フォルクスワーゲン T-Cross▲手頃なサイズ感やポップなスタイルなどで人気のコンパクトSUVがマイナーチェンジ。質感の向上や、先進・運転支援システムのさらなる充実が図られている

日常使いをさらに快適にしてくれる数々の進化

それはマイナーチェンジで新しくなったT-Cross試乗前の技術説明会のこと。フォルクスワーゲン ジャパンの担当者によれば、2009年から国内登録台数においてシェアを伸ばし続けているのは、セダンやワゴン、ハッチバックやミニバンを差しおいて、SUVだけだとか。そして日本には2020年に投入されて以来、輸入車SUVとして3年連続でナンバー1の座を獲り続け、直近の2023年だけはトップから陥落したが、相手は兄貴分で先にマイチェンを済ませたT-Rocだったという。ここ4年ほど、輸入車SUVのほぼ3~4台に1台がT-Crossだったというから、圧巻だ。

では、なぜT-Crossはそんなに売れるのか? まずは全長4140×全幅1760×全高1575mm(TSI Rラインは全長-5mm、全幅+25mm)という、グレードによってはトヨタ ヤリスクロスよりもわずかにコンパクトなサイズ感だろう。

ポロをほうふつさせるショルダーのプレスラインは相変わらず少し凝りすぎている気もするが、新型では一直線のヘッドランプ内LEDからグリルバーLEDによって、よりはっきりしたフロントマスクになった。リアのコンビネーションランプも変更され、クロスをモチーフにして被視認性が高まっているだけでなく、T-Crossであることが分かりやすくなった。加えて、リアパネルのオーナメントも赤色LEDが真一文字を結び、全体的にシャープでより都会的なエクステリアといえる。いわば全体として、前期型がやや遠慮がちなSUVに見えたのに対し、新型は街乗りSUVとして、気負いなく主張してくる。

とはいえ、新型の美点は内装にある。リアシートが6:4分割可倒式でフル定員乗車時ミニマムでも455Lと、T-Rocをわずかに上回るラゲージ容量はそのまま。フルフラット時は1281L(T-Roc は1290L)とほんの少し逆転されるのだが。“実用性>スタイル”だったT-Crossがコンプレックスなく“実用性≠スタイル”に移行したことを示すのは、ダッシュボードの造作だろう。助手席の眼前でひときわ目立つ加飾パネルが、グラフィック入りの硬い樹脂ではなく人工レザー&ステッチの柔らかな素材に変わったのだ。

試乗したTSIスタイルに備わるシートは、デニム色ながらウールの杢目のようなファブリックと人工レザーのコンビ。T-Cross最大の弱点だと思われた内装の質感が、9.2インチのタッチディスプレイ周辺からエアコン関連の操作パネルを含め、ずいぶんとモダンにアップデートされた。

ちなみに、購買層は女性が約50%を占めているそうで、前列シートに装備されるシートヒーターのみならず、内装質感の大幅アップは潜在的需要をさらにブーストするはずだ。

パワートレインについては直列3気筒ターボ、最高出力116ps/最大トルク200N・mというスペック自体に変わりはない。ただし、圧縮比が10.5から11.4と上がってミラーサイクル化したことでより高効率化された結果だろう、カタログ燃費(WLTCモード)は16.9㎞/Lから17km/Lに向上している。7速DSGトランスミッションも、よく見ればわずかにファイナル側が伸ばされ、ほぼ似たアウトプットながら、その質は大きく変化しているのだ。
 

フォルクスワーゲン T-Cross▲灯火類や前後バンパーなどのデザインを変更。エントリーグレードのTSI アクティブ以外にはダイナミックターンインジケーター付きLEDテールランプが採用された
フォルクスワーゲン T-Cross▲ダッシュパネルにソフト素材を用いるなど、室内の質感を向上させている

試乗車はTSIスタイル。今回唯一の17インチホイール仕様で、マイナーチェンジ前の17インチ仕様よりもわずかにワイドな215/55R17を履いていた。いざ走らせてみると、微低速域から低速域にかけては、ちょっと踏んでワッと加速するようなフットワーク自慢ではなく、アクセルの踏みしろ多めの、柔らかくおうようなタッチだ。ただし、街乗りで速度がのってくると、ステアリングの手応えも身のこなしもキビキビ感は増す。もう少しフラット感が低速域でもあるとなおいいが、それにしても柔らかく滋味深い足の動きで、ドイツ車もソフトなキャラになったなぁという、時代の変化を感じさせられる。

高速道路の合流でがっつりめに踏んでみた。一瞬だけ思い出したような間を挟んで加速が始まるものの、鈍いと感じさせることはなく5000rpm前後まできれいに伸びる。3気筒とはいえ安っぽからず、素早い吹け上がりと芯が据わってきるような挙動は、さすがとしかいいようがない。ADAS関連についても、同一車線内なら全車速に対応する「トラベルアシスト」を標準設定しているなど売れっ子らしい。車線変更なしでクルーズを決め込むなら、流れていても渋滞でも、というシンプルな使い勝手の運転支援機能一式なのだ。
 

フォルクスワーゲン T-Cross▲軽量化と効率を追求した、最高出力116ps/最大トルク200N・mを発揮する1L 直3ターボを搭載

中間グレードのTSIスタイルが359万9000円、ピンキリとなるTSIアクティブとTSI Rラインは329万9000円と389万5000円だが、パワーユニットは3グレード共通なので、純粋にスタイルの好みだけで選ばせる、そんなグレード構成だ。ところで、オプションながら以前から用意されているbeatsサウンドシステムは、CMソングのアイナ・ジ・エンドのオリジナル曲の効果と相まって、あまりカーオーディオに興味がなかった層からまで含め装着率が高くなることだろう。

いずれにせよ、動的質感や内装は日常使いの負担を増やさない方向。黒子に徹しながらいい仕事をする職人肌の1L 3気筒ターボと、そのノイズに埋もれることなく(ややデジタルでひねり出した感ある低音とはいえ)歯切れよく聞かせるオーディオまで、今どきスモールカーとして必要欠かさざるポイントや魅力を、T-Crossはキチンと磨き上げてきた。
 

フォルクスワーゲン T-Cross ▲ボディカラーはグレープイエロー(写真)を含め4色を追加、計8色が用意される
フォルクスワーゲン T-Cross▲TSI アクティブ以外にはLEDマトリックスヘッドライト「IQ.LIGHT」を標準装備
フォルクスワーゲン T-Cross▲TSI アクティブ以外にはスポーツコンフォートシートを標準で採用、Rラインは専用ファブリックが用いられる
フォルクスワーゲン T-Cross▲後席はスライド機能を備えた分割可倒式シートを装着する
フォルクスワーゲン T-Cross▲ラゲージ容量は5名乗車時(通常)で455L、後席を倒せば最大1281Lまで拡大する
文/南陽一浩 写真/阿部昌也

フォルクスワーゲン T-Crossの中古車市場は?

フォルクスワーゲン T-Cross

2019年に登場したT-Crossは、フォルクスワーゲンで最もコンパクトなSUV。サイズ的にも近いポロと同じプラットフォーム(MQB)を採用する。SUVならではの高い着座位置による視界の良さや広い室内空間も魅力だ。

2024年10月中旬時点で、中古車市場には390台程度が流通。支払総額の価格帯は180万~400万円となる。スポーティな内外装の上級グレード「TSI Rライン」は40台程度が流通、2023年に登場した特別仕様「カッパースタイル」も数台が流通している。
 

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文/編集部、写真/フォルクスワーゲン ジャパン