▲1月下旬、長野県は女神湖にて日産の氷上試乗会が開催された ▲1月下旬、長野県は女神湖にて日産の氷上試乗会が開催された

氷の上だからこそ分かる、繊細な制御技術

氷上走行は、通常では考えられないほど車のコントロールが難しい。

凍った路面に対して、タイヤを通し『動力を伝える』ことはできても、その後、車を『思いどおりの方向に動かす』には絶妙なステアリング操作と細やかなアクセルワークが必要なのだ。

我々は、滑りやすい道を歩く際、自然と足には力を入れず“そっと”路面を確かめながら歩くだろう。これがまさに、絶妙で細やかな操作技術。人間は、無意識に緻密なコントロールを行っているのだ。

そしてこれらの動作は『安定した力を繊細に制御できる』からこそ成り立っている。

話を車に戻すが、ガソリンやディーゼルのエンジンは、空気と燃料のコントロールによって力を発揮するため、常に安定した出力にすることが難しい。もちろん、アクセルを踏んだ分だけエンジン回転は上昇し、それに伴い出力も増していく、ということに変わりはないのだが、その出力が『一定ではない』ため、氷の上では予想外の挙動となったり、その修正が大変であったりする。たとえ経験やノウハウがある者がハンドルを握ったとしても、操作は困難なのだ。

ところが、電気モーターはアクセルを踏んだところから力が安定しているため、経験やノウハウ、状況把握能力さえあれば、滑った際の対応がとれ、コントロールがしやすいのである。

▲凍った女神湖の上。まさに極限の路面である ▲凍った女神湖の上。まさに極限の路面である

さて、少々前置きが長くなってしまったが、以上のようなことを前提として、日産の2台のEVモデルについて感想を述べたい。

1台目は、エンジンを発電機にして走るノート e-POWER。用意されたコースは雪混じりであったため、アイスバーンのある一般道に近いような条件だ。

「e-POWER」は、レンジエクステンダー方式のEV。エンジンは、モーターの充電に必要な電気を供給し、走行自体はそのモーターで行う。

加えて特徴的なのが、「ワンペダル」というアクセルペダルのみで完結する操作方式だ。これの採用で運転操作はかなり簡略化された。販売の好調ぶりから察するに、この簡略化は、市場に受け入れられたといえるだろう。

氷上ではいかがなものだろうか。

滑りやすい路面で踏むブレーキほど、危ないものはない。今の車には「ABS」が搭載されているが、車の価格によって制御の細かさに差が出ていることは確かであり、事実、高価なモデルの方が優れている。

そういった差を実感していたからこそ、ノート e-POWERの制御には驚いた。

ツルツルの路面でとても細かな制御をかけ、グリップを作ろうと模索してくれるのだ。結果、とても上手に走る。

Photo:尾形和美

速度を上げコーナーに入ってみる。アクセルを緩めると、ぐーっと制動力が生まれ、ビックリするほど安全に曲がることができた。車が路面としっかり対話している証拠だろう。

我々のような専門家は、氷上・雪上での走行にある程度慣れているため、曲がる際には必要以上にステアリングを切って車を滑らせ、サイドブレーキを使いながらアクセルをコントロールし、いわば“強制的”にターンインさせることもある。

しかし、ワンペダルを使えば、そのような小技も必要ない。アクセルワークさえ丁寧にしていれば、容易に曲がってくれるのである。制動力が素晴らしい。自らブレーキでコントロールするよりも安心である。

▲ノート e-POWER ▲ノート e-POWER

そして、さらに絶妙なコントロールをしてくれるのが、日産の100%EVモデル『リーフ』だ。こちらも「ワンペダル」方式を採用している。

新型は、サスペンションなどの設定が変更され、システムもバージョンアップしているからか、ピカピカに磨かれ一層滑るコースでも、“曲がろう”と最大限努力してくれた。トラクションも安定して発生させるので、ステアリングを切ると、ノート e-POWERより積極的に曲がろうする印象だ。

一方で、動力がないリアは簡単に滑ってドリフト状態になることもしばしば。速度は徐行レベルであっても、それだけフロントにトラクションがかかっているということなのである。

▲新型リーフ ▲新型リーフ

ある程度の“慣れ”も必要であるが、ガソリン・ディーゼルのような既存の仕様に比べ、e-POWER・EVにネガティブ要素はない。

それどころか、ワンペダルによる「単純で自動的な操作」と「圧倒的な制動力」は、氷上のような悪路において一層の安心感を提供してくれるだろう。

今後は、同社のミニバン「セレナ」にもノート e-POWERと同様のシステムが採用される。

ホイールベースが長くスタビリティは高いが、その分、大きさと重量もかさむため、滑りやすい路面での急ブレーキにはさらなるリスクが伴うミニバン。今回実感したようなワンペダルの恩恵を受ければ、プラスαの安定感を発生させることが可能なはずだ。

また、ミニバンは室内空間が広いだけに、エンジン回転が上がると静粛性が低下する。e-POWERのプラントを導入すれば、この点も改善されるだろう。

このように、現行モデルの実力を実感できたからこそ、次期モデルへの期待感も高まるといったものだ。来年、この地でセレナ e-POWERを走らせるのが大変楽しみである。


【SPECIFICATIONS】
■ノート e-POWER
■グレード:e-POWER X ブラックアロー ■乗車定員:5名
■エンジン種類:直3DOHC(発電用)+モーター(駆動用)
■最高出力(駆動用モーター):80(109)/3008-10000[kW(ps)/rpm]
■最大トルク:254(25.9)/0-3008[N・m(kgf・m)/rpm]
■駆動方式:2WD ■トランスミッション:―
■全長x全幅x全高:4100×1695×1520(mm) ■ホイールベース:2600mm
■車両重量:1210kg
■車両本体価格:209万880円(税込)

■リーフ
■グレード:G ■乗車定員:5名
■エンジン種類:モーター
■モーター最高出力:110(150)/3283-9795 [kW(PS)/rpm]
■モーター最大トルク:320(32.6)/0-3283 [N・m(kgf・m)/rpm]
■駆動方式:FF ■トランスミッション:CVT
■全長x全幅x全高:4480x1790x1540(mm) ■ホイールベース:2700mm
■車両重量:1520kg
■一充電走行距離(JC08モード):400㎞
■車両価格:399.06万円(税込)

text/松本英雄
photo/尾形和美