ヘリテージカーの祭典「オートモビルカウンシル2018」が本当に目指したモノとは?
カテゴリー: レース&イベント
タグ: トヨタ / マツダ / オートモービルカウンシル / 自動車関連のイベント / 伊達軍曹
2018/08/12
▲8月初旬に幕張メッセで開催された「オートモビルカウンシル2018」。それはそもそもどういった趣旨のイベントだったのか? 新米編集部員・横山(右)の疑問に、中古車ジャーナリストの伊達軍曹(左)が答えますオートモビルカウンシルの「趣旨」はそもそも何なのか?
「自動車のヘリテージを愉しむ文化を日本にも」あるいは「クラシック・ミーツ・モダン」をテーマとする自動車ショー「AUTOMOBILE COUNCIL(オートモビルカウンシル)2018」が8月3日から5日にかけての3日間、千葉県の幕張メッセにて開催された。
「ちょっと古い車」を好むタイプの自動車好きとしては大注目のイベントだったわけだが、カーセンサーの若手編集部員・横山菜月(写真上・右側)は筆者(写真上・左側)に会場でこう言った。
「出展されている車はどれも可愛くてステキだとは思うのですが、それがいつ頃の何ていう車なのかとか、イベントの趣旨とかが、ワタシには正直さっぱりわかりません。なので、いろいろ教えていただけませんか?」
▲カーセンサー横山氏いわく、「展示されているのはノスタルジックでカワイイ車ばかりなのはわかるんですが、詳しいことが実はまったくわかりません!」とのこと……そんなモンは自分で調べろ! と一喝しようと思った筆者だったが、考えてみれば横山氏はまだ20代。自分が生まれる前に販売されていた車のことやその登場背景、そしてそういった車が現代の車に及ぼした影響などを知らぬのも無理はないと考え、思い直した。
「うむ、了解した。だがその前に当イベントの主催者と会い、その趣旨や意図などを直接聞いてみようではないか。その方が手っ取り早く、なおかつ正確である」
了承した横山氏を連れ、我々はオートモビルカウンシル実行委員会の共同代表を務める関雅文氏と面会した。関氏は60代のダンディな紳士であった。そして氏はこう言った。
「日本の自動車産業というのは戦後約70年間で世界でも類を見ないほどの大成功を納めたわけですが、果たして自動車文化の方はどうなのか? 欧州諸国と比べれば未成熟というか、未整理な部分も大であったと私は考えています。そこで、日本の自動車ヘリテージを改めて整理することで、日本ならではの自動車文化を皆で作り上げ、そして世界に向けて発信していきたい……というのが、このオートモビルカウンシルをスタートさせたまず第1の理由です」
▲こちらがオートモビルカウンシル実行委員会の共同代表を務めていらっしゃる関雅文氏単なる懐古趣味ではなく「文化の断絶」を阻止するために
続けて関氏は言った。
「そして第2の理由というか目的は、ビンテージカーマーケットのハードルを下げることです。一部の高齢富裕層の道楽として終わるのではなく、次の世代の若い人々に、こういったビンテージカーを手渡すための土壌を作りたい。そうしないと、この種の車は今後ほとんどが海外に流出してしまい、若い人々がそれを見ることも触ることもできなくなってしまいますからね」
確かに、例えばトヨタ 2000GTのような超絶有名モデルは(ごく少数ながら)今なお確実に存在し、そして売買されているが、1970年代から1980年代あたりに何万台、何十万台と作られたはずの一般的な国産車は、今やほとんどその姿を見ることがない。土に還ってしまったか、あるいは海外に流出してしまったかのいずれかなのだ。
そういった「自動車文化の断絶」を何とかしたいと考えて立ち上げられたのがこのオートモビルカウンシルで、国内の各自動車メーカーもその趣旨に賛同。各社がヘリテージ車両を展示するとともに、メーカーの垣根を越えた展示スペースも豊富に用意されているのが、オートモビルカウンシルの特徴なのだ。
「単なる懐古趣味としてではなく、現代の車が失ってしまった何かが、もしかしたらそこにあるのではないか……などと考えながら、各メーカーや各販売店のヘリテージカーをご覧いただけたら幸いですね。そしてもちろん、販売店の車はその場でご購入いただいても構いません(笑)。オートモビルカウンシルは決して売らんかなのイベントではないのですが、『買おうと思えば買えちゃう自動車博物館』であるという点は、このイベントの大変ユニークなところだと思っています」
▲主催者の関氏(中)から趣旨と「想い」を聞き、イベントの概要をなんとなく理解したカーセンサー横山氏(右)。そして往年の車たちのことをリアルタイムで知る伊達軍曹(左)とともに、改めて会場内を巡ってみることに一見、何の変哲もない実用車から見えてくる「現代史」
以上の関氏の説明を踏まえ、オートモビルカウンシル2018に展示されたいくつかのヘリテージカーを見てみよう。まずは「元気!! ニッポン1960s!」と銘打たれたトヨタのブースに展示された1964年式の3代目トヨペット コロナ。
▲いわゆる「ハイウェイ時代」の幕開けとともに登場したトヨペット コロナ。技術レベルを一気に国際水準まで引き上げた意欲作だった。搭載エンジンは排気量1.5Lの直4OHV
▲当時は「中級クラス」に相当したコロナだが、今見るとその内装はきわめてシンプル。運転席シートベルトの設置義務が生じたのは1969年4月1日であるため、1964年式であるこの車にシートベルトは存在しない。今思うと信じられない話だが開通間もない名神高速道路で「10万キロ連続高速走行公開テスト」を実施したことで人気が急上昇。ダットサン(日産)ブルーバードとの熾烈な販売競争(通称BC戦争)を繰り広げたことでも知られる中級モデルだ。
同ブースに展示されていた「トヨタ 2000GTスピードトライアル」などもグッとくる展示ではあったが、こういった「当時の普通の国産車」を間近で見る機会の方が逆に希少というのも、なんとも皮肉な話である。シートベルトが一切ない点にも地味に注目したい(※運転席のシートベルト設置義務は1969年4月1日から)。
黒山の人だかりとなっていたのが、マツダブースの1980年式ファミリア1500XGだ。
▲1980年発売のマツダ ファミリア1500XG。マツダ初のFFコンパクトカーで、広い室内とシャープな外観、快適性の高い内装などが評価されて大ヒット作に。第1回日本カー・オブ・ザ・イヤーも受賞
▲いかにもエイティーズな直線基調のインテリア。展示車のトランスミッションは5MT。当時ラインナップされていたAT仕様のトランスミッションは、今やほとんど見かけない「3速AT」だった5代目のファミリアとして登場したこの世代は、新たに開発されたFF「マツダ・BDプラットフォーム」を採用。それはエンジンとトランスアクスルとを同軸に配するジアコーサレイアウトで、リアサスペンションは変形パラレルリンクストラット式の「SSサスペンション」であった。
だがそんなマニアックな云々とはまったく無関係に、5代目ファミリアのスポーティな走りと明るくシンプルなデザインは当時の民衆の心をジャストミート。「ちょっとおしゃれな庶民の足」として大ヒットを記録したのだった。ちなみに3速AT仕様も存在したが、販売の大半は今回の展示車と同じ5MT。今の若い人には信じられないかもしれないが、当時AT車というのはかなりマイナーな存在だったのだ。
「SUBARU SUV STORY ~量産初の乗用AWDをつくった、SUBARU SUVの進化の系譜~」をテーマとする展示を行ったスバルブースで目を引いたのは、1972年発売のレオーネ4WDエステートバン。
▲量産初の乗用4WDとして登場したスバル レオーネ4WDエステートバン。後のレガシィやレヴォーグなどは、この車がなければ誕生していなかったのかもしれない。エンジンは1.4Lの水平対向4気筒レオーネ4WDエステートバンは、量産車としては初の乗用4WD車として1972年に発売されたモデル。スバル特有の水平対向エンジンは4WDシステムとの相性が非常に良かった。それゆえここから、後のレオーネ4WDターボや名車レガシィツーリングワゴン、あるいは現在のレヴォーグなどが派生していったのだ。
そういった系譜を考えながら眺めると、何の変哲もない古い実用車にも見えるこの緑色のバンがとてつもなく愛おしい、そして貴重な存在に思えてくるものだ。
長くなったため、輸入車については「後編」にて何台かの注目展示車をピックアップする。
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