Gクラス

これから価値が上がっていくだろうネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】

クラシックカー予備軍モデルたちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。「車は50万円以下で買いなさい」など著書も多数。趣味は乗馬。

歴史や技術が詰まった愛らしさとタフさが融合したスタイルのSUVカブリオレ

——今回は名車予備軍としてだけでなく、松本さんが「購入した方が良い」と推していた車からピックしてみました。

松本 なんだろうなぁ。パっとは思いつかないな。

——松本さんが推していた車をヴィンテージ湘南で見つけたんですよ。ショートのGクラスのカブリオレです!

松本 お! いいじゃない! 年式は?

——2000年式のG320カブリオレがありました。

松本 確かに以前「今購入した方がいい」ってオススメしていた記憶があるね。もちろん、今も所有したいって思っているよ。おしゃれで実用性もあって、しかも短いホイールベースに幌の組み合わせって、ヨーロッパのミリタリー感が爆発してるじゃない? 好きだなぁ。

——なんか日本で正規販売されていたのが信じられない車ですよね。

松本 フィレンツェに紳士御用達の「TIE YOUR TIE」って名店があるんだ。そのオーナーは知る人ぞ知るカリスマ紳士のフランコ・ミヌッチさんといってね、彼がゲレンデのカブリオレに当時乗っていて、それでスキーとかに出かけていたらしいんだ。センスの良さが際立った人でね。以前、一緒に食事したときにその話を聞いて「やっぱりこういうハイセンスな人がゲレンデのカブリオレを選ぶんだ」と思ったね。

——あ、今回の車両はこちらですね。なんか……カワイイですね。

Gクラス

松本 自然と作られた風貌だけど、何とも言えないアンバランスさがいいよね。「愛らしさ」と「タフさ」が混在していて。

——そもそもGクラスって生い立ちが結構複雑というか分かりづらいですよね?

松本 そうだね。もともとGクラスがメルセデスのためではなく、軍事用として開発して作られていたっていうのはよく知られている話だよね。

——そこまでは知ってます!

松本 最初から説明すると、1970年代に当時筆頭株主だったイランの王様がメルセデスに提案をしたそうなんだよ。

——いきなり凄いスタートですね。

松本 そう、凡人には提案できないことを要求するよね。それで軍事用として機関銃やその他の装備を積める車として開発が行われたんだ。メルセデスと一緒に開発した会社こそが「Steyr-Puch(シュタイア・プフ)」。ライフルメーカーから成長した技術集団であった会社なんだよ。1864年に創設した歴史ある企業で、あのフェルディナント・ポルシェも勤務して、技術顧問をしていたこともあったんだ。とにかく軍事関連バリバリの製造会社だね。

——プフという名前も確かによく聞きますよね。

松本 間違いのない技術力があって、高く評価されていた企業なんだ。他にも戦後に作られたハフリンガーという軽量四輪駆動車もあってね。好きだったなぁ。とにかくチャラチャラしていない本物のみを作る製造会社なんだよね。その会社がダイムラーと1934年に合併してできた会社が「Steyr-Daimler-Puch」なんだ。

——なるほど。繋がりが分かってきました。

松本 この会社がイランの王様に提案されて、Gクラスの祖先を作ったというわけなんだ。

——その後、民生用になったのがGクラスってことですよね?

松本 そうだね。民生用として1979年からダイムラー・ベンツ、2007年からは現在のメルセデス・ベンツグループでの製造という形になったんだ。

——カブリオレは初期型のころからありましたよね?
 

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松本 そうだね。W460型と言われる初期型のころのカブリオレは、ジムニー SJ30FKという幌モデルに似た感じだったね。日本でも並行輸入で入ってたんじゃないかな? 昔、5ナンバーのゲレンデも見かけたことがあったから。

——その時代のGクラスにも試乗したんですか?

松本 したよ。1987年に初めてG230GEに乗せてもらったんだ。まだパートタイムだけどデフロックが装着されていて、当時四輪駆動専門のジャーナリストに「これはシュタイアという軍用の四輪駆動車を作っている会社のなんだ」と教えられて凄さを感じたんだよ。もう30年も前の話だけどね。

——そのときからずっと変わらないで作り続けたってすごいことですよね。

松本 そうだね。2018年に新しいW463A型のモデルが出て、基本の良いところを踏襲しつつ、最新のテクノロジーと進化したデザインを上手に溶け込ませたよね。

——似ているしDNAを受け継いでいるけど、やっぱりカブリオレを見ちゃうと……こっちのほうがカッコ良く見えちゃうな。
 

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Gクラス

松本 ゲレンデのカブリオレはW463型までだからね。ゲレンデはメルセデスの中で最もバリエーションが多く、長く作られたモデルじゃないかな。年を追うごとに乗り心地やスタビリティが高くなっていって、これ以上はレギュレーションともども難しいとされて泣く泣く新しいコンフォートGクラスが登場した感じだね。

——2000年式でG320ってことはV6エンジンみたいですね。

松本 そうだよ。このM112というユニットはメルセデス・ベンツが初めてV型6気筒として作ったエンジンユニットなんだ。軽量コンパクトが売りだったんだよ。90度V型の間にバランスシャフトを入れた設計と、オールアルミのシリンダーは当時注目の技術だったね。

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——なるほど、歴史や技術が詰まった車なわけですね。

松本 このGクラスの基を設計製造したSteyr-Daimler-Puchはフィアット パンダ4×4とか、他にも多くのモデルを生み出しているんだ。その後は会社がMagnaSteyr(マグナ・シュタイア)になり、今では最新のGクラスはもちろん、ブランドを問わず高級モデルを生産し続けているよね。会社の名前は変わっても、技術力はさらに高くなっていることは今生産しているモデルを見れば一目瞭然だね。

——なんか技術集団っていう響きがカッコイイですね。

松本 技術力っていうのは、エンジニアが積み上げた経験で育てられるのかもしれないね。長い歴史があるからこそ、決してまねのできない車ができた。まさにプロフェッショナル集団が作った渾身のソフィスティケートモデルがGクラスカブリオレなんだよ。
 

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※カーセンサーEDGE 2023年5月号(2023年3月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏