house 159 ▲Tさんの仕事部屋から中庭のテラスに出て、正面にガレージ、右手に玄関を眺めた様子。ガレージに掲げられたアルファロメオのロゴに、ちゃんと光が当たるよう、照明が設計されている。仕事の合間にも愛車をこうして眺めることができる

仕事部屋からもリビングからも、眺められる愛車

施主のTさんが建築家の鈴木秀雄さんにガレージハウスを依頼するのは、このアルファロメオの家で2度目となる。

最初の家はユーノスコスモ時代。中古のいすゞ117クーペから始まったTさんの車歴は、NA型ユーノスロードスターの1.6L車、同1.8L車、日産 ラシーンを経て、13Bのユーノスコスモへ。

「ロータリーは壊れると聞いていたけど、ホントに8万kmでやられました」。それでもエンジンを載せ替えて、結局10年以上は乗り続けた。

そして「親が土地を遺してくれたので、家を建てることにしました」。この頃はまだ独身。どうせならカッコいい家がいいなと、建築家を紹介してもらえるサイトにアクセスしたところ、23も提案があった。

その中からTさんが選んだのが、鈴木さんの案だった。傾斜地を利用して地下1階にガレージを備え、地上の2階部分は三角形を基調とした形状のコンクリート打ちっぱなしのガレージハウス。

地下から地上2階の間に7つのスキップフロアが折り重なる、なかなかアバンギャルドな家だった。

その後、ユーノスコスモからアルファロメオのアルファ166、そしてアルファ159へと愛車は替わり、会社を辞めて自ら事業を興し、結婚もした。

しばらく夫婦はユーノスコスモの家で暮らしたのだが、次第に奥さまの母親のことが気がかりに。「お義母さんは今も昔も、とても元気なんですが......」。とはいえ高齢の1人暮らし。

何かと不便だろうと、奥さまの実家を2世帯住宅に建て替え、一緒に住むことにした。そこで再び設計を鈴木さんに依頼し、出来上がった家がこの"アルファロメオの家"というわけだ。
 

house 159 ▲2階フロア。四方をガラス窓で覆った中庭の吹抜けを中心に、くるりと回遊すれば、食事や入浴、就寝など暮らしの活動のすべてが事足りる
house 159 ▲2階の廊下から眺めた景色。夜、リビングから寝室へ行く動線の中で、あるいは出かけようとする動線中に、こうして愛車を眺められる
house 159 ▲ガレージだけでなく中庭や玄関など、あらゆる場所で照明が計画されている。また中庭に面する外壁の塗り方も一工夫され、陰影で表情を作る
house 159 ▲玄関の扉を開けると、大きなガラス窓越しに、シンボルツリーがこのようにお出迎えしてくれる。右手は"シンボルカー"の収まるガレージだ
house 159 ▲ガレージには車止めを備えている。その車止めの奥(写真左手)にもドアがあり、仕事用の倉庫から仕事部屋へと回遊できる

ユーノスコスモの家は、初めて建てたこともあり、要望がまだふんわりとしていたし1人暮らしだった。

今回は2世帯住宅で、自宅に仕事の作業場も必要など、要望が細かくハッキリしていた。それを受けて鈴木さんが考えたのが「回遊できる家」だった。

「イメージとしては各部屋で中庭を囲む感じです。中庭を作ればすべての部屋が暗くならず、風通しがよくなります。それでいて外からの視線を気にせずに暮らすことができます。

加えて"回遊できる動線"にもこだわったのがこの家です」。回遊できることで、掃除や洗濯などの家事動線がスムーズになることはもちろん「家族が今どこにいるかも分かりやすい」と奥さま。

Tさんも「仕事で1階にこもっていても、息抜きにガレージへ行って車に触れたり、中庭のベンチまで出てタバコを吸ったり......と、回遊することで気分転換しやすいんです」。

中庭にはシンボルツリーとして常緑樹のシマトネリコが植えられた。しかし、この家の本当の"シンボル"は愛車のアルファ159 だと鈴木さんはいう。

「回遊できる風景の中に、Tさんが大好きな車を登場させたかったんです」と鈴木さん。だからガレージの一部をガラス張りにすることで、仕事部屋、2階のリビング、そして廊下からも見えるように配置した。

夜になって、リビングからスイッチをオンにすればガレージ内に明かりがともり、愛車が浮かび上がる。 今はアルファ159に乗るTさん。今後も愛車は替わるだろうが、少なくとも、いつも愛車がこの家の主役になるに違いない。
 

house 159 ▲仕事部屋から中庭方向を眺めた様子。中庭へ出なくても、仕事の合間にふと振り向いたり、トイレに行くたびに愛車を眺めることができる
house 159 ▲シンプルでスクエアな外観。外側に窓がほとんどないため、プライバシーを守りやすい。ガレージには木製のスライダーが備えられている
house 159 ▲2階のLDK、食事をするテーブルは中庭に向いている。写真奥のバルコニーはリビングとつながっているように感じられ、数値以上に広がりがある
house 159 ▲360度視界をさえぎるものがなく開放的な屋上。南側はデッキ材が張られていて、風景をのんびり眺めたりバーベキューを楽しんだりできる
house 159 ▲屋上から中庭を見下ろした様子。ここからも愛車がちらりと見える。シンボルツリーのシマトネリコは常緑樹で、多少日が当たらなくても成長する

■所在地:埼玉県春日部市
■主要用途:専用住宅
■構造:木造軸組構法
■敷地面積:252.61 ㎡
■建築面積:102.02 ㎡
■延床面積:174.82 ㎡
■設計・監理:鈴木秀雄(一級建築士事務所バサロ計画)
■TEL:03-3651-3395

※カーセンサーEDGE 2021年4月号(2021年2月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
 

文/籠島康弘