ルノー アルピーヌA110

これから価値が上がっていくだろうネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】

クラシックカー予備軍たちの登場背景や歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。「クルマは50万円以下で買いなさい」など著書も多数。趣味は乗馬。

バルーンフェンダーを備えた、オリジナルに忠実な仕立て

——この頃は松本さんのお眼鏡にかなう車がなかなか見つからないのですが、たまたま都内のあの店にいい1台を見つけました。

松本 コレツィオーネさんね(笑)。どういうわけか不思議と特定のお店に名車&名車候補のいい車が集まってくる傾向があるよね。そういうお店がなくなってしまったら、日本のエンスージアストの裾野が広がっていかないんじゃないかな。どんな車があるかいつもチェックしてるけど、今日も興味深い車が多いね。シトロエン ID19には痺れるなあ。昔のフランス映画には欠かせない名脇役のルノー エスタフェット! なかなかお目にかからない1台だよ。他にも……。

——盛り上がってきましたね! 今回はこちらのルノー アルピーヌ A110です。

松本 A110、いいねえ。相当やる気ある1台だよ。年式は1971年。ロールケージも入っていて内装の趣味がいい。というより、非常にオリジナルに忠実だと思う。

——そもそもアルピーヌはどんなブランドなんですか?

松本 僕が知っていることで言うと、アルピーヌを作ったジャン・レデレ氏は幼い頃からモータースポーツとルノーに縁があったんだよ。彼のお父さまは車が好きでルノーに入社したぐらいだからね。さらに、港町ディエップで開催されたフランスGPを見たときに、この街が気に入って引っ越してきて、ルノーの代理店をしていたそうなんだ。アルピーヌの発祥地がディエップというのにはそういう下地があるんだよ。だから、息子のジャンにも生まれながらに車好きの血が流れていたというわけなんだ。

——そんな環境で育ったジャン・レデレ氏がアルピーヌを立ち上げるのですね。

松本 その後、彼は大衆車であったルノー 4CVを駆って様々なレースに出場していて、その縁でルノーとの関係が深まったんだよ。もちろん、レースの成績も素晴らしかった。有名な大会でいえば、伝説のレース「ミッレミリア」かな。なんと4CVでクラス優勝をしているんだ。

——ジャン・レデレ氏はレーサーだったんですね。

松本 さらに、彼にはビジネスセンスと運もあった。当時、最も大きかったルノー販売店の娘さんがフィアンセだったんだよ。そのおかげでレース資金に余力が出たんだ。そして、自動車の世界を熟知していたレデレは、“鬼才”ジョバンニ・ミケロッティに4CVベースでデザインを任せ、カロッツェリア・アレマーノにボディを作らせて勝利に次ぐ勝利を飾ったんだよ。最も活躍したレースシーンはアルペンラリーだね。そこから作られたブランドこそ「アルピーヌ」だったんだ。1955年のことだね。

 

ルノー アルピーヌA110
ルノー アルピーヌA110

——アルピーヌのヒストリーで本が一冊書けそうですが、このあたりでA110のお話をお願いできますか。

松本 アルピーヌがいかにすごいかということをどうしても知ってもらいたくてね……。A110の登場は1963年。この当時はクーペ、カブリオレ、2+2のGT4、ベルリネッタがあったんだ。そのラインナップは1970年頃までだったと思うんだけど、レースで好成績を続けるうちにベルリネッタだけになったんじゃないかな。さらに1970年からよりパワフルな1560ccのエンジンが搭載されるようになった。ラリー選手権で勝たなきゃいけないからね。なんたって、敵はポルシェなどだよ! ハードル高すぎるでしょう。

——確かに。それで、アルピーヌはさらにどうしたんですか?

松本 A110は太いパイプをセンターに通したオリジナルのバックボーンフレームに軽量なファイバーボディをまとって戦ったんだ。まさにレースで勝つために生まれたモデルだよね。A110は1977年の生産最後の年までラリーやヒリクライムで輝かしい成績をプロアマ問わず残したんだ。これはすごいことだよ! 本当ならもっと評価されるべき車だと思うな。

——ところで、この個体って1971年式じゃないですか。この年式のモデルはこんなにオーバーフェンダーだったんですか?

松本 これはバルーンフェンダーといって、おそらく当時のグループ4のパーツを組みつけたんじゃないかな。定かではないけど、いずれにしても貴重なオプションパーツだね。この形状のバルーンフェンダーだけど1974年のグループ4マシンに装着されていたのを見たことがあるんだ。1800ccまでスープアップしたモデルでね。この独特な柔らかいラインが印象的なんだよね。

——これもレース由来な仕立てなんですね。

松本 ちなみに手元の資料によると、ベルリネッタ一辺倒になった1970年からは1300Sから1600SXに改良。生産台数は1971年には1600と1600S合わせて601台だから、思った以上に作られているよね。また、1973年から1975 年に生産された量産モデルのA110のうち、最高出力を高めた1600SCSIが480台以上も生産されているんだ。当時の人気の高さがうかがえる台数だね。

 

ルノー アルピーヌA110

——軽量もポイントでしたよね?

松本 そうだね。軽量なボディにハイパワーユニットの組み合わせは、まさしく合理的なフランス人の好みだよね。ホイールをハブに結合するボルトを3本にするところにまでこだわっていて、軽量をいかに重視していたかが分かるんだ。

——パワーユニットの特徴もご存じですか?

松本 もちろん。1600SC-SIのパワーユニットはSAE規格で140ps、この1971年式モデルの1600Sは138psもあった。1600Sのグループ4のレースエンジンで172psだから、どれも想像するほどにはピーキーじゃないと思うよ。一見するとツインカムのように見えるパワーユニットはOHVユニットなんだけど、クロスフローの特殊な燃焼室とカムシャフトが上の方に装着されていることで、高回転でもプッシュロッドが歪みにくいという特徴があったんだよ。

——なんでそんなことまで知っているんですか?

松本 縁があって、この時代のエンジンを開けたことがあったんだ。1600とR8ゴルディーニの1300のエンジンなんだけど、燃焼室の構造にはたまげたよ。“魔術師”アメディ・ゴルディーニがチューニングした魔法のユニットだからね。そういえば、1600Sのベースとなったユニットを搭載しているルノー 16TSというモデルに乗ったことがあるんだけど、素晴らしいロードホールディングのFF車だったね。その乗り心地も、今なお凌ぐモデルがないくらい良かったよ。

 

ルノー アルピーヌ A110

ジャン・レデレが立ち上げたアルピーヌを代表するフレンチスポーツの象徴的名車。1962年に登場、軽量FRPボディとRRレイアウトを採用する。1965年からはゴルディーニがエンジンチューンを手がけている。1970年にはルノー製1.6Lエンジンを搭載、俊敏なハンドリングを武器にラリー界で活躍した。1977年に生産を終了している。

ルノー アルピーヌA110
ルノー アルピーヌA110

※カーセンサーEDGE 2026年5月号(2026年3月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

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ルノー アルピーヌ A110(初代)
文/松本英雄、写真/岡村昌宏