スバル矢島工場 ▲複数の異なるモデルを1つのラインで製造できるスバルの混流生産。これが中古車にも影響を及ぼす話になる??

スバルの新しいチャレンジ「混流生産」

過日、群馬県太田市の株式会社SUBARU 群馬製作所 矢島工場にて行われた「SUBARU『生産における柔軟性の追求』に関する取り組み説明および工場見学会」なる、長い名称のプレス向けイベントを取材した。

当日の内容は要するに、スバルの新車工場の生産ラインですでに開始されている「新しい製造方法」のリアルな模様を一部メディアに公開し、そして説明するというものだった。
 

スバル矢島工場▲恐ろしく整理整頓され清潔感の漂うスバルの製造ライン

……などといきなり言われても、「新車の製造ラインに関する情報など、今まさに“中古車”を探している自分には無関係なのでは?」と感じる人がほとんどだろう。

だがスバルが矢島工場で始めた新しい製造方法は、我々中古車ハンターにとっても――特に「スバル車の中古車を探している人間」にとっては、決して無関係とはいえないものだった。

以下、順を追ってご説明しよう。
 

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メーカー:スバル

ガソリン車もEVも同じラインで作れる

今回スバルが公開した取り組みの目玉は、車両構造がまったく異なる複数の車種を、同じ1本のラインで製造する「究極の混流生産」だ。

一般的に自動車工場では「エンジン車のライン」「電気自動車(BEV)のライン」というように、パワートレインや車格ごとに製造ラインを分けて車体の組み立てを行う。ましてや他社ブランドの車を組み立てるともなれば、それ専用のラインを用意するか、もしくは工場自体を分けるのがセオリーとなる。

ところがスバルの矢島工場では、スバルのエンジン車が流れてくる同じライン上に、BEVである「ソルテラ」も流れてくる。それどころか、トヨタブランドのBEVである「bZ4X」までもが、ごちゃ混ぜで流れてくるのだ。
 

スバル矢島工場▲EVであればボディ底面にバッテリーが敷き詰められるが、当然ながらガソリン車にそれはない。そんな根本的な違いをもっていても1台ごとに「混流生産」が可能だという

骨格も構造もまるで異なるエンジン車とBEVを、同じ1本の製造ラインで作り分けるのが難しいということは、おそらくは誰もがイメージできるだろう。だがスバルのソルテラとトヨタのbZ4Xは、基本的な部分は共用する兄弟車であるため、「混流生産も意外とカンタンなのでは?」と思うかもしれない。

しかし実際は、兄弟車ではあっても「車体基準」と呼ばれるものが異なっていたり、「工程順序」もメーカーによってまったく異なるため、「兄弟車だから混流生産も楽勝」というわけでは決してない。
 

トヨタ bZ4X
スバル ソルテラ▲上がトヨタ bZ4Xで下がスバル ソルテラ

だがスバルの矢島工場では、部品を組み付ける際の基準位置を柔軟に変更できる「可動式基準」を新たに採用するなどして、BEVとエンジン車、そしてスバル車とトヨタ車を混ぜこぜで生産できる。

柔軟性と高効率を両立する「究極の混流生産技術」を確立させたのである。
 

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スバル ソルテラ(初代) & トヨタ bZ4X(初代)

だがここで、多くの人は疑問に思うことだろう。スバルはなぜ、そんなに大変でややこしいことを始めたのか?」と。

その答えはシンプルだ。「先が読めない時代に、巨大な専用投資リスクは冒さない形で経営資源を最大活用し、高効率な生産を実現するため=稼ぐ力を生み出し続けるため」である。

今、自動車業界は百年に一度ともいわれる大変革期にあり、つい先日まで「これからはEVだ!」と皆がいっていたかと思えば、直近では「やはりハイブリッドも必要だ!」ということにもなったりして、とにかく激しく揺れ動いている。

その際に、もしもスバルが世界を代表するほどの超巨大メーカーであったなら、「EV専用工場」を大々的に新設し、もしも売れ行きが悪ければ減産する、あるいは製造を停止するなどの力技も、可能だったかもしれない。

だが年間生産台数が100万台に満たない、自動車業界では「小規模メーカー」に分類されるスバルがそんな大ばくちを打ち、そしてもしもばくちに負ければ、一発で経営が傾きかねない。

だからこそスバルは、「EVが売れればEVを増やし、エンジン車が求められれば、エンジン車をすぐにでも増やせる」という究極のフレキシビリティ(柔軟性)を、自らの工場にもたせた。
 

スバル矢島工場▲北米輸出用のスバル ソルテラとトヨタ bZ4Xが同じ場所に並ぶ

そして今後は矢島工場だけでなく、2027年以降に稼働を予定している大泉工場内の新工場でも、より進化した「究極の混流生産」が行われることになるのだ。

つまり筆者たちが矢島工場で見たのは、時代の変化に翻弄されず、身の丈に合った投資でしなやかに生き残るための、スバルというメーカーの血のにじむような「生存戦略」だったのである。
 

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メーカー:スバル × エンジン種別:ガソリン

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メーカー:スバル × エンジン種別:ハイブリッド

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メーカー:スバル × エンジン種別:電気

で、ここからが本題だ。この話がなぜ、中古車を探すための媒体である「カーセンサーnet」に関係してくるのか?

中古車を購入しようとする際のリスクには「相場の高騰」「納車後の故障発生」など、様々なものがあるだろう。だが、より長い時間軸で考えた場合の大きなリスクのひとつに「そのメーカーが衰退し、廃業または縮小してしまうこと」というのがある。

どんなに気に入って買った中古車でも、メーカーが破綻して部品が手に入らなくなったり、ディーラー網が縮小または絶滅してメンテナンスが受けづらくなれば、その車の維持は困難になる。

特に、メカニズムに独自のこだわりをもつスバルのようなブランドの場合、メーカーの健勝ぶりは、ユーザーの「維持における安心感」に直結する。

また、この厳しい変革期の中で倒産や破綻はしないまでも、企業としての体力が激落ちし、まったくもってつまらない車しか作れない状況になってしまったとしても、それもまたスバル車愛好家としては目も当てられない。

つまりスバルが矢島工場で見せてくれた製造ラインの柔軟性は、もちろん前述のとおり、第一義としては、自社(スバル)がこれからも“稼ぐ力”を生み出し続けるために開発されたものだが、それは巡り巡って「スバル製の“安全で愉しい中古車”を今後も買い続けたいと思う者たち」の利益にもなるのだ。
 

スバル ソルテラ▲手頃な価格で楽しめるスポーツモデルとして中古車市場でも高い人気を誇るBRZ(2代目)

今から1~2年後の中古車市場がどうなっているかは、何となくのレベルであれば想像がつく。だがこの大きな変革期にあっては5年後あるいは10年後、中古車市場はどんなパワーユニットを搭載する車で構成され、どんな車種が人気となっているのか、筆者にはまったくわからない。

だが、少なくともスバルに関しては「究極の混流生産」によって時代の荒波を泳ぎきり、相変わらず車好きの琴線に触れまくるモデル群を、中古車市場に供給し続けているのではないかと夢想できるのである。
 

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メーカー:スバル
文/伊達軍曹 写真/スバル、篠原晃一
伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー勤務を経て出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2005年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツR EX Black Interior Selection。

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