モントレー・カーウィーク▲ペブルビーチ・コンコース・デレガンスはモントレー・カー・ウイークの中で行われるイベントの一つ。当然のごとく、イベントにノミネートされる車両は世界トップ水準の極上車ばかり。その中からべスト・オブ・ショーが決定される(写真提供/Pebble Beach Concours d’Elegance)

世界には販売価格や台数から考えて、なぜビジネスが成立するのかが不思議な自動車メーカーが存在している。今回はクラシック、ビンテージと呼ばれる車の世界をご紹介。数億円超えは当たり前という信じられない海外マーケット事情を解説。
 

世界中の車好きが注目するビッグイベント

北米モントレー・カ・ーウイークが終った。8月中旬の1週間はまさにカーガイのためのお祭りであった。「ペブルビーチ・コンコース・デレガンス」や「ザ・クエイル・モータースポーツ・ギャザリング」、「コンクール・デレガンス」、そしてラグナ・セカで開催される「クラシックカー・レース」に、「ロレックス・モンタレー・モータースポーツ・リユニオン」。開催場所には北米のみならず世界中のエンスーが集まり、周辺のホテルはどこも満員。そのルームチャージは通常の時期の何倍にも跳ね上がった。

北米モントレー・カー・ウイークは、一昨年はコロナ禍により中止、昨年は再開されたものの、ヨーロッパ方面からの渡航制約もあり、例年の賑わいとはいかなかった。しかし、今年は移動に関する制約が撤廃されたため、ここぞとばかりにフラストレーションのたまっていたカーガイが押し寄せて大賑わいとなった。

前述の様々な大規模なカーイベントに加えて、この期間はオークションのかき入れ時でもある。グーディング&カンパニーやRMサザビーズ、ボナムスをはじめとする多くのオークションハウスがモントレーにヤードを構え、選りすぐりの名車を競りに掛ける。なにせ、年間のオークション落札金額のおよそ半分ほどがこの数日で動くほど、スケールが大きい。
 

モントレー・カーウィーク▲希少なスーパーカーの値段はどこに天井があるのだろうか。フェラーリ創業55周年に販売されたエンツォ フェラーリだが、今年のオークションでは2004年モデルが413万ドル(日本円にして約5億8900万円)という金額で落札された(写真提供/Gooding & Company)
モントレー・カーウィーク▲フェラーリ F50のオークション落札金額はなんと462万5000ドル(約6億5900万円)。ちなみに、その車両はボクシング元ヘビー級チャンピオンであるマイク・タイソンが以前所有していた個体であった(写真提供/Gooding & Company)

希少車のコンクールコンディションが登場するオークション

さて、2021年の平均落札価格は数々の制約があったにもかかわらず、オンライン主体の2020年と比較すると35%の上昇。落札率も80%以上の上昇を記録し、期間中の総落札金額は3億4300万ドル(約489億4500万円)と、なかなかの盛り上がりを見せた。コロナ禍においてクラシックカー、新車ラグジュアリーカーともに、市況は悪くなかったことがよく分かる。

では、2022年はどうだったか? 今回のモントレー・カー・ウイークでは790台以上が落札され、総売上額はなんと4億6900万ドル(約669億1000万円)。最高記録であった2015年の3億9500万ドルをも更新した。さらに790台のうち、110台以上が100万ドル以上の高価格帯の落札となり、これもまた記録的な数字となった。クラシックカー市場は昨年がきわめて好況だったこともあり、今やピークへと近づいているとコレクターたちは見なし、売り時と判断したのだ。

というわけで、人気モデル、それもコンディションもトップクラスという車両が次々に表舞台に出てきた。こういった車は個人間での取引が秘密裏に行われることもあるが、今回のような好況期においては、オークションで広くその存在をアピールし、高額な落札を狙うという戦略がとられる。ちなみに、今年度のトップセラーは1955年式のフェラーリ 410スポーツスパイダー(スカリエッティ)であり、2200万5000ドル(約31億4000万円)を記録した。

近年のトレンドとしてはクラシックカー、スーパーカー、モダン・ハイパフォーマンスカーの境界線が希薄になり、顧客層が重なってきたことが挙げられる。例えば、メルセデス・ベンツ 300SL、フェラーリ F40などと、マクラーレン F1やパガーニ ウアイラといった時代を超えたモデルたちが同じような存在感を表わしているといった具合に。

1980年代から90年代のスーパーカーたちも大いに注目度を高め、ブガッティ EB110、フェラーリ F40、ランボルギーニ カウンタックLP500、BMW M1といった車種がいずれも過去最高の価格を記録するなど、ショーの主役となった。

さらにフェラーリ1強であったオークション界に、ポルシェが食い込んできた。“マイレージ1300kmの1987年式ポルシェ”に高額ビッドが入る時代であり、オークションに関心を持つ世代が若くなっていることもその一因だ。維持も容易で快適にドライブできるモデルを選択するというテイストも顕著となっている。確かにネオクラシックのポルシェを所有するハードルはフェラーリのそれよりもはるかに(精神面においても)低いであろう。
 

モントレー・カーウィーク▲今年出品されたブガッティ EB110は、EB110としては史上最高額となる396万5000ドル(約5億6600万円)を記録。フェラーリ F40も価格を更新し、396万5000ドル(約5億2500万円)で落札された(写真提供/Gooding & Company)
モントレー・カーウィーク▲今年のトップセラーとなったのは、1955年式フェラーリ 410スポーツスパイダー。その価格は2200万5000ドル。やっぱりどんな時でもフェラーリの価値は変わらないようだ(写真提供/Courtesy RM Sotheby's)

超高額車両もネット上での売買が活発化

もう一つのトレンドはオークションのデジタル化だ。今や多くのオークションがインターネットからビッドできるようになった。新車に近い車ならともかく、何十年も前のクラシックカーは実車を見ないで入札することに抵抗を感じる方がいるかもしれない。しかし、本当のコンディションなど車をバラバラにしてみなければ分からないということを、多くのコレクターたちは知っている。それにその個体の信憑性はオークション会社が丹念に調査しているし、過去のオークションやコンクール・デレガンス参加歴をたどることで素性のウラを取ることもできる。

日本ではあまり馴染みがない名前かもしれないが、BaT(Bring A Trailer)や、The Market by Bonhamsといった、インターネット専門オークション・プラットフォームの登場により、ネット上での車両購入はポピュラーなものとなってきた。ネット上で取引が完結するこの新しいオークションは、顧客が安心して入札できるように熟考されたシステムが導入されており、取引の「透明性」を高めるためにいろいろな工夫がされている。2021年にBaTは年間総落札金額8億2800万ドル(約1180億3300万円)と、既存の大手ライブオークションハウスの実績を凌駕するまでに至っているのだ。このようなオークション市場の「民主化」によって、クラシック、ネオクラシック、モダンが同列に扱われるような市場が形成されつつあるのだ。

オークションハウス(ライブ、インターネット問わず)の存在感がさらに高まったことにより、スーパーカー・マーケットもより活況となってきている。需要が増えることで、コンディションの良い車両の流通が増えると考えれば、これも悪くない。しかし円安の現在、私たち日本人にとってはUSドル建てやユーロ建ての取引は逆風でもある。

一方、オークションハウスは仕入れが命だ。クオリティが高く、安価な仕入れの可能性を秘めた日本に存在する車たちは、彼らから虎視眈々と狙われている。事実、日本のオーナーへのオークション出展アプローチがさらに積極的になっているのだ。

そう、明日にでもあなたのガレージに彼らが訪ねてくるかもしれないということだ!
 

モントレー・カーウィーク▲242万5000ドル(約3億4500万円)という世界記録を更新した1973年式のポルシェ 911 カレラRSのライトウェイト。200台のホモロゲーションモデルのライトウェイトバージョン(写真提供/Gooding & Company)

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文/越湖信一、写真/越湖信一
越湖信一

自動車ジャーナリスト

越湖信一

新型コロナがまん延する前は、年間の大半をイタリアで過ごしていた自動車ジャーナリスト。モデナ、トリノの多くの自動車関係者と深いつながりを持つ。マセラティ・クラブ・オブ・ジャパンの代表を務め、現在は会長職に。著書に「フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング」「Maserati Complete Guide Ⅱ」などがある。