「ネオクラ・メルセデス」がアツい! 正規ディーラーも参入するほど中古車市場でいま静かに熱を帯びているR129型、W124型に注目!
2025/12/06
▲「電子制御が最小限で、機械が主役だった最後の時代」とも評される、1980~1990年代に生まれた「ネオクラ・メルセデス」ネオクラは“最後のメカニカルベンツ”である
欧州のカーエンスージアストの間では、1946~1959年までを「ポストウォー・クラシック」、1960~1970年代を「モダン・クラシック」と呼び分けている。この呼び名は1980~1990年代にはすでに使われており、総称して「クラシック」とあいまいに用いられることが多い。
そして2025年のいま、1980~1990年代の車が30~40年も昔のものとなった。そこで1980年代から1990年代までの車両を「ネオ・クラシック(ネオクラ)」と最近では呼ぶようになった。
ネオクラは、衝突安全対策や排出ガス対策が収束し、各メーカーが車に夢を再び与えた時代であったが、中でも突出していたのはメルセデス・ベンツだろう。
現代のようにすべてが電子制御されておらず、メカニカル制御の極致といえるネオクラ世代ベンツは、クラフトマンの手仕事でメルセデスらしい精密さと重厚さを実現しており、「最善が無か」の哲学が色濃く反映されている。長く使われることを前提とした、妥協なく作り込まれたネオクラ世代のベンツ(W124型、W140型、W201型、R129型、W210型前期など)は、いま世界中で再評価されている。
そして、そのストイックなまでに理想を追い求めた姿勢は、現代の「ワンマン・ワンエンジン」で知られるAMGや、いつの時代も最高級サルーンのベンチマークであるSクラスへと受け継がれているのである。
▲1989年に登場した4世代目となるSLクラス(R120型)。当時、デザイン部のトップだったブルーノ・サッコの代表作との呼び声も高い、コスト度外視で開発された最後のオーバークオリティなメルセデスの1台として人気も高い▼検索条件
メルセデス・ベンツ SLクラス(R129型)投機ではなく“文化資産”へ。成熟したマーケットが後押しする
ネオクラ世代のベンツに注目が集まる理由のひとつに、アナログ的なぬくもりが残っている点が挙げられる。
この現象は、Z世代がいまカセットテープやアナログレコードに注目しているのに通じるものがある。スマホひとつあれば好きな音楽をいくらでも聴けるのに、あえてカセットテープやアナログレコードといったソフトと、それを聴くためのプレーヤーというハードの操作感や独特のサウンド……にこだわるのに似ている。
最新式の車(とくにBEV)にはないエンジンの鼓動を感じながらのリアルな運転操作と手に触れるパートのテクスチュアなど、50代以上にはノスタルジックなネオクラ世代ベンツは、Z世代には新鮮そのもの。若者にも注目されているのがよくわかる。
さらにそれほど電子制御化されていないため、目視で故障箇所を確認でき、パーツの供給もあるため、修理して長く乗ることが可能だ。ネオクラ世代のベンツも、いまやコレクション需要が高まっているが、エアコンといった装備なども問題なく使えるため、日本で実用的に乗ることができる安心感がある。
現在、日本の中古市場に出回っている個体は状態の良いものに淘汰された感があり、履歴も確かだ。そうした背景もあって値落ちも底を打ち、徐々に中古相場も高くなってきている。
「正規ディーラーが責任を持ってネオクラを売る」という新たな文化
▲2025年11月27日発売のカーセンサーEDGE 2026年1月号の特集「メルセデスの名車に乗る」で取材した、ALL TIME STARSの実店舗「メルセデス・ベンツ浦安ALL TIME STARS」欧州の自動車メーカーが自社のクラシックモデルをレストアするだけでなく、パーツの供給などにも力を入れて、後世に文化として引き継ぐ活動を行っている。
もちろん、同様の活動をメルセデスも「オールタイムスターズ(以下ATS)」として取り組んでいるが、最も歴史の古いメーカーだけに、取り扱う世代に加え車種も幅広い。そこで、「コンクールエディション」「コレクターズエディション」「ドライバーズエディション」という3つのカテゴリーに分類している。
「コンクールエディション」は、オリジナル状態をキープした300 SLのようなビンテージモデルと「ヤング・クラシック リフレッシュプログラム」にてレストアが完了したモデル。
「コレクターズエディション」は、主にモダンクラシックモデルとビンテージモデルの車両で、内外装と装備の状態がよいモデル。
そして最後の「ドライバーズエディション」は、普段遣いに適したモダンクラシックモデルやビンテージモデル、程度良好ではあるもののレストアの余地があるモデルのことを指す。カスタマーは自分がどのようにクラシックメルセデスと接するかを判断し、この3つの中からベストな選択ができるというわけだ。
ATSでは整備にあたり、純正パーツを使用することはもちろんのこと、年式ごとのウィークポイントを熟知した専用メカニックが作業してくれる。特筆すべきは、メルセデス正規ディーラーだからこそ、厳格にコンディションが評価されている点だ。
また、購入後も保証や部品供給含め、しっかりフォローしてくれるので、安心して購入することができる。ATSでの程度のよい個体のみを取扱い、クラシックモデルをよく理解したスタッフが整備、フォローしてくれる姿勢は、単に中古車を売るというのではなく、文化遺産として後世に残すという意味合いも含まれている。
ポルシェが組んだ、最後の“銘品W124型”
▲今回取材したW124型Eクラスの高性能バージョンであるE 500。特集では登場から30年以上経過した名車の選び方や付き合い方を、MB国際認定セールスエグゼクティブの森進太郎さんに聞いたE 500は、V8エンジンに対応すべくサスペンションやドライブトレイン、さらにシャシーに至るまでポルシェに開発を依頼。こうしたポルシェとの共同開発が、現在の人気の大きな要素のひとつとなっており、ポルシェでシャシーを手作業で組み立てた最初期モデルに特に人気が集まっている。
外観上の特徴は、フレアした前後フェンダーとサイズアップしたタイヤ&ホイールである。他のメルセデスと異なり、シャープなハンドリングと力強いV8のフィーリングは濃密なドライビングプレジャーをもたらしてくれる。
メルセデス・ベンツ浦安ALL TIME STARSが扱うこの個体は、ルーフライニングもオリジナルを保つほどのコンディションで、専門のメカニックが点検・整備、購入後も安心して最高の状態で乗り始めることができる。
▲この時代のドイツ車はルーフライニングが垂れ下がるケースが多いが、取材したE500はオリジナルで垂れ下がっていない
▲アフターパーツ類が装着されておらず、インパネもオリジナルが保たれている
▲R129型500SLに搭載されていた5L V8エンジンを搭載。後期モデルであるE500では排ガス規制などにより最高出力は325psとなる