辰巳氏が追いかけるスバル車の可能性(前編)

2006年の秋、スバルのテストドライバーの要、辰巳英治氏が定年を迎えSTI(SUBARU TECNICA INTERNATIONAL)に移った。
レガシィが誕生する以前のレオーネ時代、オフロードレースで、大排気量4WD車を相手に、世界初の乗用車タイプ4WDレオーネ1800改でそれらを追い回し、時には優勝をしていたのが若かりし頃の辰巳氏であった。それから約30年、叩き上げのテスト一筋で「スバルに辰巳あり」と言われるまでになり、レオーネからレガシィに至るスバルの走りの方向性を決定してきた男である。
そんな辰巳氏がSTIでさっそく仕上げた車が昨年8月に誕生したレガシィツーリングワゴンとB4の「tuned by STI」である。2.0GT spec.Bをベースとしたコンプリートカーだ。
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彼がSTIに移籍したとき、すでにこのモデルの開発は始まっていた。しかし、走りの味つけは彼が入念に行ったので悪いはずがない。
私は期待をもってB4 のtuned by STIを2週間お借りし、延べ1200kmほど堪能させてもらった。スタイルはノーマルのB4から大きく変更されていないが、12本スポークのSTIホイールの内側にはブレンボのブレーキがのぞいている。
走り出してすぐに、このSTI B4のしなやかな足回りに驚く。これが辰巳氏の言っていたスバル車の可能性だ。レガシィには様々な仕様が細かく設けられているが、この乗り心地はノーマルレガシィのどれにもない。ノーマルよりも乗り心地が良いのだ。コーナーや道のうねりや道路の繋ぎ目やマンホールの蓋など、目まぐるしく変化する路面を淡々としなやかにクリアしていく、そんな特別なセッティングが施されている。
今までのSTIのように路面の凹凸をサスペンションが受け止め、シートの座面からドライバーのお尻にゴツゴツと伝えるコンペティションモデルのようではない。路面から入った情報はタイヤとサスペンションで受け止め、ボディが受け流す。辰巳氏の開発したタワーバーが威力を発揮している。辰巳氏は、通常ボディを固めて剛性を上げるために装着されるタワーバーに、ピロボールを付けて自由度をもたせた。これにより絶妙なしなやかさが生まれた。ラリードライバーのペター・ソルベルグは自分のラリーカーより踏めると言っていたようだ。

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この車は静かにしてしなやかで戦闘的だ。
一般道で派手に車を操り、他の車を追い抜いて行くタイプの車ではない。安全に確実にそして静かにハイレベルな速度域で、他車を後塵にしてしまうからその必要がない。コーナーを出口に向かってジワジワと加速していく、その横Gが気持ちいいと感じる車だ。ドライバーの技量に合わせ、それぞれが楽しめる一台である。
この車は07年8月に600台限定で発売された。しかし9月の初めにすでに完売となっている。
今後、辰巳氏がSTIで作り出す車に注目してほしい。必ず、終わりのない走りへの欲望を満たしてくれる車を生み出してくるはずだ。
ちなみに新車価格はB4が413.7万円。ツーリングワゴンが427.35万円。
合掌。

※後編では、東京オートサロンに出品された「レガシィB4 S コンセプト」について直撃!
<奈落院煩悩寺和尚>