走って楽しい「アルトワークス」ともお別れの時が……【アルトワークス編・東京スマート軽ライフ】
2016/07/04
自動車ライター、塩見智さんが軽自動車に約1ヵ月間乗り、東京での軽ライフをリポートする「東京スマート軽ライフ」。高級車が溢れる東京での軽ライフを赤裸々につづっていく。今回はアルトワークス編の最終回。
運転の楽しさは軽さにより実現
実はアルトワークスによる軽ライフをすでに終了し、次のモデルに乗り替えたのだが、アルトワークスに対する惜別の情は日に日に強まっている。今回、この最終回の原稿を書くことで自分の心を落ち着けるとともに、いったんアルトワークスへの思いを胸の奥にしまいこみたい。そして一日も早く次のモデルに100%集中できるようにしたい(←だいぶ大げさ)。
アルトワークスは登場当初から多数の自動車メディアに取り上げられたように、近頃の軽自動車としては久々に話題となった。どのメディアにも「速い」「スポーティだ」「運転が楽しい」などと書いてあったが、すべて同感。こんなに鋭い加速を味わえる軽自動車は初めて。とても新鮮だった。
速さの一番の理由は670kgという車重の軽さにある。最高出力を事実上64psに制限されている軽自動車でも速さを獲得することができるのだということを教えてもらった。軽くするといっても、マクラーレンじゃないのでカーボンパネルを多用するわけにはいかないし、同様にアウディやジャガーのようにアルミボディを採用することもできない。高価な素材を一切使うことなく軽量化を果たしたスズキのエンジニアには素直に頭が下がる。
会社としてはカタログ燃費の関係で少し世間を騒がせたが、燃費数値を水増ししていたわけではないし、信頼回復は十分可能だろう。車の燃費は走行の仕方などにより大きく変わってくるが、私の走らせ方による1ヵ月の総合的な燃費はトータルで約17km/Lだった。JC08モード燃費23.0km/Lとの乖離は大きいが、その一因は走らせるのが楽しい点にある。ついつい高回転まで回してしまい、その結果として燃費が下がってしまったのだろう。
苦労して獲得した軽さは速さだけでなくハンドリングにも間違いなく好影響を与えている。サスペンションはフロントがマクファーソンストラット式、リアがトーションビーム式と、多くのFWDのベーシックカーが採用するどうってことのない構造であり、またショックアブソーバー(振動を吸収する減衰装置)も特段高級なモノというわけではない。にも関わらず、この車がミズスマシのようにスイスイとコーナーを駆け抜けていくのは、軽さのおかげに違いない。右に切っていたステアリングを急遽左へ切り、そしてまたすぐ右へ……といった忙しい場面では、まれにステアリングのパワーアシストが一瞬途切れることもあったが、本当にまれなので辟易とするほどではない。
楽しい車はアルトワークスだけか
アルトワークスは楽しい。だが、乗って楽しい軽自動車は他にもある。ホンダ S660はその最たるもので、ダイハツ コペンも同様に乗って楽しい。けれど、S660やコペンには実用性がない。後ろにシートがない。荷物をほとんど積めない。一方、アルトワークスはS660やコペンに劣らぬ運転の楽しみを得られながらも、後ろにシートがあり(しかも足元は広大)、ラゲージスペースもある。リアシートを倒せば広大なラゲージスペースも得られる。ロータス エリーゼとルノー メガーヌR.S.みたいな関係か。
東京での軽自動車ライフはまだ1ヵ月が経過したのみだが、狭い道路や駐車スペースでの取り回しのよさをほぼ毎日感じることができたし、燃費の良さと高速料金の安さにも支払いの度に感心した。つまり実利の面では軽自動車はかなり優秀だということがわかった。では、モテたりモテなかったり、いわゆるスノビッシュな場所で引け目を感じるかどうかなど、ソフト面というか、程度の差こそあれ人間だれしもがもつ見栄の面でどうかについては、まだ感想を述べるほどの取材ができていないので、引き続き注視していきたい。
次回は売れ筋軽自動車、ダイハツ タントカスタムをリポートしていく。お楽しみに。
【筆者プロフィール】
1972年、岡山県生まれ。自動車雑誌編集部を経て、フリーランスの自動車ライターへ。軽自動車好き。SUV好き。「カーセンサーnet」をはじめ、「GQ Japan」「GOETHE」「webCG」「carview!」「ゴルフダイジェストオンライン」などにて執筆中。
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