【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】

車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?

試乗して即決した「ちょうどいい車」

新車には惹かれないけれど、アシとして使うのに旧車は心許ない。派手な車もキャラじゃないけど、車のデザインは大事。そう考えていた木谷さんにとって、96年式ランドローバー ディスカバリーは初めての車として「ちょうどいい」存在だった。

中古車情報を日々チェックしていた木谷さんは当初、ジョルジェット・ジウジアーロデザインのフォルクスワーゲン初代シロッコ、あるいはパサートの姉妹車であるサンタナといった角ばったデザインのセダンがお目当てだった。しかし、いずれも旧車とあって市場でのタマ数は少なく、「これだ!」という個体には出会えなかった。

そんなある日、カードローブという販売店のSNSで入庫情報を目にし、すぐに試乗を申し込んだのが、のちに愛車となるディスカバリーだ。第一印象で惚れ込んだ、というわけではないけれど、特に悪いところがない。前オーナーがレンジローバーの専門店で整備するなど大切に乗られていた個体のため状態も良好。それでいて相場を大きく下回る価格。なにより、90年代車特有の「ちょっと間抜けな」面構えに心惹かれた。

「元々好きな車ではあったし、実車をみたら『これでいいじゃん』って思えたんですよね。数時間後には別の試乗客もいるとのことで、その場で即決しちゃいました」

移動がリラックスタイムに。無音で都内を駆け回る

購入後、木谷さんの生活は一変した。どこへいくにも車移動となったのだ。日々の仕事はもちろん、息抜きのためのサウナ、そして海に、山にと車を走らせている。都心の狭い道を走るにはややオーバーサイズだと感じることもあるが、走り慣れたらそこまで苦ではない。

リフトアップされた2.1mの車高は駐車場を選ぶが、「都内の駐車場事情にはめちゃくちゃ詳しくなりました」と笑うとおり、日々都心を走り回る木谷さんの頭の中には平置きのコインパーキングがばっちりマッピングされている。

基本的には都市圏の移動のみにも関わらず1年で2万kmの距離をディスコとともにしているということからも、いかにディスコが不可欠な存在になったのかがわかる。一番の変化は、車の運転によって日々の「移動時間」が「リラックスタイム」になったことだろう。

「車での移動時間はいい切り替えになってますね。仕事柄、ひっきりなしに連絡が来るので、強制的にオフになれる時間は貴重なんです。なので、音楽とかもつけずに、ただただ無音で走ることも多いですね」

「ダメ」なところこそ、「愛着」に変わる

現行のディスカバリーはすっかり高級車という印象だが、木谷さんの所有する初代(フェイズII)のディスコはしっかり「タフさ」を感じられる武骨な面構え。オフロード車として生まれた車のため、ちょっとぐらいの傷は気になることはない。フロントバンパーには木谷さんの奥さまが運転時にぶつけてしまったという傷も残っているが、それすらも「ま、いっか」という感じ。むしろ、古着好きの木谷さんにとっては「自分が乗った証」になるのだという。

「新品の服にシミをつけちゃったらそりゃあ凹みますけど、古着なら味になるかなって思えるじゃないですか。この傷も新車だったら絶対に修理しなきゃって感じですけど、これはこれで味だよなって。買う前はあんまり考えなかったけど、そんな気楽な気分で乗れるのが古い車の良さでもあるし、ディスコみたいなタフな車の良さですよね」

車の良し悪しは、オーナーが車に何を求めるかで大きく変わる。「走る楽しさは薄れていくが『モノ』としての愛情は乗れば乗るほど高まっていく」というのが車を生活の道具として考える木谷さんの持論だ。

ディスコは30年近く前の車だけあって、もちろんいい面ばかりではない。消耗品の交換はもちろん、相応のメンテナンスは必須。1年間は不調なく乗り続けることができたが、最近はマフラーから異音が聞こえてくる。しかし、一見そんな「不便」こそが、愛着に変わる部分でもある。

「正直、燃費も悪いし、安全装備もない。メンテナンスも必要だしと良いところばかりではないんですけど、そういうダメなところが愛着に変わってくるんですよ。古い車にはちょっとした不便はつきもの。そういう不便さ楽しめる人にはオススメできる車ですね」

最近、木谷家には第一子が生まれた。購入時には妻と愛犬を乗せて走っていたディスコは、現在3人と1匹を乗せて都心を走り回っている。「無駄にデカい」と感じていた車は、木谷家にぴったりのサイズとなったのだ。購入時は2、3年で乗り替えることも頭にあったそうだが、今ではできるだけ長く付き合っていきたいと考えるようになった。

「今のライフスタイルにも合ってるし、家族が増えてもまだ余裕がある。しばらく手放せそうにないですね」。ちょうどいい車は、たった1年で欠かせないパートナーになったのだ。

文/高橋直貴、写真/トヤマタクロウ
ディスカバリー

木谷謙介さんのマイカーレビュー

ランドローバー ディスカバリー

●年式/1996年
●購入してからの走行距離/約20,000km
●マイカーの好きなところ/クラシカルすぎず、現代的すぎもせずなところ
●マイカーの愛すべきダメなところ/都内の道を走るには不便な大きさ
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/車と気楽に付き合いたい人、ちょっと雑になりたい人