エコドライブ

2022年11月ラリージャパンが12年ぶりに開催となったWRC。雑誌『カーセンサー』2023年1月号特集企画では、かつて世界を驚かせたあの名車やその血統を引き継ぐ名四駆車の開発者へのインタビューを掲載している。

今回話を伺ったのは、三菱自動車の車作り携わる3名の方々。WRC参戦秘話や現在の車づくりにまつわる話をはじめ、紙幅の都合でこぼれてしまった話も含めてお届けしよう。
 

エコドライブ

ワンチームでWRCに挑んだからいい車が作れた

三菱のラリー向け4WD開発は大敗の経験から始まった。1973年、ギャラン16L GSで初のWRC参戦を果たした三菱は1977年まで世界と奮闘。一時撤退するも、4年後の81年に2WDのランサーで再びWRCへ参戦。

しかし、ここで4WDのアウディ クワトロに4分の大差をつけられて後塵を拝す。これが、三菱に4WDを中心に据えて戦うことを決定づけた。

ギャランVR-4がフルモデルチェンジするタイミングで、奇策に出る。

本来ならば生産されている量産車をベースにラリーカーを作るところ、ラリーで勝てる仕様の量産車をグループA のホモロゲーションを満たす2500台作ってしまった。それがランサーエボリューション、まさに勝つために生まれた車だ。

「誰もやらないチャレンジングなことをしようっていうのがありました」と振り返るのは、1989年から駆動系を中心にラリーカーの開発を手がけた先行開発技術部シニアの田中泰男さんだ。

ラリーカーチームと量産車プロジェクトは一丸となって勝つための進化を推し進めた。

「量産車の人は本当に協力的で、工場の人も休日出勤してラリーカーを組んでくれたり。本当にスピリッツを同じくしていた」

一方で改造可能な駆動系は、アクティブデフはじめラリーカー独自の開発を重ねていく。その熟成に貢献したのが、史上初の4年連続優勝ドライバー、トミ・マキネンだ。
 

エコドライブ▲WRCを走るランサーエボリューションⅥ

「アクセル開度は100パーセントかゼロ。左足ブレーキをガンッと使って、ハンドルはほとんど動かさずに荷重移動による駆動力差で曲がっていく。だから駆動力制御にはシビアでした。それからエボⅣでシーケンシャルミッションを入れたときは周囲には反対されたけど、マキネンさんは速くなるんだったらやるべきだと言ってくれた。『バックギアに入れることなんて考えてないですし』ってね(笑)」
 

WRCで鍛え上げられた三菱の4WD

「マキネンのドライビングはクレイジーですよ」と笑うのは、量産車プロジェクト側からランエボを支え、現在は開発フェローの澤瀬薫さんだ。ギャランVR-4、パジェロ、エボⅣ~Ⅹ、アウトランダーPHEVの4WD技術を開発してきた。

エボⅦに搭載された「ACD」の制御ロジックを構築する際には、「最初はラリー車に倣って、マキネン仕様の制御ロジックで先行開発をしました。そしたらね、誰も運転できなくて(笑)」、悩んだ末にこれまで構築してきた考え方に立ち返ったという。

「ドライビングとは車を通してのドライバーと路面との対話である」と澤瀬さんはいう。

「人間の操作に対して、車は必ず連続的にフィードバックを返しながら、予想したとおりに動いてくれるっていうのが理想。そのように制御を作り込むことがすごく大事です」
 

エコドライブ▲三菱が誇る車両制御システム「S-AWC」の特徴

1980年代から三菱が確立してきた理論に立ったうえで、制御の工夫を重ねるのだが、「もうそこまでくると理論の世界じゃない。三菱自動車がジープの時代から培ってきた現場力っていうかね、四駆はこうあるべきっていう人間の感覚なしには作れないんですよ」

その哲学は最新のアウトランダーPHEVにも脈々と引き継がれ、エボⅩに搭載された前輪左右の駆動力制御デバイス「ブレーキAYC」も取り入れた車両制御システム「S-AWC」へと結実している。「四駆が曲がりにくいということはない。曲がれないのは四輪の制御ができていないということ」と厳しくも潔く田中さんは言い、理想的な制御を実現させたものがS-AWCだと胸を張った。

「豪雨だろうが深雪だろうが泥の中だろうが、安心安全にお客さまがおうちに帰れる技術を用意することは、極限状態のラリーで刻々と変化する路面に対応しながら無事ゴールできるマシンを作ることとマインドは同じ」だと、先代からアウトランダーの取りまとめをしている製品開発本部SCVEの本多謙太郎さんは言う。

「現行アウトランダーは“三菱の技術全部乗せ”なんて言われますが、じつはそもそも先代のアウトランダーPHEVは、先行開発部のいわゆる技術屋が提案して始まったんです。ランエボやパジェロ、i-MiEVで培った四駆やEVの技術にモーター2つ付けて四駆性能も上げちゃえって」
 

エコドライブ▲こちらが現行型アウトランダー

かつてのランエボも、ラリーチームの技術屋がランサーに無理やりギャランVR4のコンポーネントを突っ込んで作った試作車から始まった。

「理想に向かって泥だらけになってやりたいことをやる、そういう車り作りが、三菱らしさなんだと思います。それにやっぱりラリーが好きな人間が多いですよ。だからドライブモードの試験なんて、みんな泥だらけになってやってました」と本多さんが言えば、澤瀬さんも「赤土に散水車で水入れて重機で混ぜて、最後はエンジニアがゴム長履いて耕して、そこでテストして議論してチューニングする。バカでしょ?」と愉快そうに笑う。

三菱に脈々と受け継がれるラリーの血は、最高に泥くさい。  

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三菱 ランサーエボリューションⅢ×全国

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文/竹井あきら、写真/三菱
竹井あきら

ライター

竹井あきら

自動車専門誌『NAVI』編集記者を経て独立。雑誌や広告などの編集・執筆・企画を手がける。プジョー 306カブリオレを手放してから次期愛車を物色しつつ、近年は1馬力(乗馬)に夢中。