▲ダウンサイジングターボ全盛の現在を経て、世の中はEVやFCVによる自動運転社会に向かおうとしている。そうであるならば今のうちに、「自然吸気」「直列6気筒」ならではの魅力を存分に味わっておきたい! ▲ダウンサイジングターボ全盛の現在を経て、世の中はEVやFCVによる自動運転社会に向かおうとしている。そうであるならば今のうちに、「自然吸気」「直列6気筒」ならではの魅力を存分に味わっておきたい!

「名作エンジン廃絶時代」までのカウントダウンが始まった?

それがいつになるのかは誰にもわからないが、「名機」と呼ばれた高性能ガソリンエンジンを搭載する車に乗ることが許されなくなる日は、そう遠くない将来に訪れるだろう。

古典派の自動車ファンとしては非常に残念だが、これも時代の大きな流れということでやむを得まい。ある意味、あきらめるほかないのだ。

我々にできることはまず第一に、来るべきEV(電気自動車)/FCV(燃料電池車)の自動運転時代のなかにも必ずあるはずの「新たな歓び」について、ほのかに夢想してみること。

そして第二に「とりあえず今のうちに、名機と呼ばれたエンジンの味わいを存分に堪能しておくこと」だ。

幸いにしてこの世には「中古車マーケット」というものが存在している。

そのため最近の新車ではすっかり目にしなくなった「ガソリンが強烈に爆発するディープ系エンジン」を搭載したモデルも、いまだ市場を通じて入手できる。

そしてそれを(もちろん紳士淑女として法の範囲内で)爆走させることも、まだ許されている。

全国一千万の古典派自動車ファンよ。今こそそういった名作エンジンを、いや名作エンジンを搭載していた車を、手に入れようではないか。

そしてそれを今のうちに、マナー良くしゃぶり尽くそうではないか。そうじゃないと「車好き」としての魂が成仏できないではないか!

▲車好きの琴線に触れる「エンジンルーム」という言葉も、数十年後には死語になるのだろうか? ▲車好きの琴線に触れる「エンジンルーム」という言葉も、数十年後には死語になるのだろうか?

「完全バランス」の直6エンジンを搭載した最後のM3

……という熱い演説(?)に続き、具体的な「今のうちに買っておくべき名作エンジン搭載車」をご紹介させていただこう。

もちろん様々な候補はあるが、なんといっても猛烈にオススメしたいのが3代目のBMW M3。

車の型式名としては「E46」、エンジンの型式名としては「S54B32」となる自然吸気の3.2L直列6気筒を搭載した、超名作クーペである。

▲01年1月から07年8月まで販売された3代目(E46型)BMW M3。搭載エンジンは自然吸気の3.2L直列6気筒DOHCで、トランスミッションは6MTまたはセミATのSMGII。カタログによれば0-100km/h加速に要する時間はわずか5.2秒 ▲01年1月から07年8月まで販売された3代目(E46型)BMW M3。搭載エンジンは自然吸気の3.2L直列6気筒DOHCで、トランスミッションは6MTまたはセミATのSMGII。カタログによれば0-100km/h加速に要する時間はわずか5.2秒

ご承知のとおりツーリングカーレースの公認取得用市販車としてスタートしたBMW M3は、通常の3シリーズをベースに「BMW M社(BMWのモータースポーツ関連研究開発子会社)」が開発しているスポーツクーペおよびセダンである。

第2世代以降のM3はツーリングカーレースとの直接の関係はなくなったが、BMWモータースポーツ部門の血脈と気合をダイレクトに継承しているマシンであることは間違いない。

そして初代から現行型まで計5世代のM3が存在しているなかで、S54B32エンジンを搭載するE46型(3代目)をイチ推しとする理由のひとつは「最後の自然吸気直列6気筒搭載モデルだから」だ。

これの後継にあたるE90型(4代目)からM3のエンジンはV型8気筒に変更され、さらに現行のF80型M3セダンおよびM4クーペでは「ターボチャージャー付き」となった。

V型8気筒が悪いわけでもターボチャージャーが悪なわけでもない。むしろF80型およびE90型M3のS55B30A/S65B40型V8エンジンは大変素晴らしいユニットだ。

しかし「完全バランス(理論上、慣性力振動も偶力振動も発生しないということ)」である直列6気筒エンジンの切れ味と、その「最後のそれである」という強烈な神話性の前では、さすがの近年のM3も若干分が悪いかも……ということだ。

それほどまでに、地球上で直列6気筒エンジン(とV12)だけが持っている完全バランスの味わいは魅力的なのだ。

▲E46型BMW M3が搭載したS54B32直列6気筒エンジン。同時期の3シリーズが搭載していたM54エンジンをベースに作られた高出力バージョンで、M54のシリンダーブロックがアルミ製なのに対し、こちらはより強度に優れる鋳鉄製に変更されている ▲E46型BMW M3が搭載したS54B32直列6気筒エンジン。同時期の3シリーズが搭載していたM54エンジンをベースに作られた高出力バージョンで、M54のシリンダーブロックがアルミ製なのに対し、こちらはより強度に優れる鋳鉄製に変更されている

近年のエンジンでは味わえないドラマチックな吹け上がり

そしてもちろん、E46型BMW M3を推すのは「直列6気筒だから」という理由だけではない。それが「究極の自然吸気直6」だからこそだ。

エンジン内部のフリクションを徹底的に低減したS54B32型直6DOHCは、リッターあたり約107psという怒涛のパワーを発生させる。さらに注目したいのは、その最高出力が「7900rpm」というきわめて高い回転域で発生している点だ。

▲E46型M3の速度計と回転計。イエローゾーンは6500rpmからで、レブリミットは8000rpm ▲E46型M3の速度計と回転計。イエローゾーンは6500rpmからで、レブリミットは8000rpm

すでにBMWのプレスサイトからE46型M3用エンジンの出力およびトルクの発生曲線を示す図版が消えており、お見せできないのが残念だが、S54B32の出力曲線の軌跡はまさに「昇り龍」。

0rpmからレブリミットである8000rpmの絶頂に向け、天に昇るドラゴンのごとく一直線にパワーが盛り上がるのだ。

あの感覚は、低~中回転域を重視している近年のエンジンでは決して味わうことができないものだ。そして今後二度と、ああいった市販エンジンが新規に製造されることもないだろう。

そのように超高回転型のS54B32だが、ダブルVANOS(無段階の可変バルブタイミング機構)のおかげもあって低~中回転域でのトルクも十分。E46型M3は、それなり以上に「運転しやすい車」でもあったのだ。

その他、いわゆるロングストローク型のエンジンでありながら、独立マルチスロットルの採用によりレスポンスはカミソリのごとくシャープであり、エンジン音ならびに排気音も、この種の車が好きな人間にとっては最上に近い調べ。

……とにかく、何から何までが素晴らしすぎる自然吸気直列6気筒ユニットだったのだ。

▲S54B32エンジンは、そのエンジン音と排気音も秀逸というか快感。走行モードを「ノーマル」から「スポーツ」にボタン一発で変更すれば、パフォーマンスと音質はより一層強烈になる ▲S54B32エンジンは、そのエンジン音と排気音も秀逸というか快感。走行モードを「ノーマル」から「スポーツ」にボタン一発で変更すれば、パフォーマンスと音質はより一層強烈になる

こんな直列6気筒は、たぶんもう二度とこの惑星に現れない

以上のとおりの素晴らしきS54B32エンジンを搭載したE46型BMW M3。しかしその中古車流通量は――特に「良質」と判断できそうな個体の量は――さすがにやや減少傾向にある。

具体的には11月29日現在、修復歴なしのE46型M3の数はは全国で45台。そのうち9台が走行距離10万km超で、走行5万km以内の個体数は12台しかない。

さらにそのうち11台がセミATのSMGIIという状況なので、もしも「比較的低走行なMT仕様が欲しい」と思った場合には、その購入難易度はなかなかのものとなるだろう。

もちろん中古車というのは走行距離ですべてが決まるわけではなく、距離というのは数ある物差しのなかのひとつでしかない。

歴代オーナーの愛情とマネー、そしてディーラーや専門工場の部品と技術がふんだんに注がれてきたことが、記録簿や整備伝票の控え、そして内外装コンディションなどから確認できる個体もある。

そんな1台に出会えたならば、多少距離がかさんでいる個体であっても検討対象に加える価値は十分にある。

具体的には「総額300万円台前半から半ばぐらいで、走行6万~8万km付近の6MT仕様」というのがターゲットのイメージになるだろうか。

決して安い買い物ではないが、それを支払うだけの価値は、一部の人間にとっては絶対にあるはず。

なぜならば、こんなエンジンはもう二度とこの惑星に登場しないからだ。

▲比較的良質な個体がまだ残っているうちに手に入れ、手塩にかけて育て上げたい「名機」なのです! ▲比較的良質な個体がまだ残っているうちに手に入れ、手塩にかけて育て上げたい「名機」なのです!


text/伊達軍曹
photo/BMW

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BMW M3(E46型)×修復歴ナシ