ボルボ 240エステート

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?

アンティーク好きが出合った長く乗っていたい1台

アールヌーボーや古伊万里などの愛好家であった母の影響を受け、「アンティークとビンテージが大好きな小学生」というシブい少年時代を送った。

そして成長し、大手レコード会社に就職してからは出張先のニューヨークやロサンゼルスなどで様々なアンティーク品を購入し、自らのコレクションを増やしていった。となれば当然のように車も「その時々の最新モデル」ではなく、いわゆるビンテージ物に興味をいだくようになる。

「私みたいなアンティーク好きって車に関しても、1台の車に乗る期間がやたらと長いんですよね(笑)。だから、今までそんなにたくさんの車を乗り継いできたわけではありません。でも車もオートバイも、昔から大好きでしたねぇ……」

最初の車はマツダ ポーター バン。その後は2台のドイツ車を経て、結婚後は「妻が乗るためのもの」として赤いボルボ 940を購入した。ちなみに1998年に新車として購入したボルボ 940は25年が経過した今もなお、塙さんの奥さま専用機として毎日稼働している。走行距離は20万kmを超えた。

「で、彼女が赤いボルボ 940を買ってからしばらくした頃、私も思ってしまったんですよ。『自分も、やっぱりボルボ 240が欲しい……!』と」

ボルボ 240。ご承知のとおりその基本設計は1960年代までさかのぼることができる、1974年から1993年まで製造販売されたスウェーデン製のセダンおよびステーションワゴンだ。

「それでさっそく240を探し始めたわけですが、1999年当時ですでに、納得できるコンディションの中古車はなかったんです。それでなかなか買えずにいたのですが、2014年になってやっと、かなり程度のいい1991年式が見つかりました。で、購入したのがこちらです」
 

ボルボ 240エステート

かつて「ボルボ240が欲しい……!」と思ってから15年もの歳月が経過していた。しかし、思ったとおりその240のコンディションは良好で、幸運なことに、往年のボルボを的確に整備できるベテラン整備士を近所で見つけることもできた。それゆえ塙さんのボルボ240は走行20万kmを超えた今も、ほぼ故障知らずなままでいる。

だがそもそもなぜ塙さんは、15年がかりで探すほど「ボルボ 240が欲しい!」と思ったのか? その魅力とは、いったい何なのだろうか?
 

長く愛される秘訣があるモノには不思議な力が宿っている

「図体はデカいけど取り回し性能はいいとか、デザインが好みであるとか、あるいはすべてがアナログゆえに私の性に合うとか、いろいろあるのですが……長く残るモノってね、そのモノ自体に“生き残る力”が備わっているものなんですよ。そしてボルボ 240には、“それ”があったということですね」

今となっては32年落ちである塙さんのボルボ 240。一般的な車であればとっくに廃車になっていてもおかしくないお年頃である。だが、この240には「生きながらえるだけのエネルギー」が内在していて、だからこそ自分を含むすべての歴代オーナーはこの個体に傾倒し、廃車にしようなどとはいっさい思わなかったのだろう――と塙さんは言う。

「そのエネルギーというのは、もちろんボルボ 240という車自体の普遍的なデザインや、機械としての基本設計の良さから感じられるものです。でも決してそれだけではなく、この車を所有してきた歴代オーナーさんたちの“思い”というのか“愛”というのか、そういったものが、この車の各所から感じられるんです。ボンネットを開けるだけで『あぁ、この240は本当に愛されながら、ここまで生きてきたんだな』ということがよくわかるんですよね。めちゃめちゃ整備されてます。

そういった『人々の良き願いが積み重ねられた結果としてのモノ』であるからこそ、アンティークやビンテージの品々というのは時代を超えて後世に伝わりますし、このボルボ 240も、30年以上の時を経てなお元気でいる。私はこの車やアンティーク品の、そういった部分が大好きなんですよ」

アールヌーボーや古伊万里などの愛好家だった母は、常々言っていたという。「この品は今、たまたま私が所持しているだけだ」と。自分が好き勝手に扱っていい“所有物”ではなく、いつかまた誰かに預けるべきものなのだ――と。
 

ボルボ 240エステート▲シンプルで時代の流行に左右されない室内の作りもお気に入りだ

「そういった意味でね、私がコレクションしている様々なブリキのおもちゃなども、いつかはどなたかに寄贈するつもりです。私ひとりのモノではないんですよ。そしてこのボルボ 240もね、幸いなことに息子が『乗りたい』と言ってくれているので、いつかは彼に譲るつもりです。そして現在の走行距離が約20万kmですが、彼が、あるいは彼の子供が“走行50万km”を目指してくれたらいいな――なんて思ってるんですよね」
 

ボルボ 240エステート▲昔からコレクションしているブリキのおもちゃは自宅のいたるところをにぎやかに彩る
ボルボ 240エステート▲米国のビンテージショップで購入した戦前に作られたと想定されるラジオ

塙さんの自宅には3000年ほど前の縄文土器もあり、約800年前の鎌倉時代に作られた念持仏(個人が身辺に置き、私的に礼拝するための仏像)もある。

それらの品と違い、細かな機械部品の集合体であるボルボ 240という車はさすがにこの先3000年はもたないし、800年であっても99.99パーセント無理だろう。

だが「世代を超えての走行50万km」であれば、余裕でいけそうな気もする。

なぜならば、それに挑戦するだけの普遍的な魅力がボルボ 240という車にはあり、そしてこの個体を取り巻く人々の心の中には愛が、言い方を変えるのであれば“願い”が、確実に存在していると思われるからだ。
 

文/伊達軍曹、写真/早川佳郎

ボルボ 240エステート

塙さんのマイカーレビュー

ボルボ 240エステート(1991年式)

●年間走行距離/約4000km
●マイカーの好きなところ/レトロでアナログながらおしゃれさがあり、どんな風景にも合うところ。丈夫で頑丈で、長距離ドライブでも疲れない。いつも乗る人を幸福にしてくれます
●マイカーの愛すべきダメなところ/30年前の車なので塗装がやれてきたところ。でも再塗装せずそのままで味があって良いという人もいます
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/自分のポリシーがあって、おしゃれで人生を大いに楽しみたいと思っている人

伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。