▲住宅関係の雑誌を見ていて、中村さんの作品に一目ぼれしたという施主。そのためこちらから多くの要望を出すのではなく、基本的にお任せするというスタンスを取ったそう。お願いしたことは2つで、玄関や廊下から中が見えるような2台分のガレージスペースとワンフロアだけで生活できるように2階だけで完結できるように……というもの。これは階段を上り下りしたくないのが理由だとか(笑)▲住宅関係の雑誌を見ていて、中村さんの作品に一目ぼれしたという施主。そのためこちらから多くの要望を出すのではなく、基本的にお任せするというスタンスを取ったそう。お願いしたことは2つで、玄関や廊下から中が見えるような2台分のガレージスペースとワンフロアだけで生活できるように2階だけで完結できるように……というもの。これは階段を上り下りしたくないのが理由だとか(笑)

スパルタンなスポーツモデルを温かく包むガレージ

建築家・中村高淑さんが手掛けた家を拝見するのは、3年ぶりのこと。これまでEDGE誌においても何度か中村さんが手掛ける作品を紹介してきたが、どれも愛車に対する思いや家族とのつながり、そして変化していくライフスタイルへの対応など、毎回「なるほど……」と感心する家ばかりであった。施主のSさんと中村さんとの出会いも、そんな中村さんの作品にSさんが強く共感したことに始まる。

自邸を新築するにあたり、Sさんは住宅メーカーとガレージハウス建築の相談をしたことはあるらしいのだが、どうしても必要以上のコストがかかるイメージがあり、少なからず違和感を覚えていたという。そんなとき雑誌で中村さんの作品を目にし、これだ! と思わずうなったという。それほど、中村さんの作品はSさんが日頃思い描いていたガレージハウスの姿と合致していたようだ。

引き渡しは2006年7月というから、今から9年前のこと……。その事実には少々驚かされた。なぜなら家の内も外も、まるで先週引き渡しを終えたばかりと言われても疑わないほど綺麗に掃除が行き届き、小さなお子さんがいらっしゃるにも関わらず、落書きやキズなども見当たらない。Sさんご夫妻が自邸に満足され、丁寧にお住まいになっていることがうかがえるというものだ。

外観は、白い壁面とウッディな素材が巧みにバランスして落ち着いた印象。大きめのオーバースライダーは、ガレージ内にどんな車が収まっているのかという期待感を高めるには十分な存在感を放っている。

あえてオーバースライダーを開けず、玄関から内部にアクセスしてみる。玄関のドアにも温かみのあるウッディな素材が用いられている。玄関を入ると、左手の壁はすべて床から天井までの大きなガラス窓。それを支える4本の柱には、床や階段などと同じ木材が用いられている。そのガレージ内に収まるのは、鮮やかなソーラー・イエローのロータス・エリーゼ。この存在を知らずにS邸を訪れた人は、たとえ車にそれほど興味がなくても、玄関ドアを開けた瞬間に驚きの声をあげることになるだろう。

玄関ドアの横には扉があり、そこからガレージへアクセスが可能。エリーゼの他にミニバンも所有されているが、雨の日の買い物でも、いっさい雨に濡れずに出入りできることもSさんご夫妻が気に入っている点だ。

ガレージは大型車でも楽に2台並べられるスペースをもつうえに、自然光がたっぷり入る窓も設けられているから、とても開放的な空間。後方の壁面には2つの扉が設けられている。向かって右手は車のメンテナンス用品やアウトドア用品などが収まる倉庫で、左手はSさんの趣味の書斎。書斎の中には趣味のプラモデルが整然と並べられ、数多くの自動車専門誌などもズラリと揃えられている。どちらの部屋も縦長で「ウナギの寝床」のような印象だが、とくに書斎は、その形状が隠れ家的な雰囲気を醸し出して居心地のよさにつながっている。

「休みの日は、ここに閉じこもってプラモデル作りをしていることもあります」とSさんが言うのもうなずける。

ガレージ内の隠れ家は、時間を忘れて趣味に没頭できる空間

車は、コンパクトでスポーティなタイプがお好みの模様。エリーゼとファミリー用のミニバンの他に、少し前まではフィアット 500アバルトも所有され3台体制だったという。その名残か、ミニバンには大きなABARTHのロゴとサソリのデカールが貼られていた。

実はSさん、再び3台体制に戻そうと画策中だ。ターゲットとしている車はスーパーセブン。「明日にでも欲しい!」と目を輝かせるSさん。ただし、ガレージに車は2台しか入らない。エリーゼもスーパーセブンも雨ざらしにできるはずもないので、必然的にミニバンが屋外に押し出される。しかし、前述のとおり雨の日でもまったく濡れずに出入りができることもガレージハウスの大きなメリットであると捉えている。「なので、もうひとつガレージハウスを作ろうかな……と思っているんです」と、Sさん。

できるだけ自宅の近くに土地を探して、新しいガレージハウスを……という計画を密かに練っているらしい。今のところ具体的なイメージはできていないようだが、Sさんの熱く語る様子を拝見すると、夢の話をしているようでもなさそうだ。

▲木製のオーバースライダーを選んだのは、見た目の統一感とともに開閉時のスピードを考慮した。自然光もたっぷり入り、長時間過ごしても楽しいガレージだ▲木製のオーバースライダーを選んだのは、見た目の統一感とともに開閉時のスピードを考慮した。自然光もたっぷり入り、長時間過ごしても楽しいガレージだ
▲いつもは、エリーゼの隣にファミリー用のミニバンが収まっている。後方にある2つの扉の向こうは、向かって左側が書斎、右側が遊び道具が満載された倉庫となっている▲いつもは、エリーゼの隣にファミリー用のミニバンが収まっている。後方にある2つの扉の向こうは、向かって左側が書斎、右側が遊び道具が満載された倉庫となっている
▲Sさんが、趣味のプラモデル作りなどでこもる書斎。フロアはガレージよりも高く設定され、靴を脱いで入るようにした▲Sさんが、趣味のプラモデル作りなどでこもる書斎。フロアはガレージよりも高く設定され、靴を脱いで入るようにした
▲マリンスポーツ、自転車などアクティブな道具が格納されている倉庫。車用のメンテナンス用品も、棚に整然と並べられている。こちらは書斎とは違い、土足のまま出入りする▲マリンスポーツ、自転車などアクティブな道具が格納されている倉庫。車用のメンテナンス用品も、棚に整然と並べられている。こちらは書斎とは違い、土足のまま出入りする
▲2階は広いワンルーム。キッチンもダイニングもベッドルームも、ひとつの空間に存在する。壁面に引き戸が仕込まれているので、将来的に部屋を区切ることも可能。階段を上ると、このS邸のウリでもある広いロフトに至る▲2階は広いワンルーム。キッチンもダイニングもベッドルームも、ひとつの空間に存在する。壁面に引き戸が仕込まれているので、将来的に部屋を区切ることも可能。階段を上ると、このS邸のウリでもある広いロフトに至る
▲2階のロフトは、まもなく3歳になるお子さまの遊び場。ロフトといっても吹き抜けを介してLDKとつながっており、閉塞感は皆無だ▲2階のロフトは、まもなく3歳になるお子さまの遊び場。ロフトといっても吹き抜けを介してLDKとつながっており、閉塞感は皆無だ
▲ロフトからリビングルームを見下ろした様子。吹き抜けのようなイメージで、高い位置まで窓が設置されているので開放感は抜群だ▲ロフトからリビングルームを見下ろした様子。吹き抜けのようなイメージで、高い位置まで窓が設置されているので開放感は抜群だ

【愛車や家族の気配を、いつも感じられる家 設計・監理:中村高淑】
■今回のこだわり:車2台を収容するガレージハウス。ゆとりのスペースに加え、玄関から愛車を眺めて愛でることができる。そのうえ、ガレージ奥に書斎と納戸スペースを備え、充実した趣味の時間を過ごせるようにした。住居部分は2階LDKを中心に内部の生活動線はワンフロアで完結、主寝室も可動間仕切りによって普段はリビングの一部となる「ワンスペースリビング」を提案。主寝室をオープンにする代わりに独立した客室や書斎によって、プライバシーをバランスよくコントロールするようにした
■主要用途:専用住宅
■構造:木造2階建
■敷地面積:165.79平米
■建築面積:74.37平米
■延床面積:114.32平米
■設計・監理:unit-H 中村高淑建築設計事務所
■TEL:045-978-4335

text/菊谷聡 photo/木村博道


※カーセンサーEDGE 2015年9月号(2015年7月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています