「来るべきAI社会を生き残るため」テリー伊藤がビンテージカーライフを提案
2019/06/19
「カワイイ」が車の存在感を大きく変える
今回は、「MARIN corporation」で出合ったフォード サンダーバードについて、テリー伊藤さんに語りつくしてもらいました。
~語り:テリー伊藤~
この時代のアメリカ車は、独特な雰囲気があります。このまま遊園地のパレードに登場しそうな感じですよね。だから僕は「パレードカー」と言ったりしています。
今回取材したサンダーバードは1956年式。いわゆるオールディーズな雰囲気になる前のモデルで、ベビーサンダーとかリトルバーズとも呼ばれていたものですね。
全長は4700mmで全幅は1800mm。現行型のシビックに近いサイズ感です。
若い頃にこの時代のアメ車に憧れていたのは僕よりも上の世代でしょう。1949年生まれの僕にとってはあまりにも浮世離れしたモデルでした。
若いときに憧れる車はもっと手が届きそうなところにあるものになるもの。僕の時代ではフォルクスワーゲン タイプ1やミニでした。
サンダーバードは、今の時代に軽自動車を買おうと思っている人がランボルギーニやフェラーリに乗るのを夢見るくらい現実感のない存在だったのです。
最近驚いたのは、若い人たちの間でビンテージのフォード ブロンコ(SUV)が人気になっていることです。
しかもアウトドア好きの男性だけでなく、女性からも人気があるそうです。これってすごいことだと思いませんか?
僕らの世代から今の40代くらいまでは、車を選ぶときに「カッコいい」を基準にする人が多いと思います。
ところが今ブロンコを支持している20~30代は、ブロンコが「カワイイ」から選んでいるそうです。
「カワイイ」はそのまま「KAWAII」という言葉で世界中に広がっていることはみなさんご承知のとおり。
ティーン向け女性ファッション誌が市民権を与えた「カワイイ」。もっと前なら、林真理子さんのデビュー作であるエッセイ『ルンルンを買っておうちに帰ろう』。
「カワイイ」に「ルンルン」。どちらもすごいパワーをもった言葉です。
車はもともと「カッコいい」が基本でしたが、価値感は一瞬で変わり、若者は新しく生まれた「カワイイ」を基準に選んでいるのです。
「カワイイ」には対象を身近な存在にする不思議な力がありますね。ブロンコだって「カワイイ」という価値感がなければ若者は飛びつかなかったでしょう。
もしかしたらこれもブロンコのように若者の琴線に触れるのではないか。今回サンダーバードを見たとき、直観的にそう感じました。
この時代のアメ車といえばどこかリーゼントっぽいイメージもありますが、20代の女の子が僕らには想像すらできないような価値感でこういう車を乗りこなす姿をぜひ見てみたいですね。
テリー伊藤なら、こう乗る!
もし僕がサンダーバードを所有したとしたら……きっと誰にも見つからないようコソコソ乗ります(笑)。
この車は何をどうやっても目立ちますからね。どこを走っていてもすぐ週刊誌に見つかってしまいますよ。おちおちデートもできません(笑)。
でもそういうことを気にせず楽しめるなら、柴又や深川といった下町、そして“小江戸”と呼ばれる川越や金沢など、古い日本の町並みが残る場所までかわいい女の子とドライブしたいですね。
そしてインスタ映えする場所で車と一緒に写真を撮りたい。アメリカを象徴する車で和風なカワイイを楽しみたい。想像するだけでワクワクします。
古い車を楽しむために必要なものは何か。僕は “妄想力” だと思っています。
車を買うとき、ほとんどの人は“現実”を見るもの。
でも古い車は現実を見た瞬間にどんどん乗れなくなってしまいます。
「壊れたらどうするの?」
「燃費は?」
「コインパーキングに止められるの?」
このような思考になってしまったら、選択肢は国産ハイブリッドカーしかなくなるでしょう。でも、
「買ったらどこを走ろう」
「走りながらどんな音楽を聴くと気持ちいいだろう」
と妄想を膨らませながらこういう車を見ると、ワクワクがどんどん大きくなります。
数年前、「あと10年でなくなる仕事」というのが話題になりました。
AIやIoTの進化により人間が必要とされなくなるという衝撃的なレポートは瞬く間に拡散されました。
本当にそんな時代が来ても人間がAIに勝てるもの。それが想像力や妄想力じゃないかと僕は思っています。
例えば猫カフェやレンタルおばあちゃんといったビジネスは、AIには絶対に生み出せないでしょう。
妄想や想像をかき立てるビンテージカーはこれからの時代にピッタリな車。
みなさんも古い車で妄想力を鍛えて、来るべきAI時代を生き抜く力を身に付けましょう!
フォード サンダーバード
古き良きアメリカを感じさせる、アメリカンクラシックモデル。初代サンダーバードは1955~1957年のわずか3年間だけ製造された。取材車両は1956年式で、1万5631台製造された。ボディはオープンになっていてハードトップが標準装備に。また、1955年式ではトランク内にあったスペアタイヤが、1956年式になるとトランク外に設置される形状になっているのが特徴。1957年式は再び車内にスペアタイヤを収めるようになったので、外に出ているのは1956年式のみとなる。取材車両にはハードトップの他、オプションのソフトトップも付いていた。搭載エンジンは5110ccのV8、トランスミッションはAT。
演出家
テリー伊藤
1949年12月27日生まれ。東京都中央区築地出身。これまで数々のテレビ番組やCMの演出を手掛ける。現在『ビビット』(TBS系/毎週木曜8:00~)、『サンデー・ジャポン』(TBS系/毎週日曜9:54~)に出演中。単行本『オレとテレビと片腕少女』(角川書店)が発売中。現在は多忙な仕事の合間に慶應義塾大学院で人間心理を学んでいる。
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