BMW XM▲BMW M専用モデル。オンロードの走行性能を高めたラージSUVであり、Mモデル初のプラグインハイブリッドでもある。全長約5.1mのボディにM史上最強のパワーユニットを組み合わせた

強烈なスタイルは “売る”ための必然的デザイン

その姿が公開されるや4シリーズや7シリーズのときと同様に車好きの間では賛否両論が渦巻いた。否、否定的な意見の方が多かったと思う。M1以来、久々に、というか史上2度目のBMW M専用モデルとして誕生したXMである。

このところのBMWデザインは常軌を逸しているという見方をするマニアは多い。キドニーグリルは大きくなる一方で、ヘッドライトはもはやアイアンマンだ。けれどもXMを試乗するべくやってきた米国フェニックスを走っていると、いまだにでかい顔をしたワイルドなピックアップトラックたちが、いかつさをさらに増して幅を利かせている。世界で最も大きなマーケットの好みはそうなのだ。そんなアメリカ市場と中国市場の嗜好が実はよく似ていると聞けば、なるほど最近のBMWデザインはしっかり“売る”ための必然だったと分かる。

ゆえにターゲット市場はアメリカと中国。この2大マーケットでXMの目標台数の半数を占める。続くのは中東や韓国。気になる日本市場はというと、国産モデルの顔つきも今や相当に“激しい”から、これくらい強烈でないと高い金を払う理由がないと思う人も増えているのだろう。XMへの注目度は日本でも実は高いのだという。

それはわかった。でも久しぶりのM専用モデルがどうしてSUVなのか? と疑問を呈するファンも多かった。筆者もそう思う。久しぶりにスーパーカーとは言わないまでも高性能スポーツカーを出してほしかった。メルセデスAMGやアウディスポーツのように。

Mのトップマネージメントに聞けば「SUVが普通の乗用車という時代だから」とそっけない。セダンやワゴンが一般的で背の低いスポーツカーに憧れの集まったM1の時代とは状況が違うというわけだ。そりゃそうなんだけどさ……。

もっともXMに関していえば、ハナからM専用として開発されたわけではなかったようだ。当初はX7ベースのSUVクーペ(X8)として企画されていたが、大型高級SUV市場におけるクーペニーズのポテンシャルを考えたとき、特別なM専用モデルとした方が長く太く売れるという判断だった。「高性能&ラグジュアリー」というMハイパフォーマンスモデルの使命をXMは究極的に表現しているという。パワートレインは1種類のみ、モノグレード展開だ。日本でもワンプライス設定である。

国際試乗会が開催されたホテルのパーキングロットには様々なカラーコーデのXMが並んでいた。鮮やかな赤や青にゴールドの差し色を入れた仕様は中国や中東で大ウケしそう。筆者にあてがわれたボディカラーは黒で、ディテールのくどさがかなり薄まっている。これなら普段でも気兼ねなく乗ることができそうだ。
 

BMW XM▲近未来的な印象を与えるという六角形のMデュアル・エグゾースト・テールパイプを採用。ブランドロゴはリアウインドウの上部に備わる

ユニークなエクステリアデザインとは裏腹に、コックピットはいかにも最近のBMWらしいデザインだ。Mだからシフトレバーもまだある。むしろ最新の3シリーズよりコンサバな印象。さらにMハイブリッドモードにより様々な設定が用意される。

ちなみにMハイブリッドモードには「ハイブリッド」に加え、「エレクトリック」と「eコントロール」というモードがある。「エレクトリック」はその名のとおり電動モードで、フル充電で約90kmをモーターのみで走る。「eコントロール」は常に充電を行うモードだが、「ハイブリッド」と比べるとそのエンジンフィールにはやや雑味があった。

赤いボタンをプッシュすると、思わず「え!」と声が出るほどの爆音とともにV8エンジンが目を覚ます。音はすぐに落ち着いてくれるが、朝イチスタートのしばらくはエンジンがかかったりかからなかったりで、まるで生き物のよう。ダンパー減衰力やエンジンフィールなどをセレクトできるダイナミクス系モードを「コンフォート」に、Mハイブリッドモードの「ハイブリッド」を組み合わせて走り出した。
 

BMW XM▲駆動系や足回りをドライバーの好みに設定できるMセットアップに加え、電動パワートレインの制御をセレクトするMハイブリッドモードが備わる

動き始めるとそのあまりに硬派な乗り心地にも驚く。試乗車には21インチ(標準)ではなく、オプションで選べる最大の23インチでもない22インチのタイヤ&ホイールが装着されていたのだが、実はタイヤのチョイスも含めてこれが最もスポーティなオプション装備だった。そのため街中での乗り心地はかなり硬質、というかとてもメタリカな印象だ。

救いはスポーツタイプシートが優秀だったこと。なにしろ強めの突き上げをしょっちゅう食らったというのに助手席乗車も含めて4時間ものドライブに耐えることができたのだから。これなら意外に長距離ドライブもこなしてくれそう。

交通量の少ないワインディングロードではダイナミック系モード(ハンドルやシャシー)を「スポーツ」、パワートレインだけを「スポーツプラス」にして挑んでみる。489ps/650N・mの4.4L V8ツインターボエンジン+197ps/280N・mのモーターでシステム性能653ps/800N・mを誇るBMW Mロードカー史上最強のエンジン付きパワートレインを、いざ解放しよう!

アクセルペダルを思い切り踏み込むと、盛大な唸りをあげてエンジンが回り出す。サウンドは豪快で、回転フィールはいわゆる“細かなやすり”系の気持ちよさ。もちろん、すさまじくパワフル! 車はやっぱりでっかいエンジンに尽きるよな、と思った瞬間だ。

70km/hを超えたあたりで硬質な乗り心地からも解放される。引き締まった心地よいフラットライドを楽しめた。Mハイパフォーマンスモデルだけあって、ワインディングロードも難なくこなす。その操縦感覚はまさにスポーツカーのようで、JDM系走り屋たちを驚かせる。
 

BMW XM▲最高出力489ps/最大トルク650N・mを発生する4.4L V8ツインターボを搭載。29.5kWhのバッテリーを備え、約90kmのEV走行も可能としている

面白かったのは、乗り手と車体との一体感がはっきりとあったというのに、サイズを小さく感じさせるということがなかったこと。大きな車に乗っているという印象がさほど変わらないのだ。にもかかわらず自由に操れているという一体感がずっとあった。これはとても珍しい体験だ。

自分が一回りも二回りも大きくなったように感じさせる。それでいて自在に動く。そんな乗り味の点でも、アメリカや中国で人気となることは間違いなさそう。もちろん、Gクラスやランクルを好む日本の大型SUVマーケットでも!
 

BMW XM▲運転席まわりはカーブド・ディスプレイを備えた最新ブランドデザインを採用。Mハイパフォーマンスモデルにはまだシフトノブが備わる
BMW XM▲フルレザー・メリノ・シートを標準装備。前席にはベンチレーションやマッサージ機能も備え、快適性も高めている
BMW XM▲後席はスポーティでラグジュアリーなくつろぎのMラウンジ・コンセプトを採用
BMW XM▲エクステリアのアクセントはハイグロスブラック(写真)とナイトゴールドを用意。充電口は左側フロントフェンダーに位置する
文/西川淳 写真/ビー・エム・ダブリュー

自動車評論家

西川淳

大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。

BMW Mの走りが楽しめるラージSUV、X5 M&X6 Mの中古車市場は?

BMW X5M/X6M

X5 MはMハイパフォーマンスモデルのラージSUVで、現行型は2020年に登場。キャラクターの異なるクーペスタイルのX6 Mもラインナップする。国内では走行性能を高めたコンペティションのみが販売されており、最高出力625ps/最大トルク750N・mの4.4L V8ツインターボを搭載。なお、2023年4月の改良で、48Vマイルドハイブリッドエンジンが採用されている。

2023年5月前半時点の中古車市場では、X5 MとX6 Mともに5台前後しか流通していない。平均価格はX5 Mが約1481万円、X6 Mが約1406万円となっている。
 

▼検索条件

BMW X5 M 現行型(3代目)× 全国

▼検索条件

BMW X6 M 現行型(3代目)× 全国
文/編集部、写真/ビー・エム・ダブリュー