日産 シルビア

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?

ドリフトは「見る専門」です(笑)!

小学生の頃、父に連れて行かれたドリフト競技大会でたまたま見かけたS15シルビア(最終型日産 シルビア)に“恋”をした。

そして21歳で運転免許を取るとすぐに、6速MTのスペックR(S15シルビアのターボエンジン搭載グレード)を購入した――というような話を車好き諸氏にするとほぼ必ず、「おおっ、車がお好きなんですね! ドリフトはやられてます? そしてサスペンションのセッティングは○○を××にしてますか? ボクの日産 180SXは△△を□□にしてるんだけど、なかなかちょうどいいセッティングにならなくて……」みたいな話をグイグイされる。

だが「かやさん」は相手が何を言っているのか、ほとんどわからない。
 

日産 シルビア▲純正ブースト計がターボエンジン搭載のスペックRであることを物語っている

“車”が好きなわけでも、それについて特に詳しいわけでもなく、ただただ“S15シルビア”のことが死ぬほど大好きなだけだからだ。

「自分でも“このコ”のことがなぜこんなにも好きなのか、よくわからないんです……」

かやさんが“このコ”と呼ぶのは、2002年式日産 シルビア スペックRの6MT。今から5年前、21歳のときに「人生初のマイカー」として購入した。

小学生のときにS15シルビアの造形に熱烈に恋して以来、「買うなら絶対あの車! 買ったらドリフトもやってみたいかも!」と強く願っていた車を、働きながら見事に購入したわけだが、最初は動かすことすらままなかった。

力の強い人であれば特に苦にはならない場合が多いクラッチペダルの重さや、リバースギアに入れる際のキツさなどが、小柄で非力なかやさんにとっては大問題だったのだ。

「当時すでに1人暮らしをしていたのですが、シルビアはずっと実家に置いていました。で、仕事の合間に実家に帰って、父についてもらって運転の特訓をしたんですよ。でもぜんぜんダメで、父からは教習所で言うところの“ハンコ”をもらえない状態。『こんな状態でひとりで運転するなんてとんでもない!』と、父からは言われ続けてましたね」

しかし猛特訓の甲斐あって2ヵ月後には父上から“ハンコ”をもらい、1人暮らしをしている自宅まで、晴れてS15シルビアを持ち帰ることができた。「ドリフトもやってみたいかも!」という小学生の頃の淡い憧れは、とっくに雲散霧消していた。
 

日産 シルビア
日産 シルビア▲「ドリフトしたい!」気持ちは今となっては薄れたが、それでもサーキットでの走行会を観戦するのは大好きだという

シルビアがいないと体調を崩してしまうことも

だからといって、かやさんのS15シルビアに対する恋心または愛情までもが雲散霧消することはなかった。いや事実はむしろ逆で、かやさんのS15への想いはさらに燃えたぎっていった。

「自分でもホント、なんでこのコのことがこんなにも好きなのかわからないのですが、修理のためにしばらく工場に入ったりもするじゃないですか? そうすると私、具合が悪くなっちゃうんですよ(笑)。『シルビアがいない。悲しい……』的な感じで」

インタビューに同席していた恋人氏も、かやさんの発言を裏づける。「本当に彼女、シルビアが近くにないと、みるみるうちに生気が失われていくんですよね(笑)」

雪が降ったある日に駐車場から出そうとした際、あわてていたせいでガリガリガリッ!と車体を擦ってしまった。そのときには、S15から血液など出るはずもないのに、思わず「絆創膏!」と叫んでしまった。

S15シルビアの盗難事件がひんぱんに生じていた時期は、毎朝玄関の扉を開けるのが怖かった。「……あのコがいなくなってたらどうしよう?」という恐怖感からだった。

そして恋人氏が前述したとおり、修理などのため別のレンタカーなどに乗る期間が長くなると、目に見えて病んでいく。生気が失われていく。

「……そうなるとですね、思うわけですよ。『もしかしたら、友だちが乗ってるような普通の軽とかを買った方が、逆に楽しかったのかな?』とか。でも、結局はこのコを買って本当に良かったと思ってますし、おばあちゃんになったらS15の車内で死にたい――というのはさすがにいろいろ迷惑でしょうけど(笑)、『私の墓石はS15シルビアの形にしてほしい!』とは、本気で思ってるんです」
 

日産 シルビア▲外装同様に、車内もほとんど純正状態が保たれている

本人が「自分でもよくわからない」という“S15ラブ”の理由をそれでもしつこく尋ねると、「まぁカタチでしょうか? 特にS15の目(ヘッドライト)の形が大好きで、キリリとしてるんだけど甘すぎない感じの、あの目がいいんですよ。あのヘッドライトを自宅の照明機器として何個も欲しいぐらいです(笑)」と言うかやさんではある。

なるほどヘッドライトの形状は、確かにかやさんがS15型日産 シルビアを愛する「大きな理由」ではあるのだろう。だが、それが「決定的な理由」であるとも思えない。なぜならば、人はヘッドライトの形状ごとき(?)で「具合が悪くなるほど」何かを愛するということは、基本的にはないと考えられるからだ。

まぁご本人でもわからないことを、他人である筆者があれこれ推測してもわかるはずはないし、わかろうとすることに意味もない。

とにかくかやさんは出会ったのだ。それがないと、思わず具合が悪くなってしまうほどの“何か”に。

そしてそれは、おそらくは幸せなことなのだろう。たとえこれからも、ときに具合が悪くなる日があったとしても……!
 

日産 シルビア
文/伊達軍曹、写真/篠原晃一
日産 シルビア

かやさんのマイカーレビュー

日産 シルビア(S15型)

●購入価格/まだそんなに高くなかったので、200万円以下で買えました
●年式/2002年
●購入してからの走行距離/4ヵ月で約2000km
●マイカーの好きなところ/ヘッドライトのカタチがかわいい
●マイカーの愛すべきダメなところ/荷物やペットのネコを乗せるのが大変
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/丁寧に乗ってくれる人ならどんな人でも! とにかく車を大切にできる人

伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。