▲古い世代の車ゆえ、いくつかの欠点は確実に存在するちょっと前のアルファロメオ。しかしその痛快きわまりないエンジンの魅力の前では、ささいな欠点などまるで気にならなくなるものです ▲古い世代の車ゆえ、いくつかの欠点は確実に存在するちょっと前のアルファロメオ。しかしその痛快きわまりないエンジンの魅力の前では、ささいな欠点などまるで気にならなくなるものです

微妙に古いマンションも「日当たり」という一芸に秀でていればすべて善し

いきなり私事で恐縮だが、ネコの飼育を開始する関係で自宅を転居した。それまで住んでいた長屋は新築で非常に快適だったのだが、残念ながら「ペット飼育不可」であったのだ。

で、めでたくペット可の長屋を近隣に見つけたわけだが、それがなんとも築年数が古い。や、極端に古ければ「これぞビンテージマンションってやつだよね~」とかなんとかいって悦に入れるのだが、中途半端に古いのだ。それゆえ水回りや各所の造作などは正直ビミョーである。しかし筆者としては、実は今回の長屋に大満足している。 なぜならば、日当たりがウルトラ良好だからだ。

▲写真は残念ながら筆者の新居ではなくイメージ画像。しかし日当たりはこれとだいたい同じです ▲写真は残念ながら筆者の新居ではなくイメージ画像。しかし日当たりはこれとだいたい同じです

遺憾ながら筆者の長屋は上のイメージ写真ほどゴージャスではないが、日当たりと窓のサイズだけはおおむね同じだ。そんなお茶の間で日中、陽光を浴びながらテキトーに寝っ転がったりソファに座っていたりすると、こんな筆者でもそれなりに抱えている悩みや不安などがどんどん雲散霧消していき、やたらと幸せな気分になる。「ま、なんとかなるか。人間、生きてるだけで儲けモノだしな!」というようなポジティブマインドが体内に醸成されていくのだ。

そしてその結果、築年数が中途半端に古いゆえの細かな欠点はまったく気にならなくなる。本当だ。古めの物件しか借りられなかったことに対する負け惜しみではなく、「まったく」気にならないのだ。引っ越し以来、心なしか性格も明るくなったかもしれない。よう知りませんが。

同じイタリア人でも、天候がイマイチな日が多い北イタリアの人と、太陽さんさんの地に住む南イタリア人では気質もずいぶん異なると聞く。筆者にはイタリア人の友人はいないためその真偽は不明だが、今回の転居を通じて「まぁそうかもな」とは思うようになった。日当り良好という「一芸」には、想像以上のパワーがあるのだ。

車にとって最重要な一芸は「エンジンの気持ち良さ」(とデザインの良さ)

そして車も、何かしらの「一芸」にやたらと秀でてさえいれば、仮にその他の部分に細かな欠点や不満(古いとか不便だとか)があっても、総体としてはさほど気にならないというか、むしろ大満足し、生活全体がハッピーになるのかもしれないな……と思うに至った。

車に求める一芸は人それぞれだろう。ある者は「広さ(積載性)」を求め、またある者は「燃費性能の良さ」を求めるのかもしれない。「スピード命!」という人だっているはずだ。

それらすべてがその人にとっての正解だが、筆者が思うのは「やっぱ車はエンジンが気持ちよければ最終的にはオールOKなんじゃないか?」ということだ。見解は人それぞれだろうが、筆者としては「車におけるエンジンの良し悪し」とは、「住宅における日当たりの良し悪し」のようなものかと思う。そこさえかなり秀でていれば、他に多少の欠点があったとしても、運転中は常にニコニコと痛快ウキウキ通り♪なマインドでいられるものなのだ。

……あと内外装のデザインもか。ここがイマイチだと、いくらエンジンが最高でもすべてが台無しになるので、デザインの良し悪しもぜひ重視したいところではある。結論としては「エンジンとデザインさえステキなら、その他のプチ欠点はほぼ気にならなくなりますよ!」ということだ。

以上はもちろん個人的な嗜好に基づく見解にすぎないため、「わたしはそうは思わない」という方もいらっしゃるだろう。しかし同時に「ま、そうかもね」と思う方もそれなりにいらっしゃるとは思う。そんな後者の方へ向けてオススメしたいのが、「ちょっと古いアルファロメオ」各車だ。

▲環境性能なども重視する設計になった新世代アルファロメオのエンジンと違い、ひたすら爆発的で官能的なフィーリングが炸裂する旧世代のアルファロメオ。写真は90年代後半のGTV ▲環境性能なども重視する設計になった新世代アルファロメオのエンジンと違い、ひたすら爆発的で官能的なフィーリングが炸裂する旧世代のアルファロメオ。写真は90年代後半のGTV

旧世代アルファに乗ればちょっとした風邪も治ってしまう?

「エンジンとデザインがステキな車」といって真っ先に思い浮かぶのはフェラーリだが、さすがにあれは趣味というか工芸品の世界なので、普段づかいには完全に不向き。日常的に使えて、なおかつやたらとエンジンが気持ちよく、そしてデザインが内外装ともステキな車となると、筆頭候補はちょっと古いアルファロメオ以外は考えにくい。もちろんそれ以外にもエンジンとデザインがステキな車は多数あるわけだが、「群を抜いてる」のはちょい古アルファロメオだということだ。

00年代途中頃まで採用されていたアルファロメオ謹製V6エンジンであれば最高だが、ほぼ同時期までの直噴ではない4気筒、つまり「ツインスパークエンジン」でもかなり最高である。その回転感覚とエンジン音、吸排気音には人間の何らかの本能を刺激する妖艶さがあり、高回転域でガツンとくるパワー感にもシビれるほかない。筆者の馬鹿は死ぬまで治らないが、ちょっとした風邪であれば、古めのアルファに乗れば治ってしまいそうな気もする。気のせいかもしれないが。

そして内外装にわたるデザインも最高だ。もちろんこの「最高」というのは筆者や筆者に近い感覚をお持ちの人のみが思うことかもしれないが、ドライバーの眼前に広がるパネル類などの有機的な造形は、極力客観的に評したとしても「素晴らしい」と言えるのではないかと確信している。これまた、眺めているだけで風邪が治りそうだ。気のせいだろうが。

▲中期型のアルファロメオ GTVに搭載されていた3L V6DOHCエンジン。回転感覚や音質が最高に官能的であるのと同時に、エアインテークパイプなどの造形もひたすら美しい ▲中期型のアルファロメオ GTVに搭載されていた3L V6DOHCエンジン。回転感覚や音質が最高に官能的であるのと同時に、エアインテークパイプなどの造形もひたすら美しい
▲こちらもアルファロメオ GTV/スパイダー。一つひとつの曲線や面がいちいち有機的というかセクシーなのが、この世代に限らずアルファロメオ各モデルの内装の特徴だ ▲こちらもアルファロメオ GTV/スパイダー。一つひとつの曲線や面がいちいち有機的というかセクシーなのが、この世代に限らずアルファロメオ各モデルの内装の特徴だ

多少の欠点はあるが、乗ればまったく気にならなくなるはず!

そのように素晴らしい「ちょっと古いアルファロメオ」ではあるが、光があれば影もあるように、当然いくつかの欠点は存在している。

まずエンジンの設計が古いため、燃費はイマイチである。極悪というほどではなく、運転の仕方次第でそれなりの数値を叩き出すこともできるが、お世辞にも「好燃費」とは言えない。またちょっと古いイタリア車のお約束としてエンジンオイルの消費量がそれなりに多く、各所につまらん小トラブルが発生する可能性も、国産新車と比べるなら断然多い。筆者が乗っていた98年式アルファロメオ GTV 3.0 V6 24Vは、3000kmに一度はエンジンオイル交換をしないと不穏なムードが漂いはじめたものだ。そのGTVは「つまらん小トラブル」はほぼ発生しなかったが、それはたまたまだろう。

しかしそんな欠点の類も、素晴らしすぎるエンジンとデザインの前では完全に無力である。というか、旧世代アルファを運転していると脳内に快楽物質のようなものが湧き出てくるのか、燃費とかマイナートラブルとかはほぼどうでもいいという気分になるものだ。そしてなぜか知らねど、やや大げさに言うなら「生の歓び」のような感慨がお腹のあたりからふつふつと湧いてきて、誰もがだらしなくニヤけた顔で「……よし。今日も明日も、頑張って楽しく生きていこう! ナハハ~!」などというよう独り言をブツブツつぶやくことになる。

多少大げさな表現を用いた部分もあったかもしれないが、これらはすべて本当のことだ。それゆえ、ただ健康に生きている(生かされている)ことの歓びを日々増幅させたいすべての自動車愛好家に、「ちょっと古いアルファロメオ」を熱烈真剣に推奨する不肖筆者なのである。

▲今、最も手頃な旧世代FFアルファといえば、01年から11年まで販売されたこの147で、中古車相場はおおむね30万~90万円。セミATの「セレスピード」は故障が少々気になるところだが ▲今、最も手頃な旧世代FFアルファといえば、01年から11年まで販売されたこの147で、中古車相場はおおむね30万~90万円。セミATの「セレスピード」は故障が少々気になるところだが
▲こちらは98年から06年までの中型セダンである156。写真はスペシャルモデルの156GTA。中古車相場は素の156が20万~120万円ほどで、GTAは120万~270万円付近 ▲こちらは98年から06年までの中型セダンである156。写真はスペシャルモデルの156GTA。中古車相場は素の156が20万~120万円ほどで、GTAは120万~270万円付近
▲独特なデザインが魅力となる2ドアクーペのGTV。写真は03年からの後期型。中古車相場は50万~120万円といったところだが、このところ流通量は減少傾向にある ▲独特なデザインが魅力となる2ドアクーペのGTV。写真は03年からの後期型。中古車相場は50万~120万円といったところだが、このところ流通量は減少傾向にある
▲GTVの屋根なしバージョンである旧型スパイダーは現在、50万~140万円といったニュアンス。電動ソフトトップはほぼ必ず一度は故障するが(笑)、まぁ直せばいいということで ▲GTVの屋根なしバージョンである旧型スパイダーは現在、50万~140万円といったニュアンス。電動ソフトトップはほぼ必ず一度は故障するが(笑)、まぁ直せばいいということで
text/伊達軍曹
photo/フィアット・クライスラー・オートモービルズ、photo AC、大子香山