house ▲南側の中庭からの眺め。1階よりも2階の天井高が高いことがわかる。2階にあるリビングダイニングの天井高は約3.7mと開放感はバツグン。リビングから愛車を眺めることもできる
 

閑静な高級住宅街に相応しい、端正で荘厳なガレージハウス。しかし、その中に足を踏み入れると、複雑に空間が組み合わされ立ち位置によって異なる表情を見せる。しかも、国の省エネ基準より断熱性能が高いNearly ZEH。室内は年中快適な温度で、冬でも薄着で過ごせるような暮らしを楽しめる邸宅だった。
 

美しい車を置くために用意された専用ガレージ

“デザインする”という行為は、「美しさ」だけにとどまらず、「使いやすさ」など、その狙いを実現するために創意工夫することを内包している。

今回の施主は、タブレットを使った情報サービスのインターフェイスとしての美しさやサービス全体の使いやすさをデザインし、ビジネスとして成功させた会社の創業者であり、デザイナーだ。

一方で無類の車好き。父親が自動車関連の仕事に就いていた影響で、周囲にいつも車があり「物心がついた頃には世の中の車の名前がすべて言えたんじゃないかな」というほど、自然に車が好きになったという。

初めて購入したのはトヨタ AE86。以来、何台も乗り継いできたが、いろいろな角度から車を見て考えてきたという。例えば「この美しい車は誰がどんな風にデザインしたのだろう」「 売れているこの車はどこに魅力があるのか」「スマホの連携など車に搭載されているテクノロジーの進歩は、なぜ歩みが遅いのか」等々。デザイン、性能、商業的成果といった、あらゆる角度から車を見て考える。

「好きなモノだから余計、考えるのが好きなんです」。考えるだけでなく使ってみる。長らく考えてようやく手に入れたフェラーリ 812スーパーファストも、日々の通勤で実際に使い、自然吸気V型12気筒を楽しんでいる。
 

house ▲高台にあるため南から東側の眺望が抜けている。写真からも2階部分のL字の開口側が、直角よりわずかに大きく開いていることがわかる
house ▲赤いフェラーリ F8スパイダーの置かれているスペースは、愛車を眺めるための「特別な部屋」。中庭とは大きなガラスで隔てられている
house ▲「特別な部屋」には今後クラシックカーを置く予定。現在、メルセデス・ベンツ SL W113型をレストア中。眺めるだけでなく実際に乗るのが施主のこだわりだ
house ▲812スーパーファストとF8スパイダーの他にメルセデス・ベンツ G63と、アウディ RS Q8がある。RS Q8は主に奥さまが使う他、家族で旅行や食事に出かけるときに使用
house ▲「特別な部屋」の向こう側に設けられたテラスを見た眺め。逆もしかりで、テラスからは愛車を額縁に収めて眺めるような効果がある

そんな施主から設計を任されたのは、アドヴァンスアーキテクツの代表でもある建築家・松尾享浩さん。かつて同社のロゴやウェブをデザインしたのが施主だったことで縁ができ、お互い車好きということもあり、長年親交を深めてきたという。

施主からの要望は、家族構成と車を4~5台置きたいというもの。デザイナーに外観や内装について何も好みを言われないと、建築家としてはかえって怖じ気づきそうになる。ましてや高級住宅地で建ぺい率をはじめとした建築条件の厳しい土地。

そして、考え抜かれた邸宅は、水平基調で端正な外観とは裏腹に、内部はとても複雑な空間で構成された。例えば2階のL字型に配置されたリビングとダイニングは、直角に接するのではなく、わずかにLの開口部の角度が開いている。同様に中庭やガレージなども直角部分は少ない。直方体が少しずつ角度をずらしながら組み合わされているのだ。そのわずかなズレが、見る位置によって景色を変えてくれる。

光の差し方でも変化するため季節や時間、天候で表情が変わる。隅々まで計算され尽くされた邸宅。これには施主も「どこを切り取っても絵になります」と喜んだ。この邸宅は「2021年度グッドデザイン賞」やドイツの「ICONIC AWARDS 2021」など数々の建築デザイン賞を受賞した。

しかし、そんな受賞歴よりも、優れたデザイナーでもあり、車好きの施主からの賛辞こそが一番の勲章かもしれない。
 

house ▲G63は「いつかは欲しかった」という1台。旧型より現行型が好みだそう。このG63はシルバーのナイトパッケージで日本に1台きりの仕様
house ▲玄関ホールを見ただけでも、いくつもの空間が微妙にズレながら構成されていることがわかる。緻密な空間バランスが生活に変化をもたらす
house ▲撮影した車は4台だが、ガレージのシャッター手前にもゲスト用の駐車スペースが設けられている。ガレージの開口部は約6mと広い
house ▲玄関から見たガレージ。単に開口部や扉を設けるのではなく、乗る前の気分を高揚させるような額縁効果も狙って壁や床が構成されている
house ▲門塀に恵那石と杉板型枠コンクリート打ち放し、外壁材は塗り壁と石目調タイルと、異なる素材を組み合わせることで気品のある外観に

■主要用途:専用住宅
■構造:木造(SE 構法)
■敷地面積:333.32m²(100.8坪)
■建築面積:133.28m²(40.3坪)
■延床面積:266.31m²(80.5坪)
■設計:松尾享浩(METAPH 建築設計事務所)
■監理:アドヴァンスアーキテクツ
■TEL:0120-926-612

※カーセンサーEDGE 2022年3月号(2022年1月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
 

文/籠島康弘、写真/尾形和美