名車「BMW 3.0CS」への憧れが人生を変えた。気付けば“最高に似合う大人”になっていた、とあるオーナーの話
2021/12/18

車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
輸入車への憧れを抱いた若かりし頃
大学生の頃、友人が所有するBMW 2002tiiを運転させてもらったのが人生初の“輸入車体験”だった。
BMW 3シリーズのご先祖様にあたるそのコンパクトなセダンは、自分が知っていたどんな国産車よりも速かった。「ベーエムヴェー(※当時のBMWの呼び名)ってのはすごいんだな……」と驚きつつも感心し、BMW 2002を手に入れたいと心底思った。
だがいつしか、学校の門前にある青山通りを時おり走っている「さらに美しいベーエムヴェー」に、心を奪われるようになっていく。
時おり見かけたそれは、西ドイツ(当時)では1971年に発売された2ドアクーペ、BMW 3.0CSという車だった。大学を卒業して企業に就職しても、オフィス街で時おり見かけるBMW 3.0CSへの憧れはつのるばかり。
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3.0CSへの思いがマックスに達した、後のオーナーとなる当時25歳の青年は、意を決してBMW専門店の門をたたいた。もちろん、憧れの車を買うためである。
だが、門前払いをくらう。
専門店の言い分はというと、
「この車はね、キミみたいなサラリーマンが買える車じゃないんだよ。もっとこう弁護士さんとかお医者さまとか、そういった人たちが乗る車で、サラリーマンには無理だよ」
ムッとした。だが、単にそれだけで事を終わらせなかった。
専門店の心無い言葉(いや、当時の時代背景からすると“事実に基づく忠告”か?)に発奮させられた青年はその後、2つの計画を真剣に考えた。
ひとつは、自宅近くの医院の駐車場でたまたま見つけた極上モノと思しきBMW 3.0CSを、何年かかっても構わないので「譲ってもらえる立場」になること。
もうひとつは、サラリーマンを辞めて「自分自身のビジネス」を興すことだった。
まず、「医院の駐車場にあった極上モノと思しき3.0CS」が、そこの院長氏の私物であるらしいことを知り、その医院の「患者」になることに決めた。
「いきなり訪問して、『初めまして。ところであのCS、僕に譲っていただけませんか?』なんて言っても絶対に無理じゃないですか(笑)。だから、まずはその医院に患者として通って、院長先生と親しくなることから始めたんですよ」
もちろん初診時から車談義になるはずはないが、何度か診てもらううちに、車好きの院長氏と車談義をするようになり、そしていつしか「先生。もしもアレを手放すことになったときには、ぜひ私に……」「あぁ、いいですよ」という関係性になっていった。
といっても、実際に院長氏が3.0CSを手放す気になったのは初診から7年後だったのだが。
▲まだ「西独(ドイツ)」表記の記録簿カバー。入っているのはBMWCCAのメンバーカード。どちらも今では大変貴重な品物だ憧れの車と歩んだ日々
そして、もうひとつの肝心の計画が、「自分自身のビジネスを持つ」ということだった。
会社員として10年弱の経験を積んだ31歳のとき、妻と2人で個人事業的なビジネスをスタートさせた。最初はもちろん苦労も多かったが、いつしかビジネスは軌道に乗り、1年後には株式会社として登記することができた。
それが1989年9月25日。そしてその日に、院長氏から無事譲り受けた1975年最終生産/1976年2月登録のBMW 3.0CSを、自身の名義へと変更した。
1970年代の青山通りをさっそうと駆けぬける3.0CSを初めて見た日から、10年以上の歳月が経過していた。
そのようにして手に入れた「夢の車」であるBMW 3.0CSは、当然ながら大切に扱われ、医院の駐車場にあったときの「フルオリジナルコンディション」が今も保たれている。
いや「保たれている」というより、「さらにブラッシュアップされた」と言った方が正確だろうか。
「先生から譲っていただいた1年後にはエンジンのフルオーバーホールをして、塗装も完全に剥いてからやり直して、11年前にはATのオーバーホールもやりました。ATはまた最近も壊れたのでオーバーホールしましたし、車庫保管なのでウッドやダッシュパネルの割れもありません。たぶんですが、日本で2番目ぐらいに(笑)コンディションのいいCSじゃないでしょうか」

世界遺産と呼んでも決してオーバーではない状態の1台ゆえ、もちろん“普段の足”的な車としてディーゼルターボの2代目フォルクスワーゲン ゴルフも持っていた。普段の移動は主にそちらでやっていたわけだが、だからといって3.0CSが“置物”だったわけではない。
「譲っていただいたときの走行距離が7.8万kmで、今が15万kmだから、けっこう走ってますよね。基本的には2人乗りのクーペですが、子供たちが小さかった頃は家族4人で、この車であちこちへ出かけましたしね」

補修部品も今なお普通に供給されており、購入時からずっと付き合っている腕利きの工場とも懇意にしているため、メンテナンスの不安はない。そしてもちろん、機械としての調子は相変わらずすこぶる良好である。
だが最近は乗る機会が減っており、高速道路を使う用事があるときだけ――例えば、10年前に膵臓がんで旅立ってしまった妻の墓参りに行くときなどに――BMW 3.0CSは出動しているという。
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▲ここ数年、ドライブの相棒を務める愛犬ジョン君。車に乗るのが大好きなのだそうだ
「(この車を)息子に譲ってやってもいいんですが、彼、免許持ってないんですよね。こんなに車好きな親父のせがれなのに(笑)。だから、もしもこの車の価値をわかってくれる誰かがいたら、お譲りしてもいいかな――と思わなくもないのですが……やっぱりこの時代の車が好きですし、車に限らずカメラや音響機器なんかも、今のデジタルのやつより、昔のアナログなやつの方が好きなんですよね。だから、うーんどうしようかなぁ……みたいな感じで、正直悩んでます」
▲カメラやオーディオ、時計を集めるのも趣味なのだそうだ。コレクションはどれも古き良き世代のアナログな品々だった
▲こだわりのカメラで撮ったこだわりの風景写真は、コンクール等での受賞歴も手放すか否か「悩んでます」と言うが、3.0CSについての愛情あふれまくりなエピソード各種を聞く限り、またご自宅で様々なアナログ系のお宝を見せていただいた限りにおいては、「この人は、なんだかんだ言いながらずっと3.0CSに乗り続け、そして愛し続けるんんだろうな」というのが、筆者の推測である。
わからないが、たぶん当たっているのではないかと思う。

自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。
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