Aピラーの立ち方がそそる。スチャダラパーBoseが今はなきあのブランドに思いをはせる
2018/09/05
▲当時はなんとなく「いいな」と思っていたくらいだけれど、今見たらかなりいい。子共がいる人も使いやすそうプロが全身全霊で仕上げると、新車みたいにキレイになる
1990年のデビュー以来、日本のヒップホップシーン最前線でフレッシュな名曲を作り続けているスチャダラパー。中古車マニアでもあるMC、Boseが『カーセンサーnet』を見て触手が動いたDEEPでUNDERGROUNDな中古車を実際にお店まで見に行く不定期連載! 今回は日本でもバブル期にブームになったあの車をチェック!
前回、30代より下の世代だと「もしかしたら“ホットハッチ”という言葉を聞き慣れないかもしれない」と書いた。今回紹介する車は、おそらくメーカー名すら耳にしたことがないだろう。
▲大きく傾斜したリアスタイルもサーブの特徴ですボルボと並びスウェーデンを代表するブランドだったサーブは、もともと航空機メーカー。1980年代に日本でもブームとなり、ファッション誌などが取り上げたり、広告代理店勤務のサラリーマンなどバブル期に夜の街で幅を利かせた人たちがこぞって乗っていた。
しかし、90年代に入るとゼネラルモーターズの出資を受け、2000年にはGM子会社となる。その後もブランドの売却が繰り返され、2011年にはついに破産申請。そして2017年にブランドは消滅した。
日本で流行したのは大きな湯船のようなシルエットが特徴的な900カブリオレ。後部座席を備える4人乗りのオープンモデルだった。
▲立ったAピラーと大きく湾曲したフロントガラスが特徴的。80~90年代でも異質な存在でした「カブリオレもいいけれど、僕はクローズドボディの900ターボが気になっていたな。僕が好きなホットハッチとは違うから買うことはなかったけれど、機会があったら乗ってみたいなって。僕はAピラーが立っているデザインが好き。最近の車になかなか興味が湧かないのは、空力を考えてAピラーが寝ているものが多いからだと思うんだよね。サーブ900は際立ってAピラーが立っている。これは渋いデザインだよ」
前回の記事で取り上げたプジョー 205が「ここまで仕上げられる」というC’connectionのデモカー的存在なら、このサーブ 900ターボはC’connectionが整備を依頼している工場のデモカー的存在だと代表の中前さんは笑う。
「見てほしいのはエンジンルームです。プロフェッショナルが全身全霊でオーバーホールすると、25年以上前の車でもこういうエンジンルームになるんですよ。この時代のサーブはダッシュボードが割れているものが多いけれどこれは一度全部はずしてリペアしてありますし、天張りも張り替えました。塗装もオールペンしてあります。」(中前さん)
▲このエンジンに注目! サビなどなくとても30年近く前のものとは思えないそんな話を聞いて、「手がかかっているなあ」とBoseさんは驚く。運転席に座りエンジンをかけさせてもらう。セルを回すとエンジンは一発で目を覚ます。
「これだけシャキッとかかるエンジンは気持ちいいな。でもサーブってこれから乗ろうとするとちょっと不安もあるよね。実際、今から乗って維持していくのはどうなんですか?」
▲サーブはセンターコンソール付近にイグニッションキーを差す。知らないと、最初はキーを差す場所がわからなくて慌ててしまう1980年代から90年代にブームだったサーブはオーナーにより整備の仕方が様々。とくに流行りで飛び付いた人は整備に無頓着だった可能性もある。さらにブランドが消滅したことでパーツが見つかるかという問題もある。
「Boseさんが心配するのも無理ないです。実際、状態のばらつきはかなりありますから。ブランドがなくなり、インポーターもなくなって中途半端な状態になってしまいましたからね。パーツに関しては日本で探すのは大変ですが、実はサーブはアメリカがメインマーケットだったので、アメリカには今でもパーツがいっぱいあるんですよ。だからそこまで心配しなくていいと思います」(中前さん)
20年後、「Boseがすごいクラシックカーに乗っている」と騒ぎになる!?
▲ダッシュボードは一度バラしてリペアしてあるそう。とてもキレイだ「久しぶりにじっくりサーブを見ると、こっちもなくないかなって思うね。僕が若い頃だとサーブは“ちょっとおじさん”が乗る車って感じ。でも今だとちょうどいい。自分が年を取って、当時サーブを選んでいたおじさんたちの気持ちがわかってきたのかな。例えばアルファロメオの155も当時は自分が乗るには少しゴツいかなと思っていたけれど、この年になったら子供もいるし家族で乗るのにちょうどいいぞって。むしろ『こんなに楽しいセダンはない』とすら感じるもんね」
Boseさんが好きなこの時代の車は、中古車市場でも珍しい存在になってきている。ヒストリックカーの部類に入ってきたことで部品供給が難しい部分も出てきているが、ものによっては海外で見つかることもあるということがわかった。ところで、部品があったとしても、肝心の“車を整備してくれる人”はいるのだろうか。
「そこ、すごく気になるんだよ。イメージとしては頑固な職人という雰囲気のメカニックさん。もう年配になって引退してしまう人も多いのではないかと思って」
▲古い車は加水分解で内装の天張りがはがれおちてしまうことがある。このサーブはすべて張り替えたそう中前さんによれば、年配のメカニックには確かに引退した人もいるという。ただ、ちょうどBoseさんと同世代、ちょうどこのあたりの車が新車で出た頃に整備士になった人たちがまだ現役なので、今は整備に関しては心配ないそう。
「よかった。安心したよ。でも、今度は僕と同世代の人たちが引退する頃が心配だね。この時代以降の車は電子制御が一気に入ってきたから、整備のやり方が変わってくる。ましてや今は電動車の方向に。そうなると僕と同世代のメカニックさんが引退すると、いよいよ整備できる人がいなくなってしまうかもしれない。その意味でもこの時代の車を楽しむなら早めがよさそうだね」
10代で憧れたヨーロッパの輸入車。当時は新車で買うこともできたが、気づけばそれらがヒストリックカーの仲間入りをしようとしている。「それだけ僕らが年を取ったってことだよ」と笑うBoseさん。
「例えば毎年やっているLa Festa Mille Miglia(=ラ・フェスタ・ミッレミリア。毎年秋に行われている1000マイル走破するイベント)には、僕らの大先輩が往年のクラシックカーで参加している。もしかしたら、僕らはこのあたりの車をミッレミリアのような感じで楽しみながら年をとっていくのかもしれないね。もし僕が70歳になったときにプジョー 205やサーブ 900ターボに乗っていたら、そのときの若い子たちは、『Boseはとんでもないクラシックカーに乗っている』って驚くだろうね(笑)」
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