▲アルファ ロメオの歴史で最も成功したモデルといわれるスポーツセダンの156。生産は1997年から2005年までで、GTAはそのトップグレードとして2002年から設定され、珠玉のV6エンジンとMTを組み合わせた走りで多くのファンを魅了した。通常ラインナップと同様、GTAにもセダンとスポーツワゴン、MTとセレスピードが設定されていた ▲アルファ ロメオの歴史で最も成功したモデルといわれるスポーツセダンの156。生産は1997年から2005年までで、GTAはそのトップグレードとして2002年から設定され、珠玉のV6エンジンとMTを組み合わせた走りで多くのファンを魅了した。通常ラインナップと同様、GTAにもセダンとスポーツワゴン、MTとセレスピードが設定されていた

将来「こんなモデルがあった」と語り継がれるモデルだね

EDGE:さて、今月はアルファ 156のGTAです。実はまだやっていませんでした。

松本:いいじゃない。もちろん他のアルファ ロメオでもいいよね。164とか75ミラノとかアルファ6(セイ)なんて。こう並べても君は共通項が理解できないと思うんけどね。

EDGE:……セダン?

松本:まぁそれも共通だけど、そこじゃないよ。最後にアルファ6っていってるでしょ。“6(セイ)”すなわち6気筒エンジン。156GTAが搭載したのは3.2L 6気筒で最後のグランプリカーの流れをくんだ血統書付きのエンジンなんだ。

EDGE:え? 156ってそんなに古い車じゃないですよね?

松本:ところがね。このV6はアルファロメオの伝説のエンジニア、ジョゼッペ・ブッソ(*1)の設計が入ったエンジンなんだよ。量産車のV型6気筒でここまでいい音のエグゾーストノートを発するエンジンはないよ。

EDGE:あの、ジョゼッペさんって聞いたことないんですけどすごい方なんですか?

松本:もし知らなくてもこれを知ったら買いたくなっちゃうよ。ブッソはトリノ生まれのエンジニアで戦前のアルファ ロメオと戦後のフェラーリのエンジニアだったんだよ。初めはインダストリアルデザイナーになるべく勉強して、後にフィアットの航空機部門に入り航空機用のアルミ合金やマグネシウムを使った軽量なエンジンの製作をしていたんだ。

そのノウハウを生かしてフェラーリの1.5L V12のレーシングエンジンを設計したんだ。フェラーリのエンジンでいうとコロンボユニット(*2)が有名だけど、実際にはブッソがまとめ上げたといわれているんだ。その後ブッソは1948年にアルファロメオに呼び戻されて戦後の量産エンジンのために一肌脱いだっていうわけなんだ。

EDGE:あ、ちょうどお店に着いちゃいましたね。こちらの車です。

松本:青、いいね。だいぶ印象が違うよね。

EDGE:あ、話の腰を折ってすいません。で、松本さんの中では伝説のエンジニアであるブッソさんとこの156GTAのV6エンジンがつながっているようですけど僕にはさっぱり……。

松本:まあ最後まで聞きなさいよ。まずアルファロメオはグランプリカーを作っていたような、超少量ロッドのスポーツカーメーカーなんだ。多少のお金持ちクラスでは買えなかったんだよ。だから量産エンジンを作るにしても、その血統をなんとか引き継げるようにしたかったはずなんだ。それで作られたのがアルファ ロメオ1900(*3)。

その後、爆発的なヒット作となったジュリエッタ(*4)の1300ccのエンジンもレーシングエンジンのエッセンスが入っていてね。だからいまそれらの車の値段が高騰しているのも、価値からいったら当たり前のことなんだ。

EDGE:なるほど……。

松本:このエンジンは当時の量産車ではありえないスペックなんだよ。アルファロメオは似非(えせ)なモノは使わず本物を使ってカスタマーにベネフィットしたわけなんだよ。そしてこれらはみんなブッソの設計なんだ。

EDGE:それはスゴイ人ですね……。

松本:ここからがV6につながっていくんだけど、その技術は1970年初頭にすでに完成していたんだ。でも、これからの時代はV型6気筒だと考えて2Lから3.8Lまでの排気量を変えることのできるエンジンへと発展させた。それが1979年に登場したアルファ6の2.5L V6ユニットなんだよ。このエンジンは1979年に作られて1993年にツインカム化などによってヘッドは変わるものの2005年まで作られたんだ。その最後が156GTAということになるね。

EDGE:アルファ ロメオの4気筒もそのブッソさんなんですか?

松本:そうだよ。黄金期を作った人なんだ。エンジンだってデザインがとてもかっこいいでしょ? 昔の4気筒も156GTAの6気筒もカバーを掛けなくても見せるエンジン設計なんだよね。156GTAはセダンが1973台作られたんだよ。

アルファ ロメオは可変バルブタイミングやガソリン直噴技術の特許を持っていてね。天才的な技術者がいまでもいるんだと思うんだよね。あと20年もしないうちに乗用車用の内燃機関はなくなるかもしれないけど、スイスの機械式時計のようにこういう素晴らしい名機があったとなる日も来ると思うし、そうなってほしいよね。人類が作った内燃機関の歴史の一コマだからね。

■注釈
*1 ジョゼッペ・ブッソ
1946年~1947年にフェラーリへ出向し、その後はアルファ ロメオにてV12エンジンを開発。V6エンジンの生みの親

*2 コロンボユニット
アルファ ロメオの設計者であるジョアッキーノ・コロンボが作ったエンジン。275のV12エンジンもそのユニットがベース

*3 アルファ ロメオ 1900
1950年~1959年まで製造された中型サイズの乗用モデル。アルファ ロメオ初の本格量産モデルとなった

*4 ジュリエッタ
コンパクトなボディに優秀なエンジンを組み合わせ、大ヒットとなった名モデル。初代モデルは1954年から発売された

クアトロポルテ
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text/松本英雄
photo/岡村昌宏
 

※カーセンサーEDGE 2018年12月号(2018年10月26日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています