マセラティ クアトロポルテ

■これから価値が上がるネオクラシックカーの魅力に迫る【名車への道】
クラシックカーになる直前の80、90年代の車たちにも、これから価値が上がる車、クラシックカー予備軍は多数存在する。そんな車たちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく企画「名車への道」。

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。『クルマは50万円以下で買いなさい』など著書も多数。趣味は乗馬。

素質は一流なのに評価が分かれる。不遇のGTだよね

——さて、この企画ですが今後は2000年代とか新しめの車を積極的に取り上げようと思っています。

松本 それは正しいね。近代の車でも素晴らしいモデルはたくさんあるからね。

——今回はマセラティにしてみました。

松本 車っていうのは時が経てば自動的に名車になるわけじゃない。誕生した時から何かしら片鱗みたいなものを備えている車が最終的に名車になっていくんだよ。例えばマセラティで言えば3200GTとかね。でもマセラティは大抵のモデルがいい雰囲気出しているよね。

——松本さん前にも言ってましたよね。初期型の細目のテールランプがいいって。

松本 そうなんだよね。あれってとても際立ったデザインだよね。途中からレギュレーションで大きくなってしまって残念だったよ。
 

マセラティ クアトロポルテ
マセラティ クアトロポルテ

——今回はクアトロポルテです。

松本 4代目のガンディーニが作ったクアトロポルテは紹介したよね。

——はい。今回は5代目モデルですね。あ、ちょうどこの個体がそうですね。

松本 日本では2004年に出たモデルだね。個人的には媚びないスタイリングで好きだよ。色の組み合わせも素敵だね。

——この車がこの価格って……すごいことですよね。

松本 そうだね。この車は初期型だね。初期型はトランスミッションがリアに搭載されていて、MATと呼ばれる単板クラッチによる2ペダルMTタイプなんだよ。前後の重量バランスを最適化するために考えたレイアウトなんだ。

——へー。初めて知りました。

松本 エンジン音も良くってね。この年式はそれをダイレクトに伝えるんだよ。最高でしょ?
 

マセラティ クアトロポルテ

——確かに少し車を動かしただけでエンジン音が特異なのは分かりますね。

松本 シフトアップの時はツインクラッチタイプでは奏でることができない切れの良さとドラマチックな独特の「間」があるんだ。まるでMT車のようなシフトだね。でも2007年からはZF社製のトルクコンバーター式になって、しかもリアではなく前方に搭載されるんだよ。

——他に初期型の特徴ってあるんですか?

松本 初期型はドライサンプだね。だからエンジン搭載位置が低くできて、オイルによるフリクション損失も少ない。こういったレーシングカーのエッセンスが入っているところもいいんだよ。

——個人的には2000年代の車の中でもデザインはかなり個性的で素晴らしいと思うんですよね。

松本 この優雅なボディだけど、ボディの中間部がちょっとくびれて見えるでしょ? それが何とも言えない美しさを感じさせるんだよ。この美しさに並ぶ車は2ドアならフェラーリの612スカリエッティぐらいじゃないかな。4ドアではだんぜんクアトロポルテだよね。ボッティチェリのビーナスの誕生のようにふくよかでありながらエレガントな出で立ちを表現しているんだよ。

——デザインは誰でしたっけ?

松本 きみは本当にすぐに忘れるね(笑)。前も教えたでしょ! 5代目のクアトロポルテをデザインしたのはピニンファリーナで活躍していた奥山清行さんだよ。クラシックと現代の調和がとれた素晴らしいデザインだと思うね。

——確かに教わった気がします……。

松本 フロントをできるだけ伸びやかに見えるようにキャビンとドア下部の形状を工夫しているんだよ。そしてリアのトランクリッドを短くクオーターパネルにクーペの形状を取り入れて4ドアサルーンをスポーティサルーンに仕立てたんだね。堂々としたデザインはステアリングを握る人も優雅にさせるからね。そういう気持ちがある人が乗ると似合うと思うなぁ。
 

マセラティ クアトロポルテ

——この車を見て思うんですけど、この手の車はやっぱり色が大事ですよね。

松本 そのとおりだね。このクアトロポルテはデビュー時、確かカラーバリエーションが15種以上あったんじゃないかな。しかも内装のレザーは10種類からチョイスできたんだよ。

——そんなに? でも中古車だと結構ベーシックな色のモデルが多くないですか?

松本 多分だけど、日本では自信をもってチョイスできる人が少なかったんじゃないかな。そういった文化が日本にはあまりないからね。

——そういう意味ではこの車の色は、内外装共にアリですね。

松本 アリだね。インテリアとシートは世界的に有名なポルトローナ・フラウ社製が使われているし、デザインも美しい。好みならば乗ってほしい車だね。この値段なら絶対に満足できると思うし、これまで扱ってきた名車予備軍の中でも飛び抜けてコストパフォーマンスは高いと思うよ。
 

マセラティ クアトロポルテ

マセラティ クアトロポルテ

2004年から2012年に発売された5代目のクアトロポルテ。当時の親会社であるフェラーリの技術がふんだんに使われており、F430が搭載していた4.2LのV8エンジンを搭載。デビュー時は6速セミオートマティックの「デュオセレクト」のみで、のちにオートマチックが追加される。
 

※カーセンサーEDGE 2020年9月号(2020年7月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏