▲スパイダー用であった短いシャシーを使い、当時はベルトーネに在籍していたフランコ・スカリオーネが手掛けたアルファロメオの傑作車 ▲スパイダー用であった短いシャシーを使い、当時はベルトーネに在籍していたフランコ・スカリオーネが手掛けたアルファロメオの傑作車

天才の作った調度品に触れるチャンスはなかなかない

その特徴であるボディデザインは見た目だけでなく空力特性を考慮したもので、当時の最先端技術が採用され、最高速度は約200㎞/hという高性能さを誇った。車のジャンルとしては高速ツアラーに分類され、ボンネットには虫除け用のプラスティックスクリーンを装備。1963年以降はエンジンを1.6Lに拡大するなど進化を続け、後にジュリアへとSSの名前を継承している。

徳大寺 昨年末に聞いていたけど今日はアルファロメオなんだって? 一発目からアルファロメオっていうのは縁起がいいね。エンブレムのモチーフは蛇とも龍ともいわれるからな。
松本 本当にぴったりですよね。蛇か龍か意見は分かれますが、僕は蛇のほうが西洋的でしっくりくるような感じがしますけどね。今日のモデルは巨匠もお好きだと思いますよ。
徳大寺 確かにアルファロメオはスポーツカーメーカーとして、大好きなブランドだな。
松本 20年ほど前に港区にあるイタリア車専門の修理工場で、若かりし僕が自分のアルファロメオのことについて工場長に聞いていて、そこに巨匠が現れた。初めてお会いしたときですね。
徳大寺 おー覚えてるよ!
松本 どうやらお目当ての車がそのお店にあるということで、ジュリエッタSS(スプリントスペチアーレ)を見にきてたんですよね?
徳大寺 そうなんだよ。本気で買おうと思ってたんだよ。スカリオーネのスプリントのスペシャルボディだからね。
松本 今回はその出会ったきっかけのジュリエッタSSですよ。
徳大寺 ジュリアでもジュリエッタでも僕はどちらでも構わないけど、今回は排気量が小さいほうな。アルファロメオはかなりの高級路線だったが、エントリーモデルとして1954年秋にジュリエッタスプリント、1956年にジュリエッタスパイダーを発売したんだ。 これは大ヒットを収めた。今回見に行くモデルはそのスペシャル版というわけだ。
松本 そういうことになりますね。今回は前にシトロエン GSでもお世話になったお店です。
徳大寺 あそこか。あのお店は個人的にすごく好きだな。車好きの雰囲気があるよ。お? 珍しいな。ルノー ドーフィンが止まってるぞ。
松本 間違いありませんね。
徳大寺 あるなぁ。ジュリエッタスプリントスペチアーレ。程度がまたいいなぁ。ここまで程度が良いのも珍しいだろう。
松本 これは、かなりのものですよ。僕はマフラーを見て震えがきましたよ。marmitte ABARTHですからね。marmitte(マルミッタ)はマフラーですが、このSSのエグゾーストマニホールドにはABARTHの打刻が入っているので、間違いありません。それだけでもオリジナリティの高さがわかりますね。マニアックな話になりますが、限られたスペースでエグゾーストを同じ長さにすることは至難の技なんですが、marmitte ABARTHは4気筒のパイプの太さを変えて同じ容量にしようとしたんです。現代ではかなり高価になりますよ。この当時ベルトーネはデザインは抜群でしたが、各部の作りに堅牢さはありませんでした。でも、繊細なところがまたいいのかもしれませんね。
徳大寺 話はベルトーネに戻るけど、作りの良さはピニンファリーナに劣るかもしれないがデザインはいいぞ。何たってこのスペチアーレのデザイナーはフランコ・スカリオーネだからね。彼は天才だよ。50年代から60年代、ヨーロッパで最もモータリゼーションが華やかな時代に花を咲かせたんだ。彼のデザインしたモデルは全部素晴らしいな。
松本 もともと航空工学を学んだ人ですからね。その後デザイナーとして注目を浴びますが、工学的なデザインを作ることができた人ですよね。想像だけのデザイナーではないところに説得力があります。現在のデザイナーが何人何十人で作るところを一人で創造するわけですから、当時の技術者とデザイナーは現在とはポテンシャルが違う感じがします。
徳大寺 ほんと、そうなんだよな。今のデザイナーにしろエンジニアにしろ歴史を知らなすぎるよ。もっとこういう車を見て感じて、真似しなくてもいいけど参考にしないと。ドイツのデザイナーなんか貪欲によく見てると思う。
松本 今日は車を見ながらのんびり時間が過ぎてますね。
徳大寺 そうだな。天才の作った調度品に触れるチャンスはなかなかないからな。そういう意味でもこういう趣味性の高いお店は非常に希少だよ。我々も感謝しないといけないな。

▲ジュリエッタ フロント
▲ジュリエッタ リア
▲ジュリエッタ エンジン
▲ジュリエッタ インパネ
text/松本英雄
photo/岡村昌宏