※徳大寺有恒氏は2014年11月7日に他界されました。日本の自動車業界へ多大な貢献をされた氏の功績を記録し、その知見を後世に伝えるべく、この記事は、約5年にわたり氏に監修いただいた連載「VINTAGE EDGE」をWEB用に再構成し掲載したものです。

▲ピニンファリーナとスカリエッティの共同デザインによるボディをまとった2シータークーペ。1976~1981年にかけて929台が生産された。最高出力360psを発生するドライサンプ方式の縦置き水平対向12気筒DOHCエンジンをミッドシップに搭載。4個のトリプル・チョーク・ウェーバー・キャブレターによる燃料供給で最高速度は302km/hに達する。1981年に排ガス対策として「Kジェトロニックインジェクション」を搭載する「512BBi」にバトンタッチしたが、こちらは最高出力:340ps/6000rpm、最高速度:280km/hにとどまる。1984年、テスタロッサの登場により生産を終了した ピニンファリーナとスカリエッティの共同デザインによるボディをまとった2シータークーペ。1976~1981年にかけて929台が生産された。最高出力360psを発生するドライサンプ方式の縦置き水平対向12気筒DOHCエンジンをミッドシップに搭載。4個のトリプル・チョーク・ウェーバー・キャブレターによる燃料供給で最高速度は302km/hに達する。1981年に排ガス対策として「Kジェトロニックインジェクション」を搭載する「512BBi」にバトンタッチしたが、こちらは最高出力:340ps/6000rpm、最高速度:280km/hにとどまる。1984年、テスタロッサの登場により生産を終了した

512BBは直線番長だけど公道でも乗りやすかった

徳大寺 今日は“BB(べべ)”だろう? 365か512か、どっちだろうな? いずれにしてもあれはすごくいい。第一に格好がいいだろう。
松本 スーパーカー世代にはフェラーリは神様ですから。僕は“ベルリネッタ・ボクサー”って呼びますけど、巨匠は“BB(べべ)”ってブリジット・バルドー風に呼びますね。今日は512だそうです。巨匠は当時乗ったことがあるんですか?
徳大寺 うん、365に乗ったよ。ありゃ運転手はたまんないぞ。なんたってクラッチがすごく重い。だからシートの傷みも早いんだよ。
松本 それは、キャブレターですね。トリプルチョークのウェーバーが4つも付いていますから調整だけでも大変なもんですよね。
徳大寺 でもエンジンフードがガバッと開くからキャブレターには手を入れやすい。フェラーリのレーシングカーの集大成が市販車として公道を走っているようなものだったね。
松本 180度クランクシャフトを持ったフラットエンジンですから、カムシャフトは4本になるわけですね。
徳大寺 それはそうだろう。出力も違うし、確かアウレリアのV6は2.5Lぐらいが限界だったはずだ。しかも初めは1.8Lぐらいからだから無理もない。
松本 正式には“フェラーリ365GT4BB”ですよね。ツインカムで180度クランクシャフトを持ったフラットエンジンですから、カムシャフトは4本になるわけですね。
徳大寺 4は275GTB/4に使われたのが最初じゃないかな。Bはベルリネッタ、もうひとつのBがボクサー。水平の状態でピストンが行ったり来たりする様子を表すんだ。
松本 フェラーリといえばエグゾーストからの音ですが、キャブレターだといい音しますよね。それともうひとつはハンドリング。かなりの直線番長ですかね。
徳大寺 昔っからフェラーリは直線が命だからな。ハンドリングなんてどうでもいいんだ。4.4Lにも関わらず音が軽くてアイドリングだってラフだからね。チューニングが高い。運転手は大変なんだ。
松本 だから普段乗るなら512の方が良いんですね。
徳大寺 そう、排気量をわずか600㏄大きくしただけなのに全然違うんだ。クラッチも軽くなってるし、これだったら普段乗れるな。
松本 北米に合わせたチューニングになっているんですよね。でも依然としてキャブレターですからフェラーリの意地も感じます。お店に到着です。エンジンフードが開いてますよ。キャブですね。白いハイテンションコードもオリジナルですね。
徳大寺 なかなか良いコンディションだな。過度なレストレーションよりもこのぐらいの方が現実味があるよ。ドアの閉まりもいいな。繊細でハンドメイドな感じが強い。この当時までのフェラーリは一台一台手作業だから価値がある。
松本 エンジンフードを開けた姿はまるでレースカーですね。ファイバーボディですし、トランスミッションは少し前のレースカー312Pの部品を使ってるという話ですよ。
徳大寺 1速が手前で、2、3速は素早いギアチェンジが可能だけど、日本のような交通事情だと1速と2速が多いから使いづらいな。気持ちよく高速を走るに限るだろう。
松本 この180度のV型の内部の部品のほとんどが365GTBデイトナと共通なんですよね。違うのはこのシリンダーレイアウトとフェラーリとしては初めてのタイミングベルトの採用というとこですかね。以前よりもメカニカルノイズが減少したといわれます。そしてシートが特徴的ですね。スポーツカーのシートととして後で真似たメーカーも多いですよね。
徳大寺 512のインジェクションがフェラーリ最後のハンモック型シートじゃないかな。
松本 ディテールはそうとうイカしてますね。今見てもカッコイイんだからピニンファリーナはスゴイ。
徳大寺 365よりも512の方がリアのテールランプがおとなしめだろ。片方に3つあったのが2つになって凄味は薄れたけど大人っぽくなったな。ピニンファリーナはそのあたりが上手いんだよ。大したもんだ。何たって長年美しいモデルを作っているだけに黄金比は十分わかってるんだ。そしてピニンファリーナもフェラーリだと気合も違うんじゃないかな。古くならないもんな。大きさもベスト。それに比べ今はスポーツカーでもなんでも大きくなりすぎたんだよ。
松本 この当時のようなプロポーションで十分なのにね。
徳大寺 ホントだな。今の車もこの時代の車を思い出してほしいな。

フェラーリ 512BB コクピット
フェラーリ 512BB エンジン
フェラーリ 512BB フロントビュー01
フェラーリ 512BB フロントビュー02
フェラーリ 512BB リアビュー

【SPECIFICATIONS】
■全長×全幅×全高:4400×1830×1120(mm)
■車両重量:1580kg
■ホイールベース:2500mm
■エンジン:水平対向型12気筒DOHC
■総排気量:4942cc
■最高出力:360ps/6800rpm
■最大トルク:46kg-m/4300rpm

text/松本英雄
photo/岡村昌宏


※カーセンサーEDGE 2009年9月号(2009年9月10日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています