マルチクリエイターが運命的に出合った、走行距離20万kmオーバーのシトロエン C6
2025/12/22

車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
幼少期に突き刺さったシトロエンの魅力
子どもの頃から「自分の車」はずっと欲しいと思っていた。特に、フランスのシトロエン。
文園太郎さんの父上が乗り継いでいたシトロエン BX(1982~1994年)やエグザンティア(1993~2001年)、あるいは初代C3(2002~2009年)などのおしゃれ感と自由闊達なイメージは、少年だった太郎さんの心に深く突き刺さった。
大人になっても「車、欲しいな……」という気持ちが減じることはなかった。しかし「若者の住みたい街ランキング」的なもので常に上位にランクインしている街、つまりは公共交通の便も何かと良好な街に転居して以降「自分の車を手に入れること」は、喫緊の課題ではなくなっていった。
▲太郎さんと妻・結莉さんまさか……の出来事から転がり込んだ愛車購入のチャンス
そうこうするうちに、文園さんは大学院への進学を目指すことになった。すでに社会人ではあったが、自身の今後のキャリアをより充実および拡大発展させることを目的に、芸術系大学の“院”に進むと決めたのだ。
大学院へ進むためには、いわゆる受験勉強が必要になるのと同時に、入学金も必要になる。そのため太郎さんは必死の思いで資金をためつつ、受験勉強に励んだ。
そして――落ちた。残念ながら大学院に進むことはかなわず、手元には「とりあえずは入学金を作らなきゃ!」という思いでためた、けっこうな額の現金だけが残った。
「だから――というだけではないのですが、この機会に買っちゃおうと思ったんですよね。昔から欲しかったシトロエンを」

目をつけたのは、都内のイタフラ車を中心に扱う販売店にあった2006年式のシトロエン C6 エクスクルーシブ。アバンギャルドでありながら優美でもある内外装デザインと、シトロエン独自の電子制御スプリング&ダンピングシステム「ハイドラクティブIII」などがもたらす優雅な乗り味が魅力の、当時のシトロエンのフラッグシップセダンだ。
しかし目をつけたその個体の走行距離は、なんと22万kmだった。
だが、文園さんは「そこが逆にいい」と考えていた。
「走行22万kmというのは『22万kmも走ることができた』ということであり、『つい昨日ぐらいまで普通に使われていた』ということでもあります。シトロエンという一般的にやや故障しやすいといわれる車を買うからには、変に低走行な個体より、普通にしっかり使われていた個体の方が絶対にいいはずだと思って、実は多走行なシトロエンを探していたんです」
そしてよくよく聞いてみると、そのC6はファーストオーナーの時点から、埼玉県の有名なシトロエン専門修理工場で整備を受け続けてきた個体であることがわかった(後に文園さんもそちらに整備をお願いすることになる)。

運命の出合いとしか思えない「決定打」
そして「奇跡」のようなことも起きた。
カーオーディオの音質もチェックしたいと思った文園さんは、CDチェンジャーのPLAYボタンをいちおう押してみた。すると前オーナーのCDがそのまま入っていたようで、曲が流れ始めた。
車載スピーカーから聴こえてきたのは、太郎さんが妻・結莉さんとの結婚式を行なった際に、DJでもある太郎さんが歓談タイム用の曲として選曲した、結莉さんの母上が大好きな曲。ビル・エヴァンストリオの「ワルツ・フォー・デビイ」だった。
「それが決定打となって、もちろんその他に車種も、色も、メンテナンス履歴も、そして多走行車である点も(笑)僕の理想どおりだったこともあって、その場で『これ、買わせてください!』と宣言して手付金を支払い、後日ソッコーで残金を振り込みました」
▲前オーナーは音楽関係の仕事をされている方だったという拡張された自由と、どんどん増える走行距離
そうして文園夫妻の元へやってきた、18年落ちで走行22万kmのシトロエン C6。いや、今では「19年落ち」に変わり、走行距離も「25万km」へと変わった。
「近場の買い物とか別ですが、基本的にはどこへ行くにもこのC6を使っているので、走行距離は増えましたね。で、これからも走行距離はどんどん増えるんじゃないかと思います。なぜならば、やっぱり『自分の車』あるいは『自分たちふたりの車』だけが与えてくれる自由というか、素晴らしい時間があることを実感してしまいましたし、特にこのシトロエン C6だと、その自由や時間がよりいっそう拡張されたものになるからです」
映像制作の仕事で全国を飛び回る際には、とんでもなく変則的なスケジュールで空港や駅に行ったり到着したりする文園さんだが、そこにシトロエン C6があれば、到着時間のうんぬんを気にする必要がない。そしてC6の重厚だが柔らかな乗り味に身を任せていれば、仕事で疲れた頭と身体、そして心をリセットできる。
そして週末には妻の結莉さんとバーベキューをするためシトロエン C6で郊外へと疾走し、あるいは時間があるときは、あえて飛行機や新幹線ではなくC6で、広島までの車旅を敢行したりする。

渋滞にハマっている時間すら愛おしい
「そういうふうに車を使っていると、当然ですが渋滞にハマることもあります。でも、渋滞にハマっているその時間すらもイイんですよ。生活の場である家の中ではなかなかいえなかったりする相談事なんかも、車の中だとなぜか自然にできる。……不思議ですよね、車って。もっと早く手に入れていればと思わなくもないですが、結局はこのC6と運命的な出合いをすることができたので、結果として良かったと思っています」
それでもやっぱりシトロエンは繊細な部分もある車ゆえ、時おり故障することもあるという。だからといって文園さんが、この運命的なC6を手放そうと思ったことはない。完全に走行不能となるその日まで、乗り続けるつもりだ。
念のため言っておくと、文園さんといっても「文園太郎さんと文園結莉さん」の両名が、そう考えているということである。

▲上はかつてファミリーカーだったシトロエン エグザンティア。家族とシトロエンの歴史は紡がれていく▼検索条件
シトロエン C6(初代)
文園夫妻のマイカーレビュー
シトロエン C6(初代)
●購入金額:約120万円
●年間走行距離:約1万km
●マイカーの好きなところ:乗り心地のよさ。シートも分厚くて贅沢! そして大型サルーンなので荷物もかなり積める
●マイカーの愛すべきダメなところ:故障はしばしば。真夏にヒューズが飛んでエアコンが付かなくなったり……(笑)
●どんな人にオススメ?:C6が欲しいと思っている全ての人。巷の噂よりも、ちゃんと走る車です

自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー勤務を経て出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツR EX Black Interior Selection。
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