サクラ

衝動買いだった電気自動車

神奈川県横浜市内の閑静な住宅街。2台分の駐車スペースがある一戸建ての一角に電気自動車(EV)の日産 サクラが止められている。

オーナーの藤本 健さんは2023年10月からサクラを愛用している。

“愛用している”とあえて表現したのは、藤本さんのサクラの使い方が人とは異なるからだ。

藤本さんは自宅に太陽光発電システムを導入。余剰電力は「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)」を利用して1kWhあたり48円で売電していた。しかし、10年が経過しFIT期間が終了したことで売電価格が1kWhあたり8円まで下がったので、余剰電力を蓄えてソーラーパネルが発電しない時間帯に使うことを考えていた。
 

サクラ
サクラ

このケースでは一般的に家庭用の蓄電池を導入することになる。藤本さんも当初はこの方法を考えたが、「蓄電池よりもEVをバッテリー代わりに使うV2H(Vehicle to Home)」の方が便利なのではないか」と思うようになった。

「家庭用の蓄電池は高価で、容量10kWhのものが200万~300万円ほどします。この価格だと蓄電しても電力会社から買う金額と比べてなかなか元がとれない。それなら蓄電池と同じくらいの予算でEVを購入し、V2Hにした方が得だと考えました。そんなときにサクラが発売になり、これだと思ったんです」
 

サクラ

脱炭素化という言葉が使われるようになって久しいが、藤本さんはそのはるか前――中学3年生で太陽光発電に興味を持ったそうだ。

1973年に起こった第1次オイルショック。藤本さんの父親は石油会社に勤務していて、幼いながらに「このままでは父親の仕事がなくなる」と感じた。同時に石油に代わるエネルギーの必要性を痛感した。

そして中学の理科の授業で太陽電池の存在を知り、目の前が開けるような感覚になったという。

高校生のときには自分で太陽光電池を買って様々な実験を行い、大学は電気工学科に進学。本気で太陽電池メーカーへの就職を検討した。そんな藤本さんが早い段階で自宅に太陽光発電システムを導入したのはごく自然なことだった。ちなみに、藤本さんの“太陽電池愛”は自宅だけにとどまらず、地方で3ヵ所の太陽光発電所を運営するまでになった。

サクラ

2023年10月に藤本家にやってきたサクラだが、メインの導入目的は蓄電池として活用すること。そのため藤本さんはほとんどサクラを運転せず、奥さまが買い物などで毎日数km走らせる程度だったという。そのため、導入から半年ほどたっても総走行距離は400km程度だった。

「走る距離は短いですが、妻はEVライフを楽しんでいるみたいですよ」
 

サクラ

では、家庭での電気の使い方はどのような感じなのだろう。

「太陽電池の発電量や自宅で使う電気の量は季節によって大きく変わります。2024年で最も電気を使ったのは1月で約620kWh、最も使用量が少ないのは5月で約260kWhでした。このことから暖房が電気を多く消費するのがわかります」

そのうちV2Hでサクラから家庭に給電した量は1月が163kWh、5月は93kWhです。もちろん、昼間は太陽電池が発電している電気を直接家庭で使っています。V2Hのシステム設計上電力会社から送られてくる電気をまったく使わないということはできないのですが、電気を多く使用する1月の電気代が8101円、5月が3144円でしたから、かなり電気代を抑えることはできています」(※)

※編集物注:藤本さんと同じ「戸建て/2人以上の世帯」における全国平均電気代は、1月が1万2376円、5月が1万1013円で月額約4000円~8000円程度抑えることができている。(全国平均の電気代は政府統計の総合窓口e-Statを参照)
 

サクラ

V2Hの導入でもうひとつ心強いのが災害時だ。大規模停電が発生してもサクラに蓄えた電気を自宅で使うことができる。

もちろん、大型のEVや車が発電できるPHEVに比べれば使える電気の量は少なくなるが、節約しながら使っていけば急場をしのげるはずと藤本さんは考えている。

サクラ

サクラを蓄電池として捉えほとんど運転していなかった藤本さん。最近はちょくちょくサクラで出かけるようになったそうだ。

もともと地方の太陽光発電所などに出かけるときには別の車を運転していたためサクラの出番はほとんどなかったが、世田谷に住む娘さんの家に遊びに行くときなどはサクラがちょうどいいことに気づいた。

サクラ

「娘の家までは電車利用だと何度も乗り換えるので不便なんですよね。世田谷は自宅から往復50kmくらいなので充電残量を心配することはまずありません。向かうときは高速道路を使うのですが、サクラは軽自動車なので高速料金が安い。それなのに走りは軽自動車と思えないほどパワフルでスムーズだし、走行中は静かで快適。走りはかなりいいですよ」

蓄電池代わりに藤本家にやってきたサクラ。その役目はしっかり果たしたうえで、本来の役割である“車”としても使うようになった。高速道路を気持ちよく走ることができ、きっとサクラも喜んでいるはずだ。
 

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提供/日産自動車株式会社
文/高橋満 写真/篠原晃一
サクラ

藤本さんのマイカーレビュー

日産 サクラ(初代)

●購入額/約230万円
●1ヵ月の走行距離/約200km
●サクラの好きなところ/太陽光発電を取り入れた生活をサポートしてくれるところ
●サクラの充電頻度は?/V2Hで使っているので毎日
●サクラを購入した店舗/日産神奈川販売 神奈川三枚町店
 

高橋満(たかはしみつる)

自動車ライター

高橋満(BRIDGE MAN)

求人誌編集部、カーセンサー編集部を経てエディター/ライターとして1999年に独立。独立後は自動車の他、音楽、アウトドアなどをテーマに執筆。得意としているのは人物インタビュー。著名人から一般の方まで、心の中に深く潜り込んでその人自身も気づいていなかった本音を引き出すことを心がけている。愛車はフィアット500C by DIESELとスズキ ジムニー