▲1975年から1985年まで生産されたプジョーの旗艦モデル。ピニンファリーナがデザインを担当し、心臓部にはルノー 30、ボルボ 264と共通の2.7L V6エンジンが与えられた。ラリーで活躍した弟分の504と共通のサスペンションを採用し、乗り心地の面でも高いパフォーマンスを発揮したが、ドイツ勢の強力なライバルたちには敵わず、脚光を浴びることはなかった。日本でも正規で販売されたが台数は少なかったため、日本の中古車市場に出回ることは非常に希。 ▲1975年から1985年まで生産されたプジョーの旗艦モデル。ピニンファリーナがデザインを担当し、心臓部にはルノー 30、ボルボ 264と共通の2.7L V6エンジンが与えられた。ラリーで活躍した弟分の504と共通のサスペンションを採用し、乗り心地の面でも高いパフォーマンスを発揮したが、ドイツ勢の強力なライバルたちには敵わず、脚光を浴びることはなかった。日本でも正規で販売されたが台数は少なかったため、日本の中古車市場に出回ることは非常に希。

プジョーが作った戦後最初で最後のFRサルーンだね

EDGE:素晴らしい状態の個体を見つけたので、今回はそれにしてみました。プジョーの604です。

松本:それは珍しいね。珍重されるかどうかは別としてあのシートにもう一度座りたいな。604は乗り心地が抜群なんだよ。何たってホイールベースが2.8mを超えるフラッグシップだからね。スクエアなデザインだから余計にホイールベースが長く見えるよ。

EDGE:お店はお馴染みのコレツィオーネさんです。

松本:あ、この車か。これ、新車みたいだね。すごいな。

EDGE:何でも前オーナーが純正パーツもたくさんストックしてらしたみたいですよ、この車。

松本:どれほど大切にされていたかがわかるお手本のようなケースだね。ハイパワーじゃないから傷みも少ないんだろうね。ドアの立て付けはやっぱり往年のピニンファリーナらしく、ピシッとしてるし、このベロアのシートが泣かせるね。運転席もへたってないよ。これで7万㎞以上乗っているなんて……奇跡だね。ラジオのアンテナも電動でバッチリ動くじゃない。大抵ダメなんだよこのあたりが。

EDGE:シートも新品みたいですね……。

松本:ほらキミもリアシートに座ってごらん。

EDGE:おぉ! 柔らかい!

松本:これなんだよ。この乗り心地が味わえる最後の車だね。レザーじゃないところが通好みでいいんだ。

EDGE:この車のこと、実はよく知らないんですよね……。

松本:604は40年ぶりのフラッグシップモデルとして1975年に販売されたんだ。先代は1934年から1年間だけ、4000台弱生産された601というモデルだね。その601には「Eclipse C」というカブリオレがあってね。メタルのトップを電動で収納できたんだよ。メルセデス SLKよりも50年以上前だから進歩的だったね。

EDGE:それ、知ってます。プジョーが実はすごいっていうエピソードとしても有名ですよね。

松本:この604は極めてコンサバで目立たないフラッグシップなんだ。そう思わない?

EDGE:ですね。でも奥ゆかしさがあっていいじゃないですか。

松本:まぁ良く言えばそうなんだけど、フラッグシップには豪華な一面も必要なんだよ。ビジネスを考えると。

EDGE:確かにライバルは強烈な個性でしょうからね。

松本:でもその中であえて604に乗る人って流行にとらわれない考え方が垣間見え、堅実な感じするよね。デザインは当時泣く子も黙るピニンファリーナ。ボディもピニンファリーナの工場で作っていたはずだよ。あそこのボディは質が高いんだ。だからこそフェラーリも信頼して依頼していたんじゃないかな。

EDGE:同年代の もやっぱりスクエアなものが多かったですよね?

松本:そうだね。当時のピニンファリーナはこうしたデザインを最先端と考えて提案していたんだろうね。フィアット 130やフェラーリ 400などもその雰囲気だよ。

EDGE:エンジンとかメカニカル的にはどうなんですか?

松本:フラッグシップにはそれなりのエンジンが必要だと考えていたプジョーは604には6気筒を積むと決めていたんだ。40年前の601も6気筒を搭載していたしね。自前の6気筒を生産しても搭載する車がなければ商売にはならない。そこで「PRV」といってプジョー・ルノー・ボルボの3社で共同開発したユニットを取り付けたわけなんだよ。90度V型6気筒、SOHC方式でオールアルミシリンダー製の2.7Lエンジンだね。

EDGE:ルノーとかも使ってたあのエンジンですか。決して特徴的なエンジンではなかったですよね?

松本:604の悲劇は時代が合わなかったことだね。6気筒だからというよりも当時は第一次オイルショックの時期で燃費が悪い車には氷河期のような時代だったんだ。その後4気筒ディーゼルターボも出したんだけどドイツ車には敵わなかったんだね。結局1985年まで生産したけど、最後まで主役にはなれなかった。でもね、このエンジン僕は好きなんだよ。このエンジンはルノーのレース用エンジンの影響を受けていて、軽量で実はポテンシャルの高いユニットだったんだ。実際にこのエンジンを使ってル・マンに出たチームもある。そのチームはプライベートながらユノディエールのストレートで349㎞/hという最高速を記録したんだ。その時の成績が良かったんでプジョーはル・マンにワークスで出場する機会を得たんだよ。

EDGE:素質は高いんですね。そういう意味でも松本さん好みだ。

松本:正直ね、これは欲しいよ。プジョーが作った戦後最初で最後のFRサルーンだと考えれば貴重だしね。

プジョー 604
プジョー 604
プジョー 604
プジョー 604
プジョー 604
text/松本英雄
photo/岡村昌宏

※カーセンサーEDGE 2017年4月号(2017年2月26日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています