フォルクスワーゲン タイプI▲軽自動車からスーパーカーまでジャンルを問わず大好物だと公言する演出家のテリー伊藤さんが、輸入中古車ショップをめぐり気になる車について語りつくすカーセンサーエッジの人気企画「実車見聞録」。誌面では語りつくせなかった濃い話をお届けします!

日常を便利にするための進化がタイプIの魅力

今回は、「OLD CAR’S MARKET」で出合ったフォルクスワーゲン タイプIについて、テリー伊藤さんに語りつくしてもらいました。

~語り:テリー伊藤~

僕はこれまでに8台のビートルに乗ってきました。つい最近もYouTubeの企画でボロボロのビートルを30万円で買ったんですよ

なぜ僕はここまでビートルに惹かれるのか。たまに考えることがあります。

もちろん、若い頃の思い出がたくさんあるからなのは間違いありません。
 

フォルクスワーゲン タイプI▲今回取材したタイプIは1954年式。リアウインドウの形状が楕円形(オーバルウインドウ)になっているのが特徴

僕のビートルは、よくアクセルやクラッチのワイヤーが切れて、何度も困り果てました。

中でも恥ずかしかったのは、ラブホテルの半地下の駐車場で動かなくなり、従業員の方に後ろを押してもらったことです。しかも、あろうことかラブホテルで2度も動かなくなったんですよ。最初は南平台、2度目は茅ヶ崎のホテルでした。

でも、若い時のトラブルは今となってはいい思い出です。
 

フォルクスワーゲン タイプI▲フォルクスワーゲン本社があるヴォルフスブルク市の紋章

でも、最も大きな理由はドイツが国の威信をかけて作った大衆車だからだと感じています。

例えば、フランスは戦後すぐに2CVを世に送り出し、日本は復興の中でパブリカが誕生しました。どれも大好きなモデルです。

車から、その国が今後どうやって世界の中でのし上がっていこうとしたかを感じることができるのは、終戦前後に誕生した車の魅力です
 

フォルクスワーゲン タイプI▲大きなフェンダーと丸目のライト。ビートルのアイコンはニュービートルやザ・ビートルにも受け継がれた

2CVは“醜いアヒルの子”と呼ばれ、僕を含めてその時代に生きた人は「こんな丸っこい車ではなくて流線型のカッコいいやつの方がいい」と思って見向きもしませんでした。

でも、時代が変わると「丸くて可愛いな」と注目を集めるように。メーカーとしてはたまったものじゃないですよ。だって新車の販売が終了し、利益を生み出せなくなってから評価されるのですから

もちろん、日常で使っていくうえで便利になるようデザインされたこのスタイルも大きな魅力です。
 

フォルクスワーゲン タイプI▲1938年のVW38(KdF)から1976年製(ドイツでは1978年まで製造)のものまで、スタイルを大きく変えずに製造されたことがわかる貴重な写真(写真/Volkswagen AG)

1938年に産声を上げたビートルは、長い歴史の中で幾度もデザインに小変更が加えられました。

例えば、リアウインドウはスプリットウインドウからオーバルウインドウ、そしてスクエアウインドウへと変わっていきました。テールライトも時代とともに大きくなりました。

これらはすべて「もっと便利にしたい」というデザイナーの思いがデザインに落とし込まれたもの。僕はそこに、空力優先となった現代とは違うこの時代特有のロマンを感じます。
 

フォルクスワーゲン タイプI▲どうやれば乗る人がもっと便利に使えるか。それを本気で考えたデザイナーの思いが伝わってくる

テリー伊藤ならこう乗る!

仮にですが、今の時代に初めてビートルがこの形のまま発売されたとしても、きっと成功はしなかったでしょう。おそらくレトロっぽいデザインを取り入れた数多ある車と同じように、ちょっと注目を集めて終わっていたと思います。

人々が何かに対して「昔はよかった」と感じるためには、“風化”が必要。どれだけ昔っぽさを表現しても、それはあくまで真似でしかありません。長い年月をかけて風化したモデルにはかなわないのです。

逆に中古車の世界では新車時にまったく人気がなかったのに、絶版になってしばらくすると突然注目されるモデルがあります。これも風化がもたらす現象だと感じています。
 

フォルクスワーゲン タイプI▲タイプIを象徴するフラット4(水平対向4気筒エンジン)

2ヵ月前に紹介したタイプII同様、初期のビートルも世界的なビンテージカーブームの影響で中古車相場が高騰しています

本当はスニーカー感覚で乗りたいのに、それがかなわなくなってしまった。

本物のビンテージを味わいたい人は、どれだけ値段が高くても今回出会ったオーバルウインドウや、さらに古いスプリットウインドウのビートルを手に入れるべきです

そして、手に入れた後はこれまでのオーナーと同じように、大切にしながら乗ってほしい。
 

フォルクスワーゲン タイプI▲“バットウイング”と呼ばれる2本スポークのステアリング

ただ、僕のビートルの楽しみ方はそことは違います。ここまで希少性が高くて値段も跳ね上がったビートルは瀬戸物や壺みたいなもので、僕の乗り方だとすぐに割れてしまいそうで怖い。

だとしたら、愛好家からはバカにされることもありますが、僕は安いメキシコビートルを手に入れて細かいことを気にせずに使い倒したい。例えば、錆なんか気にせずに海沿いの道を走ったりしたいですね。ビートルは本当に海やサーフボードが似合いますから。
 

フォルクスワーゲン タイプI▲トランスミッションは4速MT。シンプルなシフトノブがいい

もっといえば、ゴルフをベースに開発されたニュービートルにエイジングを施して50年代っぽく乗るのも楽しいと思いますよ

ニュービートルは中古市場で不人気なので、50万円も出したら結構いい状態のものが手に入ります。そこからカスタムしても、トータルで100万円もかからないでかなりいい雰囲気に仕上げられるでしょう。

でもあと10年もすると、ニュービートルも風化して人気に火がつくのではないかと思っているんですよ。その時に「えー、10年前は50万円で買えたのに」と悔やんでも後の祭りです。
 

フォルクスワーゲン タイプI▲どんな乗り方をするかはオーナー次第。僕はスニーカーのように乗りこなしたい

ビンテージモデルで当時の雰囲気を味わうのも、メキシコビートルを使い倒すのも、あるいはニュービートルで遊ぶのも、どれも相当おもしろい日常を送れるはず。みなさんならどの世界観を選びますか?
 

フォルクスワーゲン タイプI (ビートル)

フェルディナント・ポルシェが設計したモデルで、1938年にプロトタイプが作られて以降、2003年までに2150万台以上生産された伝説的な存在。日本では1952年にヤナセが正規輸入を開始し、それ以降多くのファンが存在する。代名詞でもある水平対向エンジンはボディ後方に搭載され、後輪を駆動させるRR方式を採用。ドイツでは1978年に製造が終了するが、メキシコでは生産を継続。最終的に2003年7月まで生産が続けられた。1990年代後半にはタイプIをオマージュしたニュービートルが発売された。
 

文/高橋満(BRIDGE MAN) 写真/柳田由人、フォルクスワーゲン
 

テリー伊藤

演出家

テリー伊藤

1949年12月27日生まれ。東京都中央区築地出身。これまで数々のテレビ番組やCMの演出を手掛ける。現在『爆報!THE フライデー』(TBS系/毎週金曜19:00~)、『サンデー・ジャポン』(TBS系/毎週日曜9:54~)に出演中。新著『老後論~この期に及んでまだ幸せになりたいか?』(竹書房)が発売中。You Tubeチャンネル『テリー伊藤のお笑いバックドロップ』を開設!