スズキ ジムニー

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?

衝動買いしたジムニーは“あえて街乗りで”乗りこなす

そもそもは雪深いエリアや険しい山岳地帯などで活躍する「はたらく車」であり、アウトドア愛好家のための車としても絶大な人気と実績を誇る、スズキ ジムニー。

そんなジムニーの特性を十分理解したうえで、「しかし自分は“街乗りスペシャル”あるいは“もうひとつの部屋”として、現行型のジムニーほど最適なモノはないと思っています」と、岩田友裕さんは言う。

職業は、ご本人いわく「洋服に関する何でも屋さん」。スタイリストなどに各ブランドの新作を貸し出すショールームを経営するかたわら、スタイリストとしても活躍し、洋服の製造も行っている。

大量の洋服を運搬する機会も多い仕事であり、個人的にも車好き(というかジムニー好き)ではあったのだが、「自分の車を持つ」ということはまったく考えていなかった。会社員時代は会社の車を使うことができたし、4年前に独立してからも、いわゆるカーシェアを利用すれば事足りていたからだ。「東京都内の何かと便利なエリアに住んでいたから」という理由もある。

だが今から3年前、スズキ ジムニーの新車を衝動買いした。いや、後から考えれば決して衝動だけに突き動かされたわけでもないのだが、とにかく、いきなり購入した。

「あの日は東京・三軒茶屋にある世田谷警察署に用事があったのですが、あそこってすぐ近くにスズキのディーラーがあるんですよ。で、僕は昔からジムニーだけは大好きでしたし、ディーラーのスタッフさんたちも最初の緊急事態宣言が出された時期だったのでお客さんがいなくてヒマそうにしてらっしゃった。そこで、なんとなく『こんにちは~』みたいに入って行って、ジムニーを試乗させていただいたんですよね」

そして帰宅し、妻に告げた。「オレ、ジムニー買おうと思うんだけど、どうかな?」と。

いきなりの話に面食らった妻ではあった。だが「……まぁこの人、内心もう決めてるみたいだし、カーシェアも仕事とサッカーでかなり頻繁に使ってるから、いっそ買った方が安上がりかもしれないし」ということで納得し、さっそく岩田家の総意としてスズキのディーラーに注文を入れた。

「衝動買いではあったのですが、兄がずっと乗ってる古いジムニーを見てきた関係で『もしも車を買うならジムニー』とは思ってました。だから……あのとき、スズキのディーラーになんとなく入っていったのも、まぁ巡り合わせというか、何かのタイミングだったんでしょうね」

注文から約9ヵ月。岩田さんの狙いに基づいたオプション装備が装着されたスズキ ジムニーが納車された。

「ジムニーの純正アクセサリーカタログを開くと、まずはアウトドア向けのタープですとか、ヘビーデューティなデフガードなんかがバーンッと載っているのですが、とりあえずそこには目もくれず(笑)、PM2.5やウイルスもブロックできるという高機能タイプのクリーンエアフィルターを真っ先に選びました。たぶんですが、ジムニーを買った人で、このオプション装備を選んだ人は少ないんじゃないかと思います」

続いて選択したのが、そこそこ値の張る「UV+IRカットフィルムセット」で、オーディオのスピーカーはフロントの2つだけでなく、リアの2つも合わせて計4個をパイオニア製に変更。その他、妻のためにコーナーセンサーも装着し、ガラスコーティングを施し、その他もろもろのオプションに加えて「仕事で洋服を運ぶためのラック」も荷室に設置したというのが、岩田さん号である。要するに「ジムニーでオフロードを走るつもりはない」ということだ。
 

スズキ ジムニー▲洋服を掛けるための専用ラックも装着
スズキ ジムニー▲アウトドアではなく、街乗りに適した徹底装備だ

「僕も妻もアウトドアやキャンプに――嫌いなわけではないのですが――特に興味はないというのが、まずはあります。それに加えて現行型のジムニーって、オフロードで使うことを否定するわけでは決してなく、『それを街で使うからこそカッコいい』という部分もあると思うんですよ。むしろ『街乗りにかなり向いてる車』であるとも思いますし」

例えば、アウトドア向けシューズとして有名な「Danner(ダナー)」やウエアとギアでお馴染みの「Snow Peak(スノーピーク)」などのアイテムは、山や荒れ地で真価を発揮すると同時に、「それをあえて街中で着用するからカッコいい」という部分も確実にある。ファッションの専門家である岩田さんは、それと類似する資質を現行型スズキ ジムニーに見いだしたのだ。
 

スズキ ジムニー▲ちょっとしたPC作業は車内でこなす

そして現行型ジムニーは街中でのファッション性に優れるだけでなく、「特に東京のような込み入った街で乗るには最適な車のひとつであるとも思うんです」と、岩田さんは言う。

「小ぶりで小回りが利きますし、アイポイントが高くてボディの見切りもいいので、路駐車両がいる狭い道でもスイスイ走っていけます。乗り心地も、ウチの兄貴が乗ってる2世代前のジムニーと比べれば十分以上に良好です。そして小さな車なんですけど、とにかく四角いから狭さは感じないし、何かと使いやすい。……まるで部屋にいるような感覚なんですよね。何でも手がすぐ届く位置にモノを置けるんだけど、決して狭苦しくはない、居心地のよい小さめな部屋――みたいな」

岩田さんが言う「狭い道でもスイスイ走っていける」というのは、ハードコアなアウトドアでジムニーを活用している人も、しばしば言うことだ。「野外を本気で楽しみたいなら、ジムニーぐらいの車幅じゃないとダメなんです」と。

スズキ ジムニーという車が野外の過酷な環境下で最大の能力を発揮する車であることは言わずもがなだが、それと同時に、東京というコンクリートジャングル――というのも古いフレーズだが、まぁとにかくコンクリートジャングルにおいても現行型ジムニーは、リアルなジャングルを走る場合とよく似た働きをしてくれる――ということなのだろう。

「そんなジムニーにね、仕事でももちろん使いますが、家族を乗せて、いい音でステキな音楽を聴きながらゆったりとスイスイ走ったり、買い物や動物園に行ったりするのは――本当に“いい時間”ですよ。『買ってよかった』としか、言いようがありません」
 

スズキ ジムニー

主には比較的近場での移動のためにジムニーを使用している岩田家の面々は、これまで最高でも都内から伊豆半島までしか、ジムニーでは行ったことがない。今後の岩田さんのさしあたっての目標は、三重県四日市市にある実家まで、休憩を入れて6~7時間ぐらいかけながら、家族みんなでジムニーに乗って帰ることだという。

「新幹線を使えば約2時間半なんですけどね。でもあえて時間をかけて……ジムニーで行きたいですね」
 

文/伊達軍曹、写真/早川佳郎
スズキ ジムニー

岩田さんのマイカーレビュー

スズキ ジムニー(2018年式)

●購入金額/新車で250万円
●年間走行距離/約1万km
●マイカーの好きなところ/居心地がよい。部屋が一つ増えた感じ。
●マイカーの愛すべきダメなところ/しいて言えば出足の悪さと燃費
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/自分の部屋や空間が好きな人にはピッタリかと

伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。