house ▲左がF355専用、右が日常使う車2台を収めるガレージ。F355用の扉は造作した手動の開き戸だが、右にはリモコン機能付きのシャッターが備わる

18歳から始めた"フェラーリ貯金"で手に入れた黄色いF355。そんな大切な愛車を収めるガレージハウスを建てるため、施主は5年にわたって、建築家と言葉を交わし続けた。建築家から提案されたのは、F355専用のガレージを備えた戸建てだが、最も重視されたのは家族の暮らしやすさだった。
 

リビングからはリアビュー、和室からはサイドビューを望む

前後のフードを大きく開けたフェラーリ365BB。18歳の時、地元でその姿に目を奪われたのが、施主のOさんがフェラーリ貯金を始めたきっかけだった。「それまでフェラーリというと"赤いF1マシン"くらいしか知識がなかったので『何だ、この車は!?』と慌てて本屋へ駆け込みました」とOさん。手に入れた清水草一氏の著書で、ようやくそれが365BBであることを知ったのだという。

この日から生活費を切り詰め、25歳の時に現在の愛車、F355を手に入れた。「清水さんの著書によく登場する横浜のお店で買いました。契約した帰りの新幹線の中で聴いていたラジオから、サッカーワールドカップで日本がゴールしたと、アナウンサーの絶叫が響いていたことを覚えています」その後結婚し、家を建てることを考えたOさん。ハウスメーカーや工務店を回った結果、依頼したのは建築家の花田順さんだった。

お互い車が好きで話が合うこともさることながら、「生活動線をしっかり考えてくれた」という理由が最も大きいという。「やはり家は人間がメイン。デザインが良いだけでなく、奥さんが料理しやすいとか、そういうことが大事だと思っていました」。

そんな奥さま思いのOさんは、家を建てるまで、花田さんと5年以上もやりとりを交わした。その間、花田さんはこんなリビングはどうかとか、具体的なプランの話は一切しなかった。「多くの施主は家に対して並々ならぬ思いをお持ちです。それを言葉で説明するのは難しい」と花田さん。だから言葉にならぬ思いを、何気ない会話の中から集めて積み重ね、施主にとっての理想像を探るのが花田さんのやり方だ。施主と5年以上のお付き合いになることはよくあるという。
 

house ▲リビングの畳が敷かれた部分からの眺め。イスではなく畳に腰を下ろす目線でF355のリアスタイルを眺められるよう計算されている
house ▲F355用ガレージの隣には人が集まれる大きな和室がある。ここからは愛車のサイドビューを眺められるように窓を用意
house ▲約10年前にフェラーリ貯金で購入したF355。多感な青春時代を貯金に捧げた施主は「今思うと、よく続けることができたな」と振り返る
house ▲黄色いボディが映えるよう天井と壁を黒色でまとめた。写真左の明かり取り用窓は、直射日光でボディを傷めないよう下部に備えられた
house ▲施主が手に入れたフェラーリに関する書籍の一部。『聖典版そのフェラーリください!』を熟読し、無事(!?)フェラーリ教に入信した

機が熟したのは2017年頃。あなたが求めていたのはこういう家でしょ? というように花田さんは初めてプランを提案した。それはF355と、生活用の車のガレージを分けたプラン。花田さんは、Oさんの奥さまに対しては「F355をオブジェとして見れば相当高価です。これを飾らないのはもったいない」と伝えた。

するとF355を購入するまでの経緯や、夫が自分のために間取りを重視していることを察していた奥さまも快諾したという。F355用のガレージを奥さまは「フィギュアケース」と呼ぶ。リビングや和室から愛車をのぞけるが、室内と直接出入りできるようにしなかった理由を花田さんは「わざわざ玄関から出て、扉を両手で開けることがフェラーリに乗る所作になる、という思いからです」。

念願の愛車と家を手に入れ、1度は燃え尽き症候群になったというOさんだが、つい最近「1度で良いから新車のフェラーリを買ってみたい」という新たな目標を見つけたという。奥さまの了解も得て、Oさんは人生2度目のフェラーリ貯金に挑んでいる。
 

house ▲生活しやすい間取りを考えた結果、この形になったと花田さん。ほとんどの空間が1階に集まった、片流れ屋根の壮麗な住まいになった
house ▲5.3mという天井高のリビングには、壁にボルダリングが設けられている。最近は子供たちが友だちを呼んで遊ぶことが増えたという
house ▲車に合わせて天井が低いF355専用のガレージ。その上に子供部屋がある。階段は通常より2段少ないため、リビングの家族と距離が近くなる
house ▲もう1つのガレージは直接室内と行き来できる。冬の厳しい秋田県では、外に出ることなく車に乗り込めることは重要。写真は施主の仕事部屋
house ▲キッチンからも生活車用ガレージへ直接出入りできる。雨に濡れず、冬は寒い思いもせずに買った物を車からすぐキッチンへ運べる
house ▲日常用ガレージからキッチンを通り抜けるとダイニングに。ガレージからは仕事部屋を介してもつながり、スムーズな動線で構成される

■所在地:秋田県南秋田郡
■主要用途:専用住宅
■構造:木造
■敷地面積:625.0㎡(約189.06坪)
■建築面積:238.56㎡(約72.16坪)
■延床面積:246.81㎡(約40.2坪)
■設計:花田 順+花田直子(花田設計事務所)
■TEL:018-823-2417

※カーセンサーEDGE 2021年12月号(2021年10月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
 

文/籠島康弘、写真/西川公朗(西川公朗写真事務所)、菅原 淳