▲プジョー 106 ▲ごく普通な1.6L自然吸気エンジン+ごくごく普通のサスペンションなのに、プジョー 106というフランス車の走りはひたすらに気持ちがいい。やはり「小さいから」なのだろうか?

「大きな車」が好きじゃないなら「中古車」に目を向けてみては?

2019年11月20日発売のカーセンサー2020年1月号では、「ぶつけそう、擦りそう…という不安にサヨナラ 小さくすれば8割解決!」と題した特集を展開している。

近年、車のサイズがどんどん大きくなっているという事実を背景に、主に運転がさほど得意ではない人々に向けて「でも“小さめな車”を選べば問題はおおむね解決しますよね?」という旨を提案している特集だ。

そしてそれは、「どちらかと言えば運転が得意な人=車好き」に対しても刺さる話なのではないかと考えている。

受動安全性などの致し方ない理由から、ひたすら大ぶりになってきた昨今の車。それに対して「大きくて重くて、なんかつまんないよね」等の文句をつけることも多い、いわゆる車好き。

かく言う筆者もそのひとりではあるのだが、その寸法がまだ小ぶりだった頃の車=中古車に目を向けてみれば、車好き各位が現在抱いている不満の、それこそ8割は「解決!」となる可能性だって大いにあるはずなのだ。

例えばの話、プジョー 106である。
 

▲プジョー 106▲日本では95年から03年まで販売されたプジョーのエントリーモデル、プジョー 106。写真は最終仕様の「S16リミテッド」で、搭載エンジンは1.6L直4DOHC。トランスミッションは5MTのみだった

コメントしようがないほど「普通」なメカニズム

車好き各位には今さらご説明するまでもないだろうが、プジョー 106とは、フランスのプジョーが本国では1991年から2003年まで製造販売したBセグメント(フォルクスワーゲン ポロぐらいの車格)のエントリーモデル。

本国ではガソリン1Lやディーゼルを含む多種多様なエンジンと、3ドアに加えて5ドアハッチバックも用意されていたが、日本へ正規輸入されたのは1.6Lエンジン+スポーティなフル装備となる立派な3ドア車のみ。

95年6月から「XSi」が輸入され、翌96年9月のマイナーチェンジで「S16」に変更された。さらに02年12月からの最終仕様は「S16リミテッド」となっている。

……というのがプジョー 106の(かなりざっくりとした)ヒストリーなわけだが、この車、メカニズム的には「まったく大したことない」としか言いようがない車だ。
 

▲プジョー 106▲プジョー 106 S16に搭載された最高出力118psの1.6L直列4気筒エンジン。特に高回転型なわけではなく、かといって低速トルクがモリモリなわけでもないのだが、妙に活発な力を提供してくれる地味な名機だ
 

いや、自動車工学の素人である筆者だからそう思うだけで、その筋のエンジニアが見れば「うむむ、このサスペンション取り付け部の角度と精度はすばらしい!」みたいなことがある可能性も否定はできない。

だがそのスペックをちょいと見た限りでは、いったいなぜ、この車がこんなにも気持ちよく走りるのかが、今ひとつ理解できないのだ。

具体的に、いわゆるスペックの主要部分を記してみよう。

【全長×全幅×全高】3.69m×1.62m×1.37m
【車両重量】960kg
【エンジン】直列4気筒DOHC
【サスペンション前】マクファーソンストラット+コイルスプリング
【サスペンション後ろ】トレーリングアーム+トーションスプリング
【タイヤサイズ】185/55R14

上記は最終「S16リミテッド」のものだが、まあなんというか「……90年代系小型車の普通ですね」としかリアクションしようのない、素朴なスペックである。



▲プジョー 106▲ちなみに106 S16のインテリアはこのような感じ。ホワイトメーターや5MTはさておき、その他部分の意匠はこれまた「普通の実用ハッチバックのそれ」といった感じで、特筆すべき箇所はあまりない

時代が一周してノーマル系の中古車が増えてきた?

だがスペック上は素朴であるにも関わらず、この車の走りは「とびきり」だ。加速が凄いとか最高速度うんぬんではなく、妙にキビキビと気持ちよく走るのである。

そしてその動きを――もちろんドライビングの素人がすべてを制御できるわけはないのだが――ドライバーの意思と肉体で完全に、思うがままにコントロールできているような気にさせる車なのだ。

それはおそらく最高出力118psを発生する1.6L DOHCエンジンのおかげではない。なぜならば、筆者が過去に外国で借りたプジョー 106のレンタカー、1Lか1.2Lぐらいのショボいエンジンを積んだ5ドア版でも、その感覚はほぼ同じだったからだ。

もちろんサイズと重量だけが車の動きを決めるわけではない。だが「全長3690mm x 全幅1620mm x 全高1370mm、そして車両重量 960kg」という小ささと軽さが、この車の好ましいキャラクターを決定づける大きな要素のひとつであることは、間違いない。
 

▲プジョー 106▲写真を見てのとおり「運転席からボディの四隅まで手が届くほど小さい」ということは断じてないのだが、プジョー 106を運転していると、そのような錯覚をしてしまうほどの「ジャストサイズ感」を覚える
 

……で、プジョー 106のことをそのように好ましく思うのは筆者ひとりではなく、多くの自動車愛好家も(たぶん)同じような印象をプジョー 106に対して抱いた。そして新車としての役目を終えて中古車となったプジョー 106は、小さな車なものだから中古車相場は比較的安かった。

そして安かったがゆえに、若衆を中心とする「いろいろな人」にガンガン使われ、ときにはラリーカーっぽい改造も施されたりして、オリジナルコンディションをキープしている良好な個体の数はひたすら減少した。

しかし時代が一周したのか、ここ最近はオリジナルコンディションか、もしくはオリジナルコンディションに戻した状態のプジョー 106 S16およびS16リミテッドの中古車流通量がやや増えてきた印象がある。

まあ「増えてきた」といっても知れた数ではあり、なおかつ世界的なネオクラシックブームのせいか、以前と比べれば相場は上がってしまっている。

だがそれでも、今のうちにコンディション良好なフルノーマル車または準ノーマル車を入手し、あまり乗らずに屋根付きの車庫に保管しておけば、数年後には買った値段以上で売却できる可能性もあるだろう。

だが、それはやっぱり難しいのかもしれない。

なぜならば、これだけ「乗って楽しい小さな車」をあまり乗らずに保管しておくなど本末転倒であり、そもそも車好きな人が「あー! 今日もまたプジョー 106運転してえ!」という欲望に勝てるとは、とうてい思えないからだ。
 

文/伊達軍曹、写真/プジョー・シトロエン、岡村昌宏

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プジョー 106(1995年4月~2003年6月生産モデル)×全国
伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。