西川淳の「SUV嫌いに効くクスリをください」 メルセデス・ベンツ G400dの巻
2021/10/18
▲3L直6ディーゼルターボを搭載する現行Gクラスのディーゼルモデル。G350に加え、2021年からG400dが追加設定された一番人気のディーゼル、新グレードを買って損はない
かなり人気者である、泣く子も黙るGクラス。中でも最も人気で、中古車市場ではかなりのプレミアム価格になっているというG400dを、友人が買ったというのでちょいと味見させてもらうことに。あまりの人気ぶりに、広報車としておろす余裕すらないらしい。売れまくっているのだから、そもそも宣伝する必要すらないということか……。
新型となってオンロード性能が格段に上がったGクラス。当初から人気グレードは3L直6ディーゼルターボ(OM656)エンジン搭載モデルのG350dだった。新グレードのG400dも基本的には同じメカニズムを採用するが、350dに比べてエンジンスペックが大幅に引き上げられた。最高出力は+44ps、重要な最大トルクに至っては+100N・mも向上している。350dでもすでに十二分なパフォーマンスだったのに、そこからさらにトルクアップ。それでいてお値段はエントリーで38万円高というから、350dオーナーの嘆き節が聞こえてきそう。
▲機能や装備はG350dと同様ながら、選択可能な外装色を12色増やしている人気の現行モデルとはいえもうかなり見慣れたし、乗りなれてもいる。友人に乗っている人が多いのだ。特にスーパーカーオーナーが好んで乗っている、AMGとか。こんなに背の高いモデルを普段から乗りこなしていれば、スーパーカーの平べったさをいっそう強烈に味わえることだろう。なるほど、それが狙いか(笑)。
細長く背の高い車に乗っかったという感覚は、今やGクラスとランドクルーザープラドくらいでしか味わえない。筆者のSUV嫌いの原体験はまさにこの感覚にあった。いわゆる昔のクロカン四駆系のモデルにはいつも横倒れしそうな感じがあり、それに嫌悪感を抱いたわけだ。加えて、オフロード重視タイヤのゴツゴツとした転がり方も嫌だった。それを変えたのがBMW X5だったけれど、それでも高い位置に座らされると、不安定な感じがあって苦手意識が芽生える。要するに、筆者はささいな高さにもびびってしまう高所恐怖症なのである!
それゆえ、コクピットへよじ登るようにして入るGクラスは、もうその時点でちょっと心が震える。どうしてわざわざ路面から遠いところへ行かねばならない? 道路を走る車なのに? オフロードなんてもう走らないくせに? SUVとは“理不尽”の塊だ。
世間的にはそんな理不尽が好まれる。視界が高く、広いという優越感。それは分かる。Gクラスあたりだと、街中を走っていて高さで負ける車がほとんどない。だから安心だ。背の高い車ばかりになった昨今、頭一つ抜けている高さは重要なのだろう。
▲直6ディーゼルターボエンジンは、ソフトウエアとドライブトレインの調整により、G350dより44ps/100N・m向上させた最高出力330ps/最大トルク700N・mを誇る走り出して驚いた。現行になって車体の一体感は増していたけれど、それでも高さと重量を感じさせる“ゲレンデ”独特の乗り味が残っていた。400dではそれがさらに薄れている。もはやタイヤのタッパを感じさせることもほとんどなく、路面に対して実にスムーズ。コーナリングも滑らかで上質だ。いかん、これは気に入ってしまいそうだ(否、それがこの企画の目的でもあるのだが)。
プラス100N・mの700N・mという最大トルクが効いている。走っている時の車体を、小さくまとまって感じることができるのだ。それゆえ、クロカン四駆にありがちな“もっさり感”(ジムニーにだってある)が消え失せ、意のままに動くというドライブフィールが得られた。思いどおりに加速できるので、コーナリング中の後揺れも感じる隙がない。いやはや、さすがにメルセデス・ベンツというべきで、無類の完成度を誇っている。
ここ一発の加速フィールも圧倒的だ。防音防振対策も効いているのだろう。ディーゼルエンジンの大型SUVに乗っているという感覚が希薄で、出足の鋭さ不足とサウンド以外はまるでAMG63(最大トルク850N・m)のような加速である。400dがあればG63など要らないと思った。
▲最新メルセデス・ベンツ共通デザインを採用しつつも、狭いダッシュボードや助手席側のグラブバーなどオフローダーらしさも備えた。センターコンソールにはフロント/センター/リアのデフロックスイッチを配置名実ともにSUVの頂点に君臨するGクラス。ベスト&ロングセラーモデルであるがゆえ、さほど珍しくはないという点はマイナスポイントになるけれど、買わない理由があるとすれば逆にそれくらいのもので、ボディサイズさえ自身の生活圏に適合するのであれば、そして運よく買うチャンスに恵まれるのであれば、いろんな意味で買っておいて損はないモデルであると言っていい。
BEV化も早々に発表された。つまりGクラスは世界で人気のSUVである。今のうちによくできた(おそらく最後の)ストレート6ディーゼルを楽しむもよし、過激なAMG63ユニットを堪能するもよし。メルセデスといえど高額車両はリセールバリューに難あり、な今、値オチの少ない限られたモデルであることは間違いない。
それだけ大きな人気に支えられているという訳で、そんなに好きな人が多いのなら、何も背の高い車の嫌いなボクが無理して買う必要もないか、と自ら納得させておこう。
▲Gクラス専用の受注生産オプション「G manufakturプログラム」を用意。18種類の内装や専用オプションなどにより、好みの1台に仕立てることができる
▲後席は60:40の分割可倒式を採用。レザーシートにシートヒーターを標準とするなど高級車らしさも備える
▲スクエアなラゲージの容量は通常667L、後席を倒せば最大1941Lとなる
自動車評論家
西川淳
大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。
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