んでみたい。

<概要>
オープン:2022年10月7日(金) *富士スピードウェイホテルのオープン日と同日
開館時間:10時~17時
休館日 :無休(2023年3月まで)
所在地 :静岡県駿東郡小山町大御神645
 

文/藤野太一、写真/富士モータースポーツミュージアム