ホンダ エレメント

車にも“平成レトロ”がある!

平成から令和になったのはつい4年前だが、昭和から平成になったのは30年以上も前のこと。スマートフォンもインターネットもデジカメも普及しておらず、文化的には大昔(!)なのだ。

ちまたではそんな“ひと昔前”の製品やスタイルを楽しむ、平成レトロがブームになっている。

実は車においても、平成初期は特に日本の自動車メーカーが空前の好景気を背景にカンブリア爆発のごとく多種多様な製品を世に送り出していた特殊な時期であり、今では考えられないような野心的なコンセプトのモデルが数多く誕生している。

そこで、平成初期にあたる90年代初頭から2000年ごろにかけて新車販売されていたモデルの中から、とくに時代性の強いモデルを「平成レトロ」としてピックアップしてみた。

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トヨタ bB(初代)/トヨタ WiLL サイファ(初代)/日産 セドリック・グロリア(Y34型)/トヨタ プログレ(初代)/トヨタ クラウンエステート(初代)/三菱 デリカスペースギア(初代)/トヨタ エスティマ(初代)/日産 エクストレイル(初代)/ボルボ 850エステート(初代)/ホンダ エレメント(初代)
 

ホンダ エレメント(初代)|ゲームボーイっぽい鈍重スタイル

ホンダ エレメント▲初期のゲームボーイを思い起こさせる色とカタチ

今はゲームといえばスマホで行うのが主流だが、平成前期では専用のゲーム機に四角いROMカセットを入れてプレイするのが主流だった。当時の若者はスーファミやプレステ、ゲームボーイに夢中になったわけだが、今思い起こすとなぜかみんな色はグレー。

そんな“平成のゲーム機っぽさ”をまとうのがホンダ エレメントだ。

ホンダ エレメント▲リアにも樹脂パーツが広く用いられている

ライフガードステーション(海岸の監視台)をモチーフにデザインされたのだが、多用された無塗装の樹脂パーツはさながら初期のゲームボーイ。

その四角さと相まって、ポップなのに力強い印象を受けるというギャップ萌えの要素もイイ。加えて両側のドアが観音開きになっているというレアさももち合わせており、令和の現代にはない雰囲気をもつ車を探しているピッタリの1台と言えよう。

国内の販売期間が2年半と短かったが、中古車流通量は50台程度とそこそこある。ただし、他には代えがたいスタイルからファンも多く総額200万円近い金額の物件もある。

選択肢がある程度ある今のうちにアクションをしておいた方がいいかもしれない。

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日産 エクストレイル(初代)|G-SHOCKに通ずるタフギア感

日産 エクストレイル▲モデルによってはルーフキャリアにライトが付くものも!

エレメントよりも、さらにタフギア感を盛ったモデルが初代のエクストレイルだ。

都会派SUVというカテゴリーは、すでにトヨタ RAV4やホンダ CR-Vが先行していたものの、こちらは無骨なスタイリングで独自の存在感を発揮した。

FF仕様も用意されたことからも分かるように、見た目ほど中身はヘビーデューティーではないが、カーキ系のボディカラーを複数用意したり、防水素材をインテリアに用いるなど、カシオ「G-SHOCK」を思わせるタフギア感の演出はじつに巧みだった。

日産 エクストレイル▲車は使ってなんぼというアウトドア派にオススメ

中古車では150台程度の物件が流通しており、選択肢は豊富。

無骨さが増すシルバー、もしくはアウトドアで映えるアースカラーにオールペイントし直された物件なら、レトロ感はより◎だ。

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三菱 デリカスペースギア(初代)|ブラウン管TVのようなモコっとした重厚さ

三菱 デリカスペースギア▲視界が高く運転がしやすいのもオススメのポイント

タフギア感とミニバンの利便性を合体させた三菱 デリカスペースギア。

全幅に対して屋根がやたらに高い、水陸両用車のような異様なルックスだが、これはパジェロをベースにした車体でフラットなフロアを実現するため、床全体を上げ底にしたから。

そこからミニバンらしい室内高を確保した結果、かくも屋根が高くなってしまったというわけである。ただ、着座位置の高さがもたらす見晴らし性は随一で、ブラウン管TVのような重厚さも現代のミニバンにはない強烈な個性だ。

三菱 デリカスペースギア▲ボディに貼られた躍動感あるシールがレトロっぽさを引き立てる

それまで多人数用の乗用車といえば、前席の直下にエンジンを搭載するキャブオーバータイプの1BOXカーだったが、この時代からセダンなどと同じようにエンジンを前席の前に搭載して優れたドライバビリティと衝突安全性を実現したミニバンが登場する。

デリカスペースギアはその過渡期にあたり、エンジンを前席足元に搭載したセミキャブオーバー方式のレイアウトを採用していた。インパクトある佇まいは、そうした事情も大いに関係している。
 

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トヨタ エスティマ(初代)|車界のたまごっち

トヨタ エスティマ▲平成期、携帯ゲームのたまごっちが爆発的にヒットしたが、同じ卵型のエスティマも一時代を築いたヒットモデルだった

デリカスペースギアと同じミニバンでありながら、さらに丸みを増したデザインをもつ初代エスティマ。

元号が平成に変わった直後の90年に登場したモデルだが、いまも色あせない見事な卵型デザインはほとんどアートの領域。まるでフィリップ・スタルクのジューシーサリフである(こちらも90年登場)。

このスタイリングは直4エンジンを横倒しにして床下搭載した「アンダーフロアミドシップ」という革新的な車体レイアウトによってもたらされており、表面的な斬新さにとどまらないところがメカオタクの心もわしづかみにする。

トヨタ エスティマ▲全幅が抑えられたエミーナ。エンジンや装備はエスティマと同様

ミニバンとしての性能も当時は群を抜いており……というより当時の3列シート乗用車はまだ商用1BOXをベースにしたワゴンが主流。実質的なライバルは不在と言えた。

車体を少しコンパクトにしたルシーダ/エミーナと併せて大ヒットしたが、さすがに近年は物件数が激減。平成レトロとして楽しむなら外装がシンプルな初期型を大事に乗りたい。
 

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トヨタ WiLL サイファ(初代)|iMacのような平成的未来感を体現

トヨタ WiLL サイファ▲ベタな未来感が逆にレトロ

エスティマと同じように曲線が用いられているが、全く別の個性をもっているのがWiLL サイファだ。

縦に並べられた4連ヘッドライトをはじめ、自動車デザインの潮流とおよそ連続性を感じられない奇抜なスタイリングがとにかく目を引く。なんでこんな特殊な形になったかといえば、WiLL サイファの成り立ちがそもそも特殊だったからだ。

20世紀の終わりにトヨタや松下電器産業(現パナソニック)、アサヒビールなどの異業種数社が「WiLL」という合同プロジェクトを展開したことがあった。いわゆるニュージェネレーション層をターゲットにした製品を、各社がWiLLという統一したブランド名で販売しようという試みだ。

トヨタ WiLL サイファ▲中古車市場でもカラーバリエーションは豊富

WiLL サイファはトヨタのWiLLシリーズ第3弾として2002年に登場。当時リリースされたばかりだったトヨタの情報ネットワーク「G-BOOK」(今年3月に終了)を初めて標準装備することが最大のウリであり、車とネットワークが融合した21世紀のモビリティ像を(分かりやすく)で世に示すという役目が与えられていた。

スマホの普及によってG-BOOKの存在価値はなくなってしまったが、平成の「未来予想図」をストレートに具現化したスタイリングは、鮮やかなボディカラーも相まって、まるで初代iMacのようなノスタルジーがある。

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トヨタ bB(初代)|今はなきラジカセの雰囲気をまとうモデル

トヨタ WiLL サイファ▲令和の現代にはない潔いまでの四角さ

丸さを取り入れ“新しさ”をアピールした車があった一方、平成期にはそれとは真逆の超が付くほど角張ったスタイルのモデルも存在した。その代表的な存在が初代のbBである。

99年に登場し、世界的にも爆発的に売れたヴィッツのプラットフォームを使って作られた派生車種だ。いわゆるトールワゴンだが、当時の若者はこいつに「ワル」のニオイを敏感に感じ取った。

トヨタ WiLL サイファ▲平成ではやたらと光るCDコンポが流行したが、内装はそれと同じニオイを感じることができる

というのも、このモデルが登場する少し前は(ヤンチャな)若者の間でアメ車のカスタムがブームになっており、その中でもとくに人気を集めていたのがシボレー アストロだった。

上下に薄い角型ヘッドライトを採用した不敵な面構え、凸凹を極力廃したボクシーでロー&ワイドなエクステリアなど、bBの佇まいはどことなくそのアストロを連想させたのだ。

妙に健全になってしまった昨今のコンパクトカーとは、対照的なアクの強さをもつモデル。令和のヤンチャな若者にオススメしたいモデルだ。

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ボルボ 850エステート(初代)|シンプルで機能的な北欧スタイル

ボルボ 850エステート▲控えめなフロントグリルも平成っぽさを感じる

bBと同じく直線的なボディラインをもつが、シンプルで機能的というほぼ真逆のスタイルをもつのが850エステートだ。平成の一時期にステーションワゴンがブームとなり、中でも「ボルボ=四角い」のイメージがウケて人気モデルになった。

令和の今ではしゃれた家には欠かせない存在となっている北欧家具。その存在を広く知れわたらせたのが平成の中頃、日本に上陸したイケアだろう。

ボルボ 850エステート▲街中でも映える落ち着いた雰囲気

そのイケアと同郷のボルボによって製造された850エステートもまた、北欧家具同様に、過度に主張するわけではないがどことなく上品で整っていて好感がもてる。現代の車とは一線を画すが、ダサい古くささがないという絶妙なバランスをもつこのモデルは、ちょっと古い家具をリビングに取り入れられるような、レトロ好きのオシャレさんに推したい。

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トヨタ プログレ(初代)|「和」の質感にこだわりぬかれた小型高級車

トヨタ プログレ▲令和ではほとんど見られなくなった小型のセダンというスタイル

インテリなどは欧州的なものより、「和」の雰囲気が好みのという人にピッタリなのがプログレだ。

現代の高級車のように、グローバルな市場を見据えて作られることの多いモデルとはテイストの異なる「和」の贅沢さをリーズナブルに味わえる1台である。

一般的に車というのはボディサイズが大きくなるほど価格が上がり、装備も充実するというヒエラルキーのようなものがある。そんな中、プログレは日本の道路事情に適した5ナンバーサイズを守りつつ、FR+直6エンジンを採用した「小さな高級車」として生まれたモデルだ。

トヨタ プログレ▲本木目をふんだんに使用したインテリア

ホイールベースを目いっぱい長くとって室内空間を確保した合理的なパッケージングは新しかったが、保守的なエクステリアデザインに丸型ライトと縦型ライトをミックスした大胆なフロントマスクの組み合わせが災いしたのか、販売は予想ほど奮わず。平成の徒花として一代限りで消滅してしまった。

各部の仕上げは高級車のセルシオ並みで、とくに本木目の内装を奢ったオプション仕様「ウォールナットパッケージ」は文句なしの豪華さ。

物件数は極少だが、「イエローパールマイカ」をチョイスしてカジュアルに乗りたい。

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日産 セドリック・グロリア(Y34型)|応接室のような重厚感

日産 セドリック▲国産高級セダンの要素を継承していたセドリック(Y34型)
日産 セドリック▲こちらは兄弟車のグロリア(Y34型)

プログレとは同じく国産の高級モデルながら、和風というか、土着的というか、湿度が高いというか、昔ながらのニッポンのオヤジセダン感を体現しているのがセドリックとグロリア(Y34型)だ。(両車は兄弟車)

現代の新築住宅ではほぼ姿が見られないが、以前の日本家屋には応接間という客人を迎えるための部屋があった。雰囲気はさながら学校の校長室のようで、ゆとりある空間に重くて質の良さそうなソファが置かれていた。

99年登場の最後の「セド・グロ」は、そんな雰囲気をもつ平成的セダンだ。

日産 セドリック▲重厚感あるセドリックのインテリア

エクステリアは、ポルシェデザインがスタイリングの原案を手がけたといううわさがあったほど、モダンでクールなデザインとなっている。

どちらかというと、丸目4灯のフロントマスクを採用するグロリアの方が装飾が控えめでより端正だ。

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日産 グロリア(Y34型) × 全国
 

トヨタ クラウンエステート(初代)|絶滅した最後の国産高級ワゴン

トヨタ クラウンエステート▲大きく四角いヘッドライトの形も平成っぽい

セドリック、グロリアと同じく応接室的な重厚感をもつトヨタ クラウン。そのステーションワゴンがクラウンエステートだ。

「セダン並みのドライバビリティと広いラゲージスペースの両立」、そして先に挙げたような「重たさのある高級感」といった平成レトロ的な特徴は、SUV全盛の令和においていずれも求められるものではなくなってしまった。クラウンエステートはそのすべてを備える、平成的ワゴンの象徴と言えるだろう。

トヨタ クラウンエステート▲大きく四角いヘッドライトの形も平成っぽい

国産車からステーションワゴンのラインナップが消えた今となっては、FRを採用する本格派ワゴンというカテゴリー自体が平成レトロとしての価値がある。内外装の設えはクラウンそのもので、古き良き高級車の趣。分割可倒式のリアシートには(当時の)ステーションワゴンとしては世界で初めて電動リクライニング機構が奢られている。

トヨタ クラウンエステート▲2トーンの物件は中古車市場でもレア

平成レトロ感をより味わいたいなら、メーカーオプションで設定された2トーンのボディーカラー「フロスティホワイトトーニング」を選ぶのがオススメ。

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写真/ホンダ、日産、三菱、トヨタ、ボルボ