伸びやかな外観に抱えられたガレージ

まるで空に伸び上がるような造形を持つ住宅『FLOW』は、国内外を問わず活動する建築家・黒崎敏氏が手がけたもの。デザイン性を優先させたのではなく、機能性を重視した結果、生み出されたという独創的なガレージ付き住宅の魅力に迫ります

建築家による仕掛けがいろいろ施された住宅

巨大オブジェ?そう思わせるほど、今回訪れたS邸の造形は独創的であった。

少し距離を置いて観察してみると、巨大な積み木のようにも見えるし、大きな口を開けたクジラのようにも見える。正面がウッディな壁となっていて、その木目のラインが空に向かって一直線に伸びていることが、建物にスピード感にも似た雰囲気を与えている。

設計担当は、建築家の黒崎敏さん。施主であるSさんとは、ある店舗の設計者と施工者という間柄。すでに7~8年の付き合いになるという。Sさんが自宅を新築するにあたり、黒崎さんへのオーダーは、2台分の車庫を確保すること/車は、完全に外界から隔離されていること/広いリビングダイニング/コンクリート打ち放しの外観、というものであり、その他は基本的にオマカセとなったようだ。

表の通りから敷地内部は、黒い染料で色付けされた外壁の隙間から、わずかに窺える程度。黒崎さんは『シームレスな鳥かごをイメージ』したという。中がうっすらと見えることで、かえって車の盗難やピッキングなどの犯罪を防止する効果が高まるという。

どうやらS邸には、黒崎さんの手によるいろいろな仕掛けが施されていそうだ。

FLOW
建築家:黒崎 敏

APOLLO architects & associates
tel.03-6272-5828  http://www.kurosakisatoshi.com/
所在地:千葉県浦安市 主要用途:専用住宅
家族構成:夫婦、子供1人、母
構造:RC造 規模:2階建
敷地面積:148.55㎡ 延床面積:140.32㎡
設計・監理:APOLLO architects & associates/黒崎 敏

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村 博道 photos / KIMURA Hiromichi
構成・石井 隆 editorial / ISHII Takashi

後編を見る

個人邸とは思えない存在感を放つS邸だが、ガレージを囲う黒い木製の外壁と、ファサード面に使われた木目は、コンクリート打ち放しらしからぬ温かみを醸し出している

外壁の隙間から見える愛車2台(Gクラスと5シリーズツーリング)。夜になれば、エントランスから零れる光によって浮かび上がってくる

ガレージスペースは建物外部となるものの、庇を兼ねた外壁の胸に抱え込まれているようにも見える