EQS▲メルセデス・ベンツ初のラグジュアリー電気自動車として発売されたEQS。電気自動車専用プラットフォームが用いられ、エンジン車とは異なるパッケージと外観デザインに仕上がっている

量産車世界トップのCd値0.20

メルセデス・ベンツ日本は初のラグジュアリー電気自動車であるEQSを発表した。設定グレードと税込み価格は次のとおりである。

・EQS 450+ 1578万円
・メルセデスAMG EQS 53 4MATIC+ 2372万円

外観は、電気自動車用の新しいプラットフォームの下で生み出されたもので、機能性やエアロダイナミクス、シームレスなデザインなど「センシュアル・ピュリティ(官能的純粋)」の思想が反映されている。

弓をモチーフにしたフォルムとサッシュレスドアにより、クーペのようなシルエットが形成されている。

エンジンやトランスミッションが必要なく、前方に配置されたAピラーと短い前後オーバーハングによってキャブフォワードのデザインが完成していて広いキャビンを確保。

フロントマスクにはブラックパネルを配置。ここには超音波センサーやカメラ、レーダーなど運転支援機構のデバイスが組み込まれている。サービス工場でのみ開けられるボンネットフードは左右フェンダーまで回り込み、左フェンダーにはウオッシャー液補充のためのリッドが設けられている。また、ドアミラーは空力特性と風切り音の低減に配慮したデザインで、ドアハンドルは格納式に仕上がっている。
 

EQS▲クーペのような装いは弓をモチーフにしたシルエットとサッシュレスドアによるもの。フロントマスクのブラックパネルには運転支援機構のデバイスが内蔵されている

ルーフからつながるクーペのようなリアエンドにはスポイラーが装着されている。また、ハッチゲートは隙間が緻密に設計されてボディとの段差が最小に抑えられ、周囲との連続性に配慮。

バックカメラは、スリーポインテッドスターの裏側に格納されていて汚れがつきにくい。そして、LEDリアコンビランプの内部は螺旋構造に設計されていて点灯時に立体的に見える工夫が施されている。リアビューを印象づける光の帯がメルセデスEQのモデルであることをアピールする。
 

EQS▲螺旋状にデザインされていて立体的に見えるコンビランプがユニークだ。バックカメラはスリーポインテッドスターの裏側に格納されており、後退時など必要なときのみ現れる

Cd値は量産車最高の0.20を達成。空力特性を向上させる取り組みは目に見えない部分にも徹底的に行われ、開発過程で実施された演算は数千回に達した。その成果はタイヤやホイール、フロントまわりのシール、Aピラーのデザイン、リアスポイラーなどに表れている。
 

EQS▲Cd値0.20を達成するため、ハッチゲートにはスポイラーが装備されている。タイヤやホイール、Aピラーのデザインにもこだわりが見られる

進むべき進路を示すARヘッドラップ・ディスプレイ

MBUXハイパースクリーンは3枚のスクリーンが1枚のガラスで覆われてワイドな画面を構成。ガラスはキズがつきにくく、掃除しやすいようコーティングされている。また、経年劣化による焼きつきを防ぐ技術も織り込まれている。

3枚のスクリーンとはメーターパネル(12.3インチ)、中央の有機ELディスプレイ(17.7インチ)、助手席側の有機ELディスプレイ(12.3インチ)のこと。合わせると幅は141cmに達する。

その周囲は、シルバーのフレームと空調ダクト内蔵のルーバー状トリムで囲われている。左右の空調ダクトはジェットエンジンのタービンをモチーフにしたデザインで、エアコンの空気を効率よく配分する機能を有する。

空調パネルは中央ディスプレイの下部に設置されていて常時表示されるため、左右席から温度や風力を変えることができる。

中央ディスプレイと助手席側ディスプレイは有機ELのため、見る角度や周囲の光に関係なく高い輝度で発色してクッキリとしたコントラストが生み出される。また、触感フィードバック機能が採用されているため、物理スイッチと同じように押したことがわかる。力覚フィードバックも搭載されているので、ガラス面を押す力に応じて応答が変化する。

助手席側ディスプレイでは走行中も動画コンテンツが楽しめる。もしドライバーが見るとカメラによるブロック機能が作動し、減光して見えなくなる。なお、助手席が空席のときはグラフィックが表示される。

このMBUXハイパースクリーンはアルミ製ブラケットでマグネシウム製の支持部に接続されている。ブラケットはハニカム構造に設定されており、衝突時には変形して衝撃を吸収する。また、側面衝突時を考慮し、ドアには達しないデザインに仕立てられた。
 

EQS▲メーターパネル、中央ディスプレイ、助手席側ディスプレイは1枚のガラスで覆われ、その幅は141cmに達する。直に触れて操作する触感スイッチが採用されている

対話式音声認識機能のMBUXは「充電ステーションを探して」「出発時刻を8時に設定して」など、EV固有の機能にも対応している。

エレクトリック・インテリジェンス・ナビは地図データから得た勾配情報や充電ステーションの位置情報、車両の充電状況や気温などを総合的に判断し、充電場所も含めて最適なルートを案内する。

前部がインパネに連続しているセンターコンソールは宙に浮いた構造に設計されている。これは、EV専用プラットフォームによって従来のセンタートンネルが不要になったことを視覚的に示している。
 

EQS▲センタートンネルが不要になったことでコンソールは宙に浮いた構造に仕上がっている。左右の空調ダクトはジェットエンジンのタービンをモチーフにデザインされた

ドアトリムには周囲の暗さに反応して自動的に点灯するアンビエント照明が組み込まれており、アームレストやドアグリップ、ポケットなどを美しく演出する。

EQS 450+には造形美にこだわったシンプルなシートを起用。サイドサポートと中央部のコントラストが立体感を生み出している。

オプションのAMGラインを選択するとスポーツシートが装備される。一体型の形状が特徴で、表面は本革のカバーを掛けたようなデザインに仕立てられる。また、シートの輪郭には照明付きパイピングが施されている。

コックピットの機能と操作は基本的にSクラスと同じだが、EVならではの演出としてグラフィックはすべてブルーにデザインされている。

MBUX・ARナビは前方に広がる現実の景色が画面に映し出され、進むべき進路が矢印で表示される。さらに、EQS 450+にオプション設定、EQS 53に標準装備されるARヘッドアップ・ディスプレイでは進むべき進路がフロントウインドウの約10m先の景色に重ねて表示される。車の進行方向が変わると矢印も動き、常に進むべき方向がわかりやすく示される。目線をそらさずに、より直感的に判断できる。

EVでは風切り音が耳につきやすいため、静粛性も重要なポイントである。低周波ノイズを防ぐため、ボディの空洞部分には多くの防音発泡材が充填されている。

高周波のノイズに対してはドアとウインドウのシールに防音対策を実施。格納式ドアハンドルやドアミラーも最適化されてノイズを低減。

Aピラーではフロントウインドウとの境目に特殊なゴム製トリムを取り付けることでノイズが抑えられている。

この他、バッテリーとフロアの間に発泡剤が敷き詰められ、徹底したNVH対策を実施。ハッチゲートには吸音部が設けられ、ボディで発生する周波数共振が低減されている。

好みに応じて音を楽しめる機能も設定されている。複数のサウンドから好きなメニューを選ぶと、ドライブモードに応じて音が変化する。そのサウンドはアクセルペダルの踏み込み量や車速、回生ブレーキ量など十数種類のパラメーターに反応して変わる。効果音は今後も追加される予定だ。
 

2種類のパワートレインともバッテリー容量は107.8kWh

EQS 450+は後輪アクスルに最高出力333psのパワートレインを搭載。航続可能距離は日本で販売されている電気自動車の中で最長となる700km。電気モーターには永久磁石同期モーターが用いられているため、ローターには通電の必要がない。リチウムイオン電池の容量は107.8kWh。

EQS 53では前後輪にパワートレインが搭載されており、最高出力は658ps(レーススタート使用時は761ps)で、航続可能距離は601km。前後モーターは独立して制御できるため、駆動トルクは連続して可変配分される。こちらのリチウムイオン電池の容量も107.8kWhだ。

サスペンションは前輪が4リンク式、後輪がマルチリンク式。連続可変ダンピングシステムとエアサスペンションが組み合わされたAIRMATICが標準装備されている。

AIRMATICのセルフレベリング機構は乗員や荷物に関係なく地上高を一定に保つが、必要に応じて変化する。例えばコンフォートモードでは120km/h以上で10mm、160km/h以上でさらに10mm車高を下げて空気抵抗を低減。車速が80km/hを下回ると元の車高に戻る。 車速が40km/h以下であればボタン操作で車高を25mm上げることもできるが、50km/hを上回ると自動的に戻る。

小回り性能を向上させるため、後輪にはステアリング機能が採用されている。最大舵角はEQS 450+が4.5度、EQS 53は9度。

パワートレインやサスペンション、ステアリングの特性はドライバーの好みに合わせて変えられる。EQS 450+には「コンフォート」「スポーツ」「エコ」「インディビジュアル」の4モードを、EQS 53には「コンフォート」「スリップ」「スポーツ」「スポーツ+」「インディビジュアル」の5モードを用意。

EQSには回生ブレーキが備わっていてアクセルペダルを戻したときやブレーキペダルを踏むとバッテリーが充電される。ステアリングホイールのシフトパドルを使えば減速度を3段階に切り替えられる他、コースティング(空走)機能も選べる。また、前走車との車間距離や道路の勾配を加味して最適な強さの回生ブレーキが働くオートモードも用意されている。

ECOアシストでは効率のいい運転が行えるよう、回生ブレーキの強弱が自動的に調整される。

EQSは全車が6.0kWまでの普通充電と150kWまでの急速充電(CHAdeMO規格)に対応している。急速充電での充電時間は以下のとおりである。

50kW:10%→80%まで110分。30分間での充電量(10%から開始)は29%
90kW:10%→80%まで55分。30分間での充電量(10%から開始)は47%
150kW:10%→80%まで48分。30分間での充電量(10%から開始)は59%

バッテリーは、EQケアによって10年もしくは25万km(残容量70%)が保証されている。ちなみに、リチウムイオン電池はニッケル・マンガン・コバルトの使用比率が8:1:1で、コバルトの含有量は10%以下に抑えられている。メルセデス・ベンツは将来的にはコバルトの使用を全面廃止できることをめざしている。

高電圧システムは多段保護方式で、危険が発生すると自動的に電源がOFFになってバッテリーとの接続が遮断される。しかも残留電圧による傷害を防ぐため、数秒以内に放電されるよう対策が施されている。

バッテリーは、ボディシェル構造内に組み込まれて保護されている。また、パワートレイン用モジュールはフロントとサイドのエネルギー吸収構造と高剛性の二重壁ベースプレートで構成されたハウジング内に収納されている。
 

EQS▲衝突時に備えてバッテリーはアルミの押出成型材などによって守られている。エラーが発生したときにはシステムが遮断されて停止する

日本仕様の特別な機能として、車外に電力を供給できる双方向充電が可能だ。家庭の太陽光発電システムが発電した電気を貯蔵でき、停電時には家庭に電気を送ることが可能だ。給電はMBUX設定画面からバッテリー残容量の10%から50%まで10%単位で設定できる。

オンラインストアでは好きなタイミングで以下の機能およびサービスを追加できる。

ビギナードライバーモード:ドライブモード「スポーツ」とESPオフが使用不可で、最高速は約120km/hに制限される。

バレーサービスモード:最高速が80km/hに制限され、個人データにアクセスできないよう保護される。後輪ステアリングの操舵角が最大4.5度から最大10度へとアップグレード(EQS 450+のみ)。

インディビジュアライゼーション・パッケージ:エンジン音を彷彿とさせる走行サウンド(EQS 450+のみ)や各種ミニゲームの追加。

EQSにはA2用紙とほぼ同じ大きさ、A4サイズの約4倍にあたる新開発の大型HEPAフィルターが標準装備されている。約600gの活性炭が使われており、不快な臭いを低減。

サッカー場約150面に相当する微細粉塵フィルターも備わっていて、PM2.5~PM0.3などの粒子状物質を最大99.65%取り除く。

ウイルス対策として、大型HEPAフィルターのウイルス捕集性能は86%以上(劣化後は80%以上)を確保。バクテリアの捕集性能は90%以上(劣化後は88%以上)。
 

EQS▲大型HEPAフィルターと微細粉塵フィルターによって臭いや粒子状物質の侵入が抑えられる。ウイルスとバクテリアを捕集する能力も高い

低速時に歩行者が気づきやすいよう、車両接近通報サウンドが標準装備されている。車速が約30km/h以下の時に専用の音が発せられ、車速が上がるにつれて音量が大きく&周波数が高くなる。

ユーザーの不安を取り除くプログラムも用意されている。新車購入から5年もしくは10万kmの早い方まで一般保証修理や定期メンテナンス、24時間ツーリングサポートが無償で提供されるEQケアを適用。

車載されている専用の充電カードを使えば全国約2万基の充電器が利用できる。申し込み時から1年間は月額基本料と充電料金は無料だ。

テレマティクスのメルセデスmeコネクトには以下のサービスが含まれる。

3年間無料、以降7年間自動継続されるサービスは24時間緊急通報サービス、24時間故障通報サービス、リモート車両ステータス確認、スマホからナビの目的地が遠隔設定できるSend2Car。

3年間無料で、以降は有料で継続できるサービスはリモートウインドウ&サンルーフ、リモードドアロック、駐車位置検索、空車情報も見られる駐車場情報。

ステレオカメラとレーダーセンサーが周囲の状況を検知する安全運転支援システムの詳細は次のとおりだ。

【アクティブディスタンスアシスト・ディストロニック】
高速道路などで走行時に先行車を認識し、速度に応じて車間距離を制御。減速が必要な場合にはブレーキが自動調整され、先行車が停止した場合には自車も停止。停止している先行車も検知可能になり、先行車との距離が突然縮まった場合には警告灯と警告音でドライバーに注意を促す。

また、自動再発進機能も備わっており、停止後30秒以内に先行車が発進した場合にはアクセルペダルを踏まなくても自動で再発進してくれる。停止時間が30秒を超えた場合はアクセルペダルを踏むかステアリングスイッチを操作すれば再発進できる。

【アクティブステアリングアシスト】
車線のカーブと先行車を、車線が不明瞭な道ではガードレールなどを認識して、ステアリング操作をアシストしてくれる。

【渋滞時緊急ブレーキ機能】
先行車と左右の車線を監視し、渋滞の最後尾が現れたときに前走車との衝突の危険を検知する。左右に回避スペースがない場合は即座に自動ブレーキが作動、回避スペースがある場合はドライバーの回避操作が優先される。ただし、ドライバーが反応しない、もしくは回避操作が遅れてしまったときには即座に自動ブレーキが作動する。

【アクティブレーンチェンジングアシスト】
高速道路でアクティブステアリングアシストを起動させるとき、ウインカーを点滅させると3秒後に他車との衝突の危険がないことを確認し、安全な場合に自動で車線を変更する。

【アクティブエマージェンシーストップアシスト】
ドライバーが一定時間ステアリング操作を行わないと警告灯&警告音によって操作を促す。それでも反応がない場合には緩やかに減速して停止する。停止後にはパーキングブレーキが自動的に作動して後突による二次災害を防止。

【アクティブブレーキアシスト】
先行車や前を横切る車両、歩行者、路上の物体などとの衝突の危険性を感知すると、表示や音でドライバーに警告。必要に応じて強い制動力が発揮できるようブレーキ圧が高まる。ドライバーの反応がない場合には自動緊急ブレーキが作動する。右折時の対向車にも反応する。

【緊急回避補助システム】
歩行者などとの衝突の危険を検知すると、回避できるようドライバーのステアリング操作をアシスト。回避後の車線復帰もサポートする。

【トラフィックサインアシスト】
一般道や高速道路を走行中、制限速度などの標識を読み取ってディスプレイに表示する。制限速度を超えた際、警告音でドライバーに注意を促す機能も含まれている。

【アクティブレーンキーピングアシスト】
前輪が走行車線から逸脱した場合にステアリングが断続的に震えてドライバーに警告。ドライバーの反応がない場合には自動補正ブレーキで車線内に戻るチカラが生じる。

【アクティブブラインドスポットアシスト】
リアバンパー左右のレーザーセンサーが死角エリアにいる車両や自転車を検知。30km/h以上で走行時に接触する危険があるときには、ブレーキの自動制御によって危険回避をサポート。

また、イグニッションOFF後3分間は後方から障害物が近づくとドアミラー内の警告灯が点灯し、さらにドアを開けようとすると警告音が鳴る降車時警告機能も備わっている。

【ドライブアウェイアシスト】
前方もしくは後方1m以内に障害物があるにもかかわらず、その方向に進もうとしてアクセルペダルを強く踏んでも速度は2km/hに抑えられ、警告音がドライバーに誤操作の可能性を知らせる。

【360度カメラ】
フロントパネル、左右ドアミラー、リアの4ヵ所に広角カメラが設置されており、合成処理された周囲の状況がモニター画面に表示される。自車を真上から見ているかのようなトップビューも選べる。

【メモリーパーキングアシスト】
所定の2地点(例えば自宅駐車場と乗降場所)を結ぶルートを記憶させると、車両が区間内の移動と駐車を行う。ただし、ドライバーは運転席に残る必要がある。ルート上に障害物を検知した場合には停止する。

EQSは、ジンデルフィンゲン工場内に建設されたファクトリー56で生産される。このファクトリー56は将来的にCO2収支が完全にゼロかつエネルギー消費量も大幅に削減されてゼロカーボン工場になる。

エネルギー総需要量は他の組み立て工場と比べて25%も抑えられる。屋根には太陽光システムが設置されており、自家発電したグリーン電力によって年間電力需要の約30%が賄われる。また、屋根は40%が緑化され、屋根構造には再生コンクリートを初めて採用。

開発と生産には再生可能原料やリサイクルされたプラスチック材料が使われ、原油を使用する生産と比べてエネルギーの節約とCO2排出量の削減が可能になっている。

EQSではコンポーネンツの他にプッシュボタン、プラスチックナット、ケーブルファスナーなど186点(総重量82.4kg)について、資源消費の少ない材料が使われている。この他、フロアカーペットにはリサイクル原料由来の糸が使用されている。この糸は古くなった漁網やカーペットから出る繊維くずなど、廃棄物から回収された再生ナイロンで作られている。
 

文/マガジンX編集部、写真/メルセデス・ベンツ